【14】



不死川さんはご飯を食べ終わるとそそくさと自室へ戻ってしまった。私は後片付けをしてお風呂に入った後、長い溜息をひとつ吐きカレーを保存容器に入れ分けていた。

不死川さんのことは本気で好きだったわけではない。ここ最近でちょっと気になるなとか、優しい人だなぁいいなぁとか思っていたぐらいだ。だから別に不死川さんに恋愛対象として全く意識されていなくてもショックではなかった。ただ私は嬉しかった。数ヶ月前は一生を添い遂げると思っていた男に散々な目に合わされてもう恋愛なんてできないと思っていた。だけどそんなことを1ミリも思い出すことなく不死川さんにドキドキする気持ちを持てた事がすごく嬉しかった。私はまだ恋愛ができるんだ、と希望が湧いた。だけどそれも始まる事なく終わってしまって、また不安が舞い戻って来た。
この先私はずっとひとりぼっちなのか、また誰かと付き合えても騙されて終わるんじゃないか、ひとりで生きていくならここでフリーターでいるわけにいかない、親に申し訳ない…様々な不安が心に押し寄せる。


「おいなんだこの食欲をそそるスパイシーな匂いは!!腹減って来た!!」


リビングのドアを音を立てて開けるなり帰ってきた天元が大きな声で騒ぎ始めた。手を止めて考え込んでいた私は大きな音にも声にも驚いて手に持っていたおたまを調理台の上に落としてしまった。落ちたおたまを見つめたまま返事をできずにいたら天元が隣へやって来た。


「おい名前、大丈夫か?」

「私………私いつかまた誰かのこと心から好きになって、結婚もできたりするのかな…。好きな人のお嫁さんになって家族を作って歳取っていきたかったな…ずっとひとりになるなんて思っていなかった…」


何も考えずに口にした後ハッとして我に帰る。気まずくなって天元に顔を見られない様に俯いて汚してしまった調理台を布巾で拭く。


「何言ってんだろうね私!今日は疲れちゃったのかな!早くこれ冷蔵庫に入れて寝な…くちゃ…」
 

忙しく動く私の手に大きな天元の手が重ねられて動きを止められる。さっきより私の近くまで来た天元から彼がいつも付けている香水の香りがする。別に好きな香りとかじゃなかったのに今はこの香りにひどく安心感を覚えた。


「お前はまた誰かのこと本気で好きになれる。お前のことを本気で好きになる奴も現れる。ちょっと前はそりゃやべぇ男引いちまったと思うけど、それでお前が終わったわけじゃねぇ。だからそんなセンチになるな。なっ?」


もう片方の手で私の頭をくしゃっと撫でてくれる手付きが優しくて鼻の奥がツンっとする。ズズッと鼻をすすれば天元から笑い声が聞こえる。


「ったく泣くなよ!実際はそんな深刻じゃねぇんだよ!ほら鼻水拭いてやるよ!」

「ちょっやだそれカレー拭いてた布巾だから!顔につけないでやめっ天元!!」


頭に置かれていた手でしっかりと頭を掴まれて布巾を顔の側に近づけて来るも実際には当たらない様にしてくれているのがわかって涙腺が緩くなってる私はまた鼻の奥がツンっとした。


「カレー食っていい?今日は呑んでばかりで飯食ってないから腹減ってんだ。」

「しょうがないから食べさせてあげよう!用意しておくからお風呂でも入って来たら?」

「おうっサンキュ。あとで土産でもらったご当地地酒セット飲み比べしよーぜ!」

「何これすごーい!飲む!」


天元からお酒の入った重い土産袋を手渡されて笑顔で天元を見上げれば彼は眉を下げ微笑み私の頭をひと撫でして部屋を出て行った。

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