【閑静な住宅街で愛を叫ぶ】


風呂から上がり洗面所でドライヤーを掛けていた。ドライヤーのゴオゴオなる音に紛れてリビングから楽しそうな声が聞こえて来る。髪は乾かし切っていなかったが俺はスイッチを切り足早にリビングへ行く。


「あ!杏寿郎!」

「兄上!名前さんがお土産たくさん持って来てくれました!」

「おかえり名前!」


苗字名前。俺の家の隣に住む名前は俺と同い年で高校生3年生のときに隣に家族と越してきた。高校卒業まで数ヶ月と言うタイミングで家の事情で越して来た名前は最初は学校でも孤立しがちだった。本人は気にしていなかったが俺は気にかけて名前と一緒に同じ時間を過ごすようにした。俺たちが仲良くなるのに時間は掛からなかった。あれから何年も経ってお互い社会人になった今も家族ぐるみで付き合いがある。今もこうして出張から帰ってきた名前が土産を持って家に来てくれる。


「あ、ちゃんと髪乾かしてないんでしょ?風邪引くよ?」


俺の髪をわしゃわしゃと腕を伸ばして撫でて来る名前。出張に行く前はお互い忙しく顔も見せ合えていなかったうえに彼女の出張が長かった。久々に見る名前の顔に頭に置かれた彼女の手から微かに感じる体温に安心する。微笑みを向ければ微笑みを返してくれる。当たり前のように側にある彼女の存在。俺や弟の千寿郎、父や母のことを気にかけてくれている。俺もたち家族も同じだ。実際は血の繋がった家族ではないが家族と同じぐらい大事な存在だ。


「今回の出張長かったから自分のベッドが恋しくて堪らなかった!それに2人のこともね!」

「俺たちは家族だからな!」

「そうっ家族!」


ギュッと俺と千寿郎に腕を回し身体をくっつける名前。俺も片腕を回し抱き返す。そう俺たちは家族。家族なんだ…。



ーーーーーーーーーーーーーーー



日付が変わる頃。明日は休みだが今週はなかなかハードな一週間だったのでもう就寝しようと思い明かりを消しベッドへ横たわる。窓から見える名前の部屋の電気は今夜は灯りがつくことはなかった。彼女は今夜は職場の飲み会に行っている。迎えが必要なら連絡するように言ってある。だが連絡は来なかった。彼女だってもう大人だ。何かあれば頼って来るだろうし、何もないと言うことはまだ飲み会を楽しんでいるのかもしれない。そう自分に言い聞かせながら目を閉じた。
それからまだ数分しか経っていない頃に外で男女の声が聞こえてきた。外を覗いて確認するまでもない、女性の方の声は間違いなく名前だ。だが男の声は?誰だ?すぐに飛び起きベッドから抜け出せば玄関へ向かい外へ出る。隣の彼女の家の玄関前を見れば腰に手を回されフラフラになっている名前の姿が見えて隣までのわずかな距離を全速で走る。俺の姿に驚く男に構わずに名前の身体を転ばないようにしっかり支えながら強く抱き寄せる。


「あ〜れ、きょーじゅろー!どうしてここにいるのぉ?」


顔が赤くて目は潤んでいる名前。俺に言葉をかけてくると同時にものすごいアルコールの匂いが鼻に届く。


「お前は誰だ、こんなに名前を酔わせてどうするつもりだったんだ。」

「いや、あの僕は……」


ギュッと名前を抱きしめながら男を睨みつければあからさまに狼狽える相手。こんなになるまで彼女を酔わせて家まで来るなんて一体何を考えていたんだ。


「杏寿郎、杏寿郎、この人は私の職場の同僚で私がこ〜んな酔っ払いだから家まで送ってくれただけ!」

「若い女性をこんなになるまで飲ませるなんて職場の男のやることではない!何か企みがあったのだろう!」

「そんなことないよ落ち着いて杏寿郎!」

「名前も油断しすぎだ!もっとしっかりししなければ世の中こういう男がたくさんいるんだぞ!だけどもうこんなことは二度としない様に今俺がこの人の肝に銘じてやろう。」

「僕はゲイです!!」


名前の職場の男性がそう叫びしばらく沈黙が続く。俺の腕の中で名前がため息をつきそっと離れていく。


「ごめんなさい、私が酔ったせいで送ってもらったのにそんなことまで言わせてしまって…」

「かまわないよ、僕はカミングアウトしてるから全然大丈夫だ。家が近いんで酔った苗字さんのこと送って来たんです。あなたは苗字さんのお隣さんの方ですよね…?いつも話聞いてますよ。苗字さんのことはもうお任せしても大丈夫かな?」

「あっはい、もちろんです。あの状況確認不足な上に失礼な態度を取ってしまい申し訳なかった…」

「気にしないで。それじゃあ苗字さんまた会社でね。」

「送ってくれてありがとう、お疲れさまでした!」


まだおぼつかない足でフラフラしながら頭を下げる名前の隣で俺はと言うと肩身を小さくして気まずくなっている。頭を上げそんな俺を見つめてくる彼女は怒っているかと思ったが、なぜかニマニマと笑いながら俺に近付いてくる。


「心配してくれたの?」

「心配するに決まっているだろう!」

「家族だから…?」

「家族……だからだ、それに…」


彼女の手を取り自分の腕の中にギュッと閉じ込める。名前は特に抵抗することなく大人しく俺に抱きしめられている。


「俺たちはすでにもう家族だが、俺は名前と新しい家族を作っていきたい!!!」

「へっあっえっ!?」

「俺は君のことを友達以上に想っていた、それは家族みたいな存在だからだと思っていたんだ。だけどそれは違うと先程気が付いたんだ!俺は君のことが好きだ!俺と新しい家庭を築いてくれないか!?」

「ううう〜…」

「何故泣く!?そんなに嫌か!?」

「違うよぉぐずんっ、今日だって飲み過ぎたのは先輩に杏寿郎のこと話してたからだもん、私は好きだけどきっと杏寿郎は兄弟ぐらいにしか思ってくれてないって、けどよかったぁ私も好きい!パジャマ姿なのに駆けつけて助けてくれようとしたところもかっこよかったよぉ!うわぁーん!」


俺にしっかり腕を回し胸元にグリグリと泣き顔を押し付けてくる名前。今まで抑えていた気持ちが溢れ出てくるかの様に嬉しさや幸福感が湧いてくる。


「俺も大好きだ名前!結婚しよう!」

「結婚するう〜!!」

「お前たちこんな夜中に大声だして近所に丸聞こえだぞ!!」


父上の声が聞こえて家の方を見ればベランダから父上や困ったように笑う母上、涙ぐんでいる千寿郎が居た。名前の家族も玄関先まで出てきて驚いてはいたがよかったよかったと口々に言ってくれていた。
両家に見られているが俺の気持ちは止まりそうになくそのまま彼女に唇を重ねた。(この後父上と母上に酷く叱られた)



〔5000hitリクエスト→ 閑静な住宅街で愛を叫ぶ】煉獄杏寿郎/現パロ/甘/お家隣同士/酔ったヒロインが職場の人に送られて来ているところに遭遇し威嚇する〕



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