02.
「あーあ、また檜佐木に先越されちゃったよ」
「ま、俺とみょうじとじゃ出来が違うからな」
「何それヒドイ」
わざとらしく泣く振りをするみょうじの頭を軽く小突く。
「でもまあ今年の一回生も気の毒だよね。こんな無愛想なのが引率だなんて……」
「でめぇ、そりゃどういう意味だ」
「べっつにー」
他愛ない会話が途切れることなく続いて行く。
その頃の俺は将来席官入りは確実と言われており、周りには変に俺に敵意をむき出しにする男どもか色目を使ってくる女どもばかりがよってくるようになっていた。けれど、みょうじはどこかそいつらとは違っていた。悪意がたっぷりと込められた嫌味をいうわけでもなければ、取り入ろうと媚を売ってくることもない。一人の友人として変わらず接してくれる数少ないうちの一人であるみょうじと過ごす時間は俺にとって最も居心地が良く、気がつけばほとんどの時間をみょうじと過ごしていた。
「おーい、檜佐木くん!そろそろ集合の時間だよ」
廊下で蟹沢と青鹿が俺を呼んでいる。もうそんな時間か。
「じゃあ行ってくるわ」
「気ぃつけてね」
「おう」
ひらひらと手を振るみょうじを背に二人のもとへ駆け寄る。
これが悲劇の始まりなどと、誰がこの時分かっただろうか。ひたひたと忍び寄る不気味な足音に気づかぬまま俺たちは現世へと歩を進めた。