【02】



タクシーは1時間程走ってからコンクリート住宅の前で停まった。料金を支払い車を降りればその建物の門を開ける蜜璃ちゃんに手を引かれ後に続く。そういえばパニック状態でどこに行くか聞いていなかった。


「蜜璃ちゃんここはどこ?」

「ここはね私が住んでいるシェアハウスよ!ここなら誰にも見つからないし安全だし…名前ちゃんのお家には戻れないと思って…」

「あー……そうだよね、私家に戻れないのかぁ…」


逃げ出すことに夢中で後のことなんて考えていなかった。彼と住んでいたあの家には帰れないし、結婚したら家庭に入るつもりでいたので会社も寿退社してしまった。私は好きな人と約束された将来も、家も、仕事も、全て失ったのだ。


「私もしかしなくても大ピンチだよね…?住むところも仕事も何にもない…」

「そうだわ!名前ちゃんもこのシェアハウスに住んだらどうかしら!」

「えっ!」

「それに今ちょうどハウスメイドさんを募集しているのよ!働きながらここに住めるわ!」

「ちょっと待ってそんなにおいしい話がこんなタイミングであるものなの!?」

「とりあえず入って!中でゆっくりお話しましょう!」


思ってもいなかった救いの手に思わず声を荒げてしまった。蜜璃ちゃんが出してくれたスリッパを履き長い廊下を歩けばとても広く大きな部屋に案内される。


「ここが共有リビングよ!ちょっと座って待っててくれる?ちゃんと戻ってくるからね!」


そう言えばパタパタと慌ただしく部屋を出て行く蜜璃ちゃん。ポツンと残された私はウェディングドレスの裾を引きずりながらソファに座り大きな溜息をつく。これからのことを考えてどうしたものかとうーんと唸っていると、ドアが開く音がして顔を向ければそこには蜜璃ちゃんじゃなく、銀髪のどえらいイケメンが立っていた。


「あーー…こんにちは、お邪魔しています?」

「どーもーこんにちは、ごゆっくり?」


念のため挨拶をしておいた。挨拶は大事だからね!じゃなくて、いきなり自分の住んでいるところにこんな姿の女が居たら不信感だよね。だけどイケメンは構わずにキッチンの方へ行き何か手を動かしていた。


「お茶でもどうぞ。」

「あ、どうも、お構いなく…」

「いや無理があるだろう、ツッコミどころ満載だぞ…?」

「うっ…」


ですよねぇ〜!目の前にあるローテーブルにグラスを置いた後向かいのソファにドカっと座り自分の分のお茶を飲むイケメン。あれ座っちゃうの?なぜ?すごい見られてる…めっちゃ気まずいんですけど…!!蜜璃ちゃん早く戻ってきて〜!


「ごめんね名前ちゃんお待たせ!あら宇髄さん!」

「よう。」


私の想いが通じたのか蜜璃ちゃんが戻ってきてくれてイケメンと軽く言葉を交わす。やっぱりハウスメイトの方なのかな。特に彼のことは気に留めることなく蜜璃ちゃんは可愛らしい笑顔で私にこう言った。


「名前ちゃんも今日からこのシェアハウスで暮らせることになったわよ!」

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