【07】



シェアハウスから少し離れた所に駐車場があるらしく、玄関前で待っていろと宇髄さんに言われ大人しく待っている。断る隙もなくこれから荷物を取りに行くことになったけど、正直とても怖い。もしも元彼が家に居たら?あのサイコな奥さんが居たら?あのとき出された小さな刃物を思い出して冷や汗が出る。


「おーい乗れよー。」


目の前に車が停まったことが気付かなかったぐらいに考え込んでいたみたいで、慌てて車に乗り込む。軽トラックに乗っている宇髄さんは背も高く身体も大きいので、なんだか窮屈そうで少し可愛く見えて少し笑ってしまった。


「何笑ってんだよ。」

「いや、窮屈そうだなぁっと思って。どうして軽トラなんて持っているんですか?お仕事で使っているんですか?」

「そうそう、俺芸術家って言ったろ?大きな作品とか資材運んだりするのに必要なんだよ。」


宇髄さんは芸術の神と言っていたけどどうやら本当に芸術家だったらしい。今度どんな物を作っているか見せてもらおうかな。
他愛ない会話は元彼と住んでいた家が近付くにつれて無くなっていった。心臓がバクバクするのを胸に手を当てて落ち着かせようとする。


「大丈夫か?」

「……ごめんなさい、大丈夫です。宇髄さんついてるし、何かあればマッチョの宇髄さんを前に出して…」

「おいおい派手に盾にする気満々じゃねぇか。」


そう大丈夫、私はひとりじゃない。車をマンションの下に停めて2人でベランダ側が見える方に回ってみたが、幸いなことに電気の明かりは付いていなかった。少しだけホッとして部屋に向かう。鍵を開けゆっくりとドアを開けば中の様子を窺うが人の気配はなかった。


「居ないみたいです…」

「よし、じゃあさっさと運んじまおうぜ。」


お邪魔しまーすと私より先にズカズカと家の中に入り明かりを付けていく宇髄さん。呆気にとられてしまいそうだったが、ドアを閉めて念のため鍵とチェーンを閉め、私も今朝までは自分の家だった部屋に入る。


「何か運ぶ家具とか家電はあるか?」

「いえそういうのは全部置いていきます。シェアハウスに揃ってますし、服とか私物だけにします。」

「そうか、何手伝ったらいい?」

「そしたら寝室のベッドに服を出していくので、ぐちゃぐちゃでいいのでゴミ袋に詰めて貰えますか?お願いします。」

「おうよ。」


そう言えば寝室に向かい持っていく服をクローゼットからどんどん出していく。宇髄さんが服を詰めてくれている間にリビングや洗面所から自分の私物を旅行用のスーツケースに詰めた。元彼と2人で揃えたものや思い出の物はいらない。全部ここに置いていく。終りにするんだ。家具家電も持っていかないので自分の物だけを纏めてみると量が少なくて、ひとりになることを少しだけ寂しく感じた。
何往復かしないと車まで荷物を運び切らないと思っていたのに、宇髄さんはあれもそれもと荷物を涼しい顔して持ってくれたので往復2回程で全部荷物を積み終わった。最後に忘れ物はないか確認して回っているとき、彼のクローゼットの前で立ち止まる。そっとドアを開けて中を見てみれば、以前は中に置いてあったあのお面とマントはなかった。今日の結婚式のために持ち出しているんだ。そう考えるとゾッとした。そのときおいっと後ろから宇髄さんに声をかけられ肩をビクッと震わせてしまった。


「大丈夫かぁ?忘れ物なかったか?」

「はい、大丈夫です。もうあれで全部です。」

「そうか、じゃあ家に帰るぞ。」

「家……」


結婚を前提に住み始めたこの家で妻になり主婦になり、いつか子供を産んでいたかもしれない。自分の居場所だと思っていた、そんな将来を想像した家は嘘と恐怖の場所でしかなかった。3年以上もの間彼を信じて過ごしてきたのに騙されていたその時間は戻ってこない。華の20代のうちの3年をそんなことに費やしていたかと思うと悔しくて涙が出てきた。


「お前泣きすぎなー!大丈夫だって、立て直せない人生なんかねぇんだよ。」

「ごっごめんなざいっう"ずいざぁん"!」


そう言い私の頭を少し乱暴にガシガシと撫でてくる宇髄さんが優しくて私はぶわぁっともっと泣いてしまう。それにイケメンから頭を撫でられて恥ずかしくて鼻水まで出てきたら汚いと宇髄さんから冷めた顔で見られた。立て直せない人生なんかない。それは今の私にとってとても心強い言葉だった。

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