【キャラメルを焦がして】


「お名前は!!」

「あ、はい名前です!」


店員のお兄さんの元気な接客に少したじろぐも負けじと自分の名前を伝えた。別にお兄さんに個人的に名前を聞かれたわけでなく、ここのカフェではドリンクをオーダーすると名前をカップに書かれ、商品ができるとその書いてある名前を呼ばれ取りに行くシステムになっている。お兄さんは私の名前をスラスラっとローマ字で書いて呼ばれたら取りに来てください!と言った。
このカフェは最寄り駅と自宅のちょうど間ぐらいにあり私はよく利用していた。ちょうど1ヶ月前ぐらいにお兄さんはこのお店にアルバイトとして入ってきた。派手な髪色に目鼻の整った顔立ち、大きな声でハキハキとする接客。初めて会ったときからとても印象に残っていた。そして私はこのお兄さんに一目惚れをしてしまっていた。
初めて接客してもらった日からお店に通い詰めるも彼が居なかったり、お店が混雑していてタイミングが合わなかったりで、今日で会えたのはやっと3回目だった。だけど会えたところで臆病な私は声を掛けたり連絡先を聞けるわけもないのでただお客さんとして来てお店で過ごすしかない。テーブルに広げたパソコンで大学のレポートを作成している……フリをしてお兄さんのことを覗き見しまくる。歳は同じぐらいかな、アルバイトだから彼も学生だろうか、彼女居るのかな、次はすぐ伏せてしまう目を上に向け名札の名前を見てみよう…こんな感じで彼のことばかり考えていた。


「よろしければこちらお下げしてもよろしいでしょうか!」

本当にレポート作成でパソコンの画面を真剣に見つめていたら不意にお兄さんから声をかけられた。とっくに食べ終えたケーキが乗っていたお皿のことを言ったのだろう。緊張して声も出ずにこくこくと首を縦に振る。そしてハッとあることを思い出す。彼の胸元にある名札を見るとそこには「Kyojuro」と書かれていた。お兄さんの名前はきょうじゅろうさんと言うらしい。きょうじゅろうさんは笑顔でお皿を下げ去って行く。名前を知れたことが嬉しくてニヤける口元を両手で隠した。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「名前さんこんにちは!」

「こんにちは!今日はえーっと…いつものキャラメルラテのホットにします!」


それからまた1ヶ月程が過ぎた頃、彼はもう私の名前を聞いて来なくなった。名前を覚えてくれたのだ。更に私ときょうじゅろうさんの関係はあのときより前進した。と言ってもレジのときに「雨ですね」とか「今日はドリンクこれにするんですね」とか言葉を交わす程度だ。だけどその一言一言が私にとってはとっても嬉しいものなのだ。


「店内で飲まれていきますか?お持ち帰りにしますか?」

「あー…」


店内を見ますとカウンター席が数席空いているぐらいで混雑していた。今日はきょうじゅろうさんのレジに当たれたし持ち帰りにして大人しく帰宅しよう。


「今日は持ち帰りにします。」

「承知しました!」


元気よく返してくれたきょうじゅろうさんに思わず笑顔になる。いつも通り紙のカップにキュキュッとペンで名前を書いてくれる。その後はバリスタのスタッフの方にカップを渡して飲み物を作ってくれてカップスリーブを付けて貰って商品を受け取るのだが、なぜかそのとききょうじゅろうさんは先にスリーブを付けていた。その後は特に気にすることなくキャラメルラテを受け取り帰宅した。

家に着きラテを飲みながら本を読んでいた。カップの底に溜まっているキャラメルソースを残り少ないラテと混ぜるためにカップをくるくると回していると、スリーブの下から少しだけはみ出ている文字が書いてあるのに気付く。私の名前とは別に書かれている英字のそれは何かのIDっぽかった。
まさかと思いテーブルの端に追いやっていた携帯を慌てて手に取りドキドキしながらメッセージアプリを開きID検索をかける。するとそこには「煉獄杏寿郎」の名前と彼の写真が出てくる。


「うっそ…これって…」


思わず声に出してしまう。震える指先で連絡先に追加をタップする。間違えてIDを書いたなんてこともないし、きっと彼なりに連絡先を教えてくれていたんだとは思う。けれど自分からメッセージを送るのに躊躇してしまう。どうしようと悩んでいるうちに携帯が短く震えメッセージ受信の通知を告げる。トーク画面にはついさっき連絡先に追加したばかりの煉獄杏寿郎さんからのメッセージが表示されていた。


『気付いてくれてよかった。見つけてくれてありがとう。』


本当に杏寿郎さんの連絡先なんだ…!あまりの急展開に胸は高鳴りっぱなしで顔は熱い。そこは冷静になって返信するところなのに、私は何にも考えずに外に飛び出しカフェに向かって走っていた。家から近いそこまでは走ったら数分ぐらい。向かっている間は大した考え事もできずにただ走った。カフェの前まで着き息を切らしながらガラスウィンドウから中を覗くも杏寿郎さんは居なかった。
っていうか普通に考えてメッセージを送ってきてくれたんだから仕事中なわけないじゃん!!馬鹿じゃないの私!!一人で猛烈に恥ずかしくなってしまった。息を落ち着かせてから帰ろうとカフェを通り過ぎ家へと戻り始める。


「名前さん?」

「へっ?へあ!?えっきょ、きょっじゅろさん!」


名前を呼ばれ振り返ればカフェの裏口から出てくる杏寿郎さんが不思議そうに私を見ている姿があり挙動不審になってしまった。そんな私にお構いなしに彼は笑顔で近付いてくる。


「あの返信しようと思ってて…!」

「返信するために店まで戻ってきたのか?」


小さく笑いながら私の目の前まで来る彼はいつもの白シャツとエプロンではない私服姿で少し見惚れてしまった。


「連絡先教えてくれてありがとうございます、あの私嬉しくて気付いたら走っていました…」

「ふっはは、そうか!それは嬉しい限りだ!」


接客中じゃないラフに話してくれる彼にクラクラしてしまう。今日まで一言二言交わす程度だったのに一気に幸せが訪れて勿体ないと思ってしまう。この後不幸でも訪れるんじゃないかと不安になってしまう程にハッピーな展開だ。


「正直に言おう!前から名前さんの事が気になっていたんだ。色々と考えた末にあんな方法でしかきっかけが作れなかった!」

「ふふっ職権乱用ですね。」

「そう言われても仕方ないな!けど悪事を働いた甲斐はあった、君がこうして来てくれたからな!君さえよければ今度俺と一緒に出かけないか?」

「いいい行きます!絶対に!」


食い気味で返事をすれば杏寿郎さんは目を大きくして驚くも直ぐに笑ってよかったと言ってくれた。手に持っていたカップを一口飲めばまだ温かいそれを私に渡してくる。


「すまないがこの後予定があってもう行かなくてはならない!連絡するから後で日程を決めよう。キャラメルラテだ、好きだろ?飲んでくれ!」


また!と言い爽やかに走り去る杏寿郎さん。どうやら彼には私がキャラメルラテが好きなのも彼のことが好きなものバレていたようだ。飲みかけのカップに口を付けそれを一口飲む。



「あぁもうこんなの甘すぎるよ…!」



[StoryTop]



「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -