【無自覚無鉄砲ですよろしくお願いします】



「あ、不死川玄弥君だ!私苗字名前!」


高校二年生の春。新しいクラスになって早速席替えがあった。俺の隣の席は苗字さんと言う女の子。炭治郎と話しているのを何度か見かけたことがあったが名前は知らなかった。


「不死川先生の弟君でしょ。よろしくね!」

「あ、あぁ、おう、よろしく…」


俺だってもう高校二年生だ。流石に女子とも会話ぐらいはスマートにできている…はず。適当に挨拶を交わせば苗字さんはにっこりと笑った後教壇で話している教師に退屈そうに目を向けた。これが俺と苗字のちゃんとした初めての出会いだった。



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「おい名前授業終わったぞ、起きろ。」

「う〜ん……」


季節は夏。俺と名前は名前で呼び合うまで仲良くなり学校以外でも遊んだりする程だった。能天気で少しふわふわしてる性格の名前。名前は授業中よく寝てしまう。先生達に起こされることもあるが放っておかれることもある。そんなときは授業が終わる度に俺が起こしてやることが多い。肩を軽く揺さぶれば寝ぼけた顔を突っ伏していた机から上げる。


「私また寝ちゃってた?」

「ははっいつものことだろ。昼飯炭治郎達と食うんだろ?行こうぜ。」

「やったーお昼ご飯!」


さっきまで呑気に寝てたくせに待ちわびてましたと言わんばかりに喜ぶ名前。鞄から昼飯とペットボトルの飲み物を出せば元気に教室から出て行く名前を慌てて後ろから追いかける。


「午後の授業あと2時間もあるね、はぁ、昼寝したいなぁ。」

「午前中も殆ど昼寝してたみたいなもんだろう?」

「あはは間違いない!」


購買で買った炭治郎ん家のパン屋のクリームパンを幸せそうに頬張る名前を見て何故だかほっこりしてしまう俺がいる。理由はわからないけど…多分ちょっと小動物っぽいところが見ていて面白いからだと思う。


「おいクリーム付いてるぞ。」

「え、どこ?」

「ここ。」


手を伸ばして口の端に付いているクリームを指先で取ってやると驚いた顔でこちらを見つめる名前。その顔を見て俺も驚いた後一気に顔が熱くなる。


「あっいやっ悪いっつい弟とか妹にやる癖がっ…!!」

「あははっ玄弥君自分でやっておいてめっちゃ焦ってるし照れてるじゃん!」


本当に無意識でしてしまって恥ずかしくてしょうがなくなった俺は名前から顔を逸らして昼飯のおにぎりを口いっぱいに放り込んでそれをお茶で流し込む。


「え?なに?二人からめちゃめちゃ青春の音がするんですけど。」

「黙れよ我妻!!」

「い”だぁあああ!!何でチョップするのぉおおお!?!?」

「俺先戻るわっ!!」

「あっ玄弥ー!」


我妻が余計なことを言うから首後ろに一発入れてやる。隣で笑っている名前から逃げる様に立ち上がって炭治郎の呼び止める声にも振り向きもせずに早歩きでその場から去った。



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「何でさっき逃げたのー?」

「………」

「あー玄弥君聞こえないフリだ。」


昼休み明けの午後の授業。席に着いたまま俺は名前の言う通り聞こえないフリをした。ツンツンと指で腕を突かれてもそれを続ける。無反応な俺に今度は指をどんどん上の方に移動させ首元を擽られたので思わず身じろぎしてしまう。


「擽りに弱いんだ?」

「誰だって弱いだろう。」


根気負けした俺が苦笑いすれば満足そうに微笑む名前。あーその笑った顔いいなと思ったとき教室のドアが開き名前は俺から目を逸らし入って来た人物を見つめる。


「よーしじゃァ教科書開けェ。」


不死川先生こと俺の兄貴。数学の時間は名前が唯一寝ない授業だった。最初は兄貴が怖くて起きているのかと思っていた。だけど怖いとか数学が好きとか授業に集中してるわけではないことに最近俺は気付いた。名前はずっと兄貴を見つめている。寝ていない授業のときは小声で話しかけて来たり人のノートに落書きして来たりするくせに数学の時間は俺に一切構ってこない。元々不得意で苦手な数学が一段と嫌になってきたのは名前が兄貴を見つめていると気が付いたときからだ。


「なぁお前何で数学の授業のときは起きてるんだよ?」


放課後。モヤモヤする気持ちを少しでも発散させたくて率直に質問をする。名前はギョッとした顔でこちらを見つめた後恥ずかしそうに目を伏せた。


「不死川先生ってかっこいいから…ずっと見てたいから寝る暇なんてないって感じ。」


何だよその顔。もっとヘラヘラしながら数学の補修だけは嫌だとか先生怖いからとか言ってほしかったのに、発散させるどころか俺のモヤモヤは増して思わず拳を強く握りしめる。


「みんなは怖いって言うけど私はかっこいいって思うんだよね。実はすごく優しそうじゃない不死川先生!って何でこんなこと弟の玄弥君に話してるんだろうね。へへ。」


本当だよ何でそんなこと俺に言うんだよ。


「今日射撃部お休みなんでしょ!一緒に帰ろうよ!」


なかなか立ち上がらない俺の制服を指でちょんっと摘みほら行くよ?と笑いかけられるが、俺は返事を返さずに黙ったまま立ち上がり教室を出る。夕方で空も建物もグラウンドもオレンジ色に染まっている。その光を浴びながら俺が不機嫌丸出しでいても名前はお構いなく兄貴の話をまたし始めた。


「目つきが悪いってみんな言ってるけどそこがかっこいいんだよ!背も高いし、怖そうな見た目なのに話しかけてみると意外と優しかったりするし、あっあとね顔の傷も私は好きだったりする。知ってる?目尻のまつ毛がすごく長いんだよ。ははっそんなの兄弟だから玄弥君は知ってるか!」

「あのさ」


俺が足を止めると俺の後ろで名前も立ち止まった音がした。振り返ると夕日に照らされ首を少し傾げている名前が俺を不思議そうな顔で見ている。2人の間にあった距離を1歩、2歩と歩いて縮めれば背の高い俺は名前を見下ろして、俺より何十センチか背が低い名前は俺を見上げる格好になる。


「玄弥君…?」

「俺も目つき悪いってめっちゃ言われる。見た目も怖くて話しかけにくいけど話してみたらそんなことなかったって言われる。俺にも顔に傷がある。」

「どうしたの玄弥君っ」

「それに俺の方が兄貴より背は1センチ高いって知ってた?目尻のまつ毛はどう?長いか見てくれよ。」


名前の手首を掴みよく見える様に顔を近付けると、夕陽の中でも名前の顔が赤くなっていくのがわかった。意地になってこんなことしてるけどきっと俺の顔も真っ赤だ。名前を掴む手だって汗ばんでるしなんなら身体中から汗が噴き出している気がする。少しの間沈黙が続いてどうしようかと思っていたら、名前が掴まれていない手の指で俺の左目の目尻をそっとなぞってくる。


「……玄弥君も、まつ毛長いね。」


今思い返せばこれが俺の初恋だった。



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