【15】



「起こすべきだろうか!!」

「声抑えろォ煉獄…」

「どうせ宇髄が苗字さんを酔い潰せたんだろう。節度のない共有スペースの使い方は控えてもらいたいな。大体宇髄は…」


オイオイ聞こえてるぞ伊黒、ネチネチとな。だが反論せずに俺は寝たふりを続ける。昨日の夜のことはよく覚えている。俺が土産にもらった地酒セットを飲み比べしようとテーブルの上に氷やらつまみやらを用意して乾杯と1杯目の酒を飲み終わった頃、名前はベロンベロンに酔った。そりゃもう言葉通りベロンベロンよ?


「うっへっへっ〜天元これおいっしーいね!?」

「声デカいぞ煉獄かよってか顔真っ赤なんだけど。え?これ1杯目よ?お前派手に酒弱すぎない?」

「何言ってんのぉもう5、6杯は飲んだでしょ!どのお酒が一番好きだった?私はねぇ〜」

「いやだからこれ一杯目な!?」


飲酒初めてか?ってくらい顔を真っ赤にしてフラフラと身体を揺らしてる名前。酒に弱いなら最初から言えよ!俺が引いているのもお構いなしに本人はニマニマ笑いながらつまみのチータラを食べている。


「まぁお前が楽しそうにしてるならいいけどよ…」

「えー?楽しいよ天元との晩酌!」


へらっと笑いかけてくる名前。そういえばこんな楽に腑抜けて笑ってるところあんまり見たことねぇな。ここの生活を始めて数ヶ月経つがまだ気張ってるところあるんだろうな。潰れたとしても部屋に運んでやれるしまぁ物は試しにと2杯目の酒を注いでやればやったーと喜びすぐに口にし、グラスを空にすることなく早々に寝落ちしやがった。


「なんだよ2杯目のお前は寝落ちかよ!!」


俺のツッコミにも反応することなくソファに深く座ったまま眠った名前。お気楽なのか気重なのかわからねぇヤツだな。しょうがねぇとひとりで酒を注ぎ足しテーブルの上の端っこに追いやられていたリモコンを手に取り何かしら映画のディスクが入ってるだろうと思いデッキのスイッチを入れる。映画を見始めてから数十分経った頃に名前の体制が崩れて来てずるるるとソファから落ちていく。


「なんだよお前、っとに手掛かるやつだな。」


俺たち以外部屋には誰もいないし起きているのは俺だけだが笑いながら言葉に出してしまう。名前の両脇に手を入れおいしょと持ち上げソファに座り直させてやる。


「んん〜…」

「お?起きたか?部屋戻るか?」

「ん…うーん…」

「ははっどっちだよ…」


よしよしと頭を撫でてやればこてんっと頭を俺の腕に預けてくる。寒くならない様にソファの背もたれに引っ掛けてあったブランケットを掛けてやる。すやすやと眠る名前の顔を見て数ヶ月前は結婚詐欺に遭いそうだったくせに男の前でちょっと無防備すぎないか?そういうところじゃね?隣が優しい神でよかったなと言いたくなる。
身体の片側に感じる温かい名前の体温。酒もいい感じに回ってきてこっちまで眠くなってくる。寝落ちしても他の奴らが朝共有スペースに来る前に起きなきゃだしな、今のうちに部屋に運ぶか、いや少しだけ寝てからでもいいか……と考えているうちに俺も寝ちまってこいつらに見つかる朝を迎えたってわけだ。しかも寝てる間に1枚のブランケットを2人で掛けて隙間なくギュギュッとくっついた状態に変わったらしい。めちゃくちゃめんどくさいがいつまでも寝たふりはできないからな…俺は奴らと目を合わさずにゆっくりと身体を起こす。


「やっぱり狸寝入りかよ宇髄ィ。」

「おはよう宇髄!!!」

「これは一体どういうことだ宇髄。甘露寺の親友の苗字さんに何をしたんだ、彼女はな」

「あーーーうるせぇうるせぇうるせぇ、酒飲んで寝ちまっただけだよ!いいかこのこと名前には言うな、コイツのことだから気まずくなってシェアハウス出て行くべきかもとか言いかねないぞ。その分俺がイジられるからよ…頼むわそこんとこ。」


そう言って俺は奴らの反論が来る前に足早に共有スペースから出て自室に向かう。ソファで座ったまま寝たわりには身体はそこまで痛くないし、名前と寄り添って寝るのは心地よかった。きっとアイツが子供みたく体温が高くてぬくぬくしてたからだな。もしもまた名前が落ち込んだり不安になったときは隣に座って酒を呑んだり、今度は一緒に映画を観たり、そうしてやろう。またそのまま2人して寝てしまってもいいかもしれない。またみんなに揶揄われるのはちょっとウザイけどな、お前の不安が少しでも紛れるならそれでいい。なんて柄にもないことを思った。

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