【全ての涙が悪ではない】


「炎の呼吸 壱ノ型不知火!」

「涙の呼吸 三ノ型歓喜溢流!」


無限列車戦からかなりの月日が流れた。俺はあの戦いで左目を失い身体の至る所に重傷を負った。意識を取り戻すのも再び鬼殺隊の隊士として任務に復帰するのも数ヶ月かかった。それでも胡蝶や周りの隊士達は俺の回復力に驚いていた。胡蝶は俺が本当に人間なのか疑う程の回復力だと言っていた。柱としてあり続けるため片目の視力を失った状態でどう戦っていくか鍛錬や修行を重ねた。以前の炎柱として全て元通りの力を取り戻したとは言えないが、片側の視力を失ったことで以前より鋭くなった感覚を持つこともできた。そのおかげで俺は今も炎柱として任務を受けることができた。
今夜の任務は泣柱の苗字名前との合同任務だった。上弦の鬼になると言い張っていた相手の鬼の血鬼術は厄介なもので自分の分身を好きなだけ増やすことができるものだった。数を増やせばそれだけ一体一体の鬼の力が分散されるのかと思っていたらどうやらそれは違ったらしい。しかも分身の鬼の頸を切ったところで本体の鬼にはなんの影響もなかった。おかげで複数名の隊士が帰らぬ人となっていた。そこでこの任務に呼ばれたのが俺たち二人だった。


「このままだとキリがないな!鬼の本体を見つけて頸を斬らねば!」

「そうは言ってもどれが本体なのか…待って。あの鬼だけさっきから攻撃を仕掛けて来ていない。この場の様子を把握するために離れたところからずっと見ているだけ!煉獄さん!!」

「ああ!」


苗字の言葉を聞きすぐに本体の鬼へと近付く。俺へ寄ってくる分身の鬼達は彼女が斬り倒していく。素早く間合いを詰めたときに分身の鬼達が本体へと戻り鬼が巨大化し大きな一撃を繰り出して来た。苗字と二人で攻撃を避けるため鬼から距離を取ったおかげで攻撃を受けずには済んだ。


「なんて厄介な血鬼術なんだ…」

「分裂も巨大化もできるなんて……。あの、煉獄さん。」


彼女が戦闘中とは思えないほど小さい声で俺を呼ぶ。顔を向ければ随分と悲しげな顔で俯いていた。


「どうした苗字、怪我でも…」

「違うんです。私あの鬼の頸を斬れます。今すぐに。ただ煉獄さんにお願いがあるんです。貴方に触れてもいいですか…?」

「俺に…?」


控えめに手を伸ばしてくる彼女の手を少しだけ戸惑いながら手を取ればそのままそっと俺の胸元に飛び込んでくる。驚いたのも束の間、ありがとうございますと言えば一瞬で俺から離れ鬼の元へと飛んで行く苗字。


「涙の呼吸 伍ノ型悲恋涙流」


技に必要な威力や素早さ強さ、全てを完璧に兼ね添えたその技に鬼の頸は斬られ落ち灰となって消えていく。苗字はその灰をみながらぽろぽろと涙を流した。彼女が使う呼吸は涙の呼吸。彼女の感情によって流れる涙で技を繰り出す変わった呼吸の使い手だった。刀も縦半分が透き通るような透明に近い色に姿を変えていた。
そんな苗字と俺は俺が無限列車戦で負傷する前はそれなりに仲が良かった。文通もしていたし日が合うときは一緒に鍛錬をこなし食事を共にした。だが俺が負傷後に意識を取り戻した際に一度蝶屋敷へ顔を見せた後、彼女が俺のところへ再び訪れることも文通を寄こすことも一切無くなってしまった。次に会ったときは柱合会議の際で会議が終わるなり彼女は足早に消えていた。その後も俺が送り続ける文のへの返信もなく接する機会もなく今日の合同任務を迎えた。


「これを使うといい。」


苗字が技を出すたびに涙を流すしそのため彼女自身がハンカチを持ち歩いていたのは知っていた。だが俺は今日の為に街へ出向きハンカチを買い苗字のために用意していた。俺から女性に好まれるような花柄のハンカチを差し出されてびっくりしている。


「はは、君には手拭いよりこういった可愛らしい物の方が使いやすいかと思って。俺が使っていた物ではない、新しい物だ。遠慮なく使ってくれ。」

「ふっ…ううっ……」

「なっ!?なぜ余計に泣く!?」


技を出した後少しの間涙を流すことはあったがこんなにも泣き出すこところは見たことがなかったので俺は戸惑った。彼女の隣に立ち片手で背中をさすりもう片方の手で彼女が胸元で強く握りしめている両手にそっと重ねた。


「私、もう煉獄さんに顔向けできる立場ではないんですっ…」

「なぜそんなこと言う…」

「私の技は私の感情によって技の精度や強さの振り幅が違って来ます。家族を鬼に喰われたことを思い出し怒りに涙を流し、お館様や鬼殺隊のみんなに認められていることが嬉しくて涙を流す、さっきの技は貴方を想ってできた技です…」

「俺を…?」

「私は貴方が目覚めなかった何ヶ月もの間、貴方を失ったときのことを考え不安と悲しみを技に込めました。私は酷い人間です。そうやって今までで一番の大技を生み出してしまった…今もそう、貴方は生きて目の前にいるのにあのときの失うかもしれない気持ちを呼び起こして鬼を斬りました…最低な隊士なんです…」


瞳から溢れ出すように流れる涙を優しく指で払ってやれば不安な表情でこちらを見上げる苗字。


「君は感情が大きければ大きいほど強い技を出せるのだろう?今までない程の技を俺を失ったと思いながら出せたのであれば、それだけ強く深く俺を想っているのとになる。こんなに喜ばしいことはない!」

「へ?」

「今日君のその気持ちを聞いて気付けた。俺も君のことを前から想っていた!」

「えっそんなっ私は好きだなんてっ…!」

「俺を失うことを一番恐れていたんだろう、好き以外のなにがある…?」

「あぁ煉獄さんそんな顔を近づけないで下さいっ…だめでっ…」


両手で彼女の濡れている頬を包み唇を重ねたら涙で少ししょっぱかった。だが心には甘い気持ちが溢れてくる。唇を離し彼女の顔を見れば戸惑いながらも嬉しそうに涙を流す彼女の表情を見せてくれてそれはとても可愛らしいものだった。この後名前が泣柱として伍ノ型を出すことはなくなった。



〔5000hit→煉獄杏寿郎/煉獄さん無限列車後生存/柱同士/片想い実り〕



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