【アイスより愛す】


今日も1日仕事を終えやっと帰宅する。壁にかけてある時計をチラッと見れば23時になるところだった。ソファに雪崩れ込むように倒れ盛大なため息をつく。お風呂めんどくさいなぁと考えていたら鞄に入れていたスマホが振動する音が聞こえた。起き上がらないまま精一杯腕を伸ばし鞄を引き寄せスマホを取り出す。


『家に着いたか?』


杏寿郎からのメッセージだった。帰宅途中も電車の中でやり取りをしていた。彼とは最近会えていない。土日休みの彼とほぼ平日休みの私。たまに取れた土日休みも最近はなかなか取れなかった。メッセージのトーク画面を開き彼に返信を打つ。


『着いたよ、疲れすぎてソファで息絶えそう』

『シャワー浴びてベッドで寝ないとちゃんと疲れが取れないぞ!』

『杏寿郎に会えてないから疲れが飛んでいかないよ、寂しい』


送ったメッセージを見直してしまったと思った。忙しくて疲れているのは私だけじゃない杏寿郎も一緒だ。なのに自分勝手なわがままを送りつけてしまったと後悔した。杏寿郎も忙しいのにごめんねと打とうとしたところで着信が入る。文字を打っていたせいもあって通話ボタンを秒で押してしまった。なんだかがめつい女みたいで恥ずかしくなってしまったが慌ててスマホを耳に当てる。


「もっもしもし?」

「突然電話してすまない、今大丈夫か?」

「だ、大丈夫っ!どうしたの?」

「名前の声が聞きたくなってしまってな。」


電話越しの優しい彼の声にドキッとする。さっきまでの不安は吹っ飛び胸が高鳴った。最近はどう?ちゃんと休めてる?とお互い確認しあってちょっとした出来事などを話す。


「杏寿郎のおかげでシャワー浴びる元気出た!遅くまで電話してくれてありがとう。」

「あぁ、俺こそありがとう。」

「おやすみ杏寿郎、大好きだよっ」


久しぶりに聞いた彼の声に気持ちが舞い上がったせいかな、恥ずかしかったけど最後にそう言えば返事が返ってくる前に通話終了ボタンを押す。さっきまではシャワーを浴びるのも死ぬほど億劫だったのに軽い足取りでお風呂場へ向かう。私ってば簡単な女だな。



ーーーーーーーーーー



シャワーから出てフゥッと一息付く。喉が乾いたなぁと思い冷蔵庫に向かおうとするとテーブルに置いてあるスマホが震え出す。手に取り画面を見るとそこには「煉獄杏寿郎」からの着信を表示していた。


「もしもし?どうしたの?」

「…シャワーは浴びたか?」

「え?うん、ちょうど出たところだよ。」

「そうか、その…」


先程電話したのにまた掛けてきたぐらいだから何かあったのかな。なんだか話しにくそうにしているし声も小さい…。


「杏寿郎どうしたの?何かあったの…?」

「ドアを…」

「え?」

「玄関のドアを開けてほしいんだ。」

「!!」


その言葉を聞いてハッとし通話も切らずにスマホをテーブルに置き小走りで玄関へ向かい鍵を開け勢いよくドアを開けば、そこには少し申し訳なさそうに、だけど嬉しそうに微笑んでいる杏寿郎が立っていた。


「事前に相談もせずに押し掛けてすまない、だけど君があんな可愛いことを言うから我慢できっ」


杏寿郎の言葉は途中で遮られてしまった。私が靴も履かずに裸足で外へ飛び出し彼へ抱きついたからだ。彼もすぐに逞しい腕で抱きしめ返してくれた。背中に回された手からはビニール袋がガサゴソする音が聞こえる。何か買ってきてくれたのかな。


「俺も大好きだ。」

「うん知ってる、こんな夜中に来ちゃうんだもんね。」


電話で気持ちを告げたときの返事をもらって私は杏寿郎の腕の中で嬉しすぎてふへへと笑う。


「アイスが溶けてしまう、君の好きなアイスを買ってきたぞ。」

「もう私が杏寿郎に溶けそうだよ!」

「よもや!なら溶けきる前に早く食べなければ!」


きゃー食べられちゃう!っとはしゃぎながら2人で家に入って行く。ドアと鍵を閉めたあと杏寿郎は持っていた袋を床に落とし両手で私の顔を包むと唇を重ねてきた。私も応えるように彼の背中に両腕を回す。


アイスはきっと溶けてしまったと思う。



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