【If I can’t have you】


結露で滴が垂れるグラスを片手に持ったままはあぁっと大きな溜息をつけば、向かいに座っている宇髄がエイヒレをねっちゃねっちゃと音を立て食べながら冷めた目で見てくる。


「煉獄よぉ、そんなに悩むことかぁ?好きならさっさと連絡して呼び出して告白しろよ。片思いしてもうどのぐらい経つよ?」

「3、4ヶ月程だ…そう簡単ではないんだ宇髄。」


俺は今いわゆる恋の相談ってやつを宇髄にしている。俺が恋愛について悩む様になったのは半年前。職場の所属している部署に研修生が何人かやってきた。その中に苗字名前さんは居た。彼女の指導担当は俺だった。3ヶ月間週5日彼女と過ごした。仕事に集中する真剣な顔、にこやかにする挨拶、褒めると嬉しそうに照れ笑いをするところ、研修を終えて他の支店に所属が決まり彼女が居なくなるときに初めて彼女への恋心を自覚した。だが気付いたときには時すでに遅し。彼女はもう他の支店にいる。連絡先は仕事上知っていたが私用で連絡することには抵抗があった。
彼女がいなくなり何も行動できないまま3ヶ月経ったのにこの気持ちを忘れることができずにいる。酒を飲んでいても頭の中は彼女のことばかりだ。


「連絡したくないっつってたけど、研修最後の日にその子から連絡来たんだろう?」

「来たが内容は研修期間の礼だった!」

「お前はなんて返したの?」

「苗字さんのますますのご活躍をお祈り申し上げますと返した!」

「面接落選のメールかよ。」


こりゃダメだなはい解散っと宇髄が言った。家に帰って布団に入って、たった一回来たその業務的なメッセージを一晩中見返してしまう。そんな自分に呆れてしまうがどうしても簡単には諦められなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「煉獄さん!煉獄ですよね!お久しぶりです!覚えていますか?ご指導頂いてた苗字です!」


通りかかったカフェのテラス席から声をかけてきたのはまさに意中の相手、苗字さんだった。突然の再会にかなり焦ったが冷静を装い席に近付く。


「苗字さん!もちろん忘れるわけがない!久しぶりだな、その後元気に過ごしているか?」

「はい!煉獄さんのご指導のおかげで仕事も順調です!」

「それはなによりだ!」


社交辞令のような挨拶を一通り交わし、会話が途切れどうにか話を繋げなければと思っていると苗字さんの方から沈黙を破る。


「あのもし時間があって、もしも、もしもよかったらなんですけど、一緒にコーヒーでも飲みませんか?」

「っ!?もっもちろんだ!是非!!」


嬉しい限りの誘いにいつもより更に大きな声で応えてしまい周りにいた人が俺を一斉に見た気がして顔が熱くなるのを感じた。苗字さんは恥ずかしそうにだが嬉しそうに笑っていた。あぁ、その笑顔だ…ずっと見たかった。


頭の真上に居たはずの太陽はもうすっかり沈みかけていた。そんな時間まで彼女と夢中になって話をしていた。カフェや通りにも人がまばらになってきた。


「すっかり遅くなってしまったな。」

「あ、そうですね…」


そう言えば寂しそうな顔をする彼女。そんな顔をされると期待してしまう。せっかく今こうしてまた会えたのにまた何も伝えないままで別れるのか?また何ヶ月も、もしかしたら何年も引きずるかもしれないのに?そう思うと黙っていることはできなかった。


「あまりこんなこと言うべきではないが、誤魔化してずっと話していても切り出せない。君がいなくなってから毎日どこか気が滅入って仕事も身が入らないんだ。前に進んで君のことを忘れようとしたができなかった。仕事上の関係もあるし、あれから3ヶ月も経っている。伝えるには遅すぎたかもしれん…。だが…」


テーブルに乗っている彼女の手を握れば、顔を赤くしている彼女は戸惑いながらも手を握り返してくれた。


「君がいなければ毎日が何の意味もないんだ。」

「……わた、私もです。煉獄さんがいない毎日は何の意味も無く感じていました…。」





俺は近々、宇髄に名前と付き合うことになったと飲み会で報告することになった。


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