【Can't keep my hands to myself】


混雑している駅のホームを周りの人達の足取りに合わせて進む。ホームの階段を降りて改札が近付いてくると心臓の鼓動が早くなるのを感じる。私の心臓をこんなに早く動かしている原因はそう。


「あっ……」


改札の外にいる背丈が高くどこからどう見ても美男子の彼、宇髄天元さん。最近お付き合いを始めた私の彼氏だ。その姿を見つけて思わず小さく声まで出してしまったし心臓は一瞬ドクンッと跳ねた。今日は付き合ってからはじめてのデート。私は緊張しまくっている。手汗まで掻いてきたし改札を出るのさえ躊躇してしまう。
新人社会人の私と天元さんの出会いは数ヶ月前。取引先のデザイナーだった天元さんに私は一目惚れしてしまった。だけど業界では有名な超やり手のデザイナーだし見た目だって背が高くてとっても美形でモデルみたいで、その上内面も楽しくて優しくて私なんて近くにいるのも尻込みしてしまうぐらいだった。それなのに私にたくさん話しかけてくれて連絡先を聞いてくれてご飯に誘ってくれて告白までしてもらって…。こうして宇髄さんの積み重なるアクションのおかげでお付き合いできることになった。
ここまでずっと宇髄さんの方から積極的に接してきてくれていたので今日は私の方から積極的になっていこうと決めて来た。だけどいざ彼の姿を見つけると少したじろいでしまう。ううう今日もかっこいいです宇髄さん!眩しい!


「ごめんなさいお待たせしちゃって!」

「いや俺が早く着いただけだから。それじゃあ行くか!」

「っはい!」


機嫌良さそうに微笑み私の頭にぽんっと手を置いてすぐに離れていく。それだけで私はドキドキしてしまう。赤くなった顔をバレないようにパタパタと仰いでから隣に並んで歩き始める。
今日のデートはアート巡りが目的。私と宇髄さんの好きなアーティストの個展や美術館を回る予定。展示場の入り口で私の分までスマートにチケットを出し名簿に名前を描く宇髄さん。訪問者の名前を残す名簿をチラッと見るとそこには『宇髄天元 名前』と書いており夫婦みたいだと思った瞬間に顔に熱が集まる。


「なに赤くなってんだよ名前。」


ニタァと笑っている宇髄さんはきっとわかっていてやっている。だけどまんまと照れてしまっている私。デートは始まったばかりなのに恥ずかしさと嬉しさで爆発しそうな私は今日一日保つのだろうか…。フラフラとしながらギャラリーに入った。
展示物をじっくり観ながらゆっくり一歩ずつ進んだり足を止めたりする。壁に飾られている絵を見ながら足を進めたときに止まっていた宇髄さんにとんっと静かにぶつかってしまい、私の手と宇髄さんの手が触れ合う。


「あっごめんなさい!」

「悪い、俺もいきなり立ち止まったから。」


くしゃくしゃっと、でも髪は乱れない様に優しく頭を撫でられる。頭から離れていく宇髄さんの大きくて綺麗な手を目で追ってしまう。手繋ぎたいな…。これが初デートだしまだ手を繋いでいなかった。私はもう宇髄さんの彼女なんだし大人の女性なんだから、私から手を繋いだっていいよね…!と思いつつもいざ手を伸ばしてみると気恥ずかしくなって、やっぱり無理!となってすぐに手を引っ込めてしまう。だめだめ頑張って手を繋ぐ……ああ横顔もやっぱりかっこいい!じゃなくてやっぱりできない!って何やってるの私…。高校生じゃないんだから…。自分にこんなシャイ過ぎる部分があったなんて自身でも呆れてしまう。
そんな私の葛藤も知らずに宇髄さんは楽しそうにギャラリーを回る。歩いているうちにギャラリーが入っているこの建物の小さな中庭の様な場所に出た。


「何百面相してんだよっ外の空気でも吸って落ち着け。」

「〜〜〜!」


ケラケラと笑う宇髄さん。どうやら私の葛藤場面を見られていたみたいで恥ずかしくて思わず両手で顔を覆ってしまう。


「どうしたんだよ名前、今日は一段と忙しないな。」


背の高い宇髄さんが少し屈んで覗き込む様にしながら私の手首を掴んで隠していた顔を見つめてくる。顔がち、近い!あと手首!手首掴まれてる!これも嬉しいと言えば嬉しいんだけど!違うの宇髄さん、私ね宇髄さんと手を繋ぎたくて…!


「顔が近いしかっこいい!あぁ違う間違った!!」

「心の声がでてるぞ名前。」


あまりの恥ずかしさに宇髄さんに掴まれている腕を引いて宇髄さんから随分と距離を取ってしまう。宇髄さんに「遠っ」とツッコまれてチラッと宇髄さんを見れば困った様にでも優しく微笑んで私を見つめていた。その笑顔を見るだけで胸がきゅう〜となり居ても立っても居られなくなった私はやや小さい声で話し始める。


「いつもいつも宇髄さんばかりにリードさせちゃって、私だって宇髄さんのこと好きだから私からだって何かしたくて…。手を繋ぎたかったの…。けどもう10代でもないのにそれすら恥ずかしくなっちゃって…」

「あははっ何だよそんなことかよ。ほら。」


大きな手でギュッと手を握ってくる宇髄さん。私があんなに悶々としていたのにサラッと繋がれてしまい私は慌ててしまう。


「だっだっだめ!」

「何でだよ。」

「私から繋ぐことに意味があるの!」


宇髄さんの手から逃れようとグイッグイッと手を引っ込めようとするもびくともしない。地面を踏み込み腰を入れて腕を引こうとすれば宇髄さんも更に手に力を込める。


「ちょっおまっ何逃げようとしてんだよ!」

「だって私だって宇髄さんに積極的なところ見せたいの!」

「何だよその意地!」


ふんっと渾身の力を込めてみるも宇髄さんもガッチリと強く手を掴み直す。側から見たら男の人が女の人を無理やり連れて行こうとするみたく見えてしまっているかも。違うんです皆さん誤解です!


「うっ宇髄さん手ちょっと痛いっ…」

「ならよかったよ。」

「な、んで…」

「痛かったら忘れねぇだろ?」


握られた手の指先にちゅっと優しく口づけされる。握られていた手は緩りと指を絡められる。そのままかがみ込んできた宇髄さんはコツンとおでことおでこを合わせてくる。


「それに俺だって名前のこと好きなんだから、俺にも積極的でいさせてくれよ。な?」

「……はい。」

「ははっお前本当可愛いな。」


私が小さく返事をすれば満足そうな表情で顔を離していく宇髄さん。恋人繋ぎにされた手に少しだけキュッと力を入れてみる。これが今私からできる精一杯のアクションだ。


「今は無理に頑張らなくたっていーから、夜もっと積極的なところ見せてくれよ。」

「はっなっ何言ってるの!?」

「俺はこんなの比じゃないくらい派手に積極的にいくつもりだぜ?覚悟しとけよ。」

「ううう宇髄さんのすけべ!!」


私はそれしか言い返せなかった。



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