【36.Got that sunshine on my sunday best】



クローゼットの扉を空けてハンガーにかかっている洋服にパパッと目を通す。目星を付けた何枚かをベッドの上に並べて少し見つめ考えた後に残念ながら今日は選ばれなかった服をクローゼットに戻す。
今日はGWの初日。杏寿郎に誘われて彼の仲間内のバーベキューへ行くことになっている。2人とも仕事が土日祝日休みなのでGW中はずっとお休みだけど、付き合い始めたのも春だったし旅行とか遠出の計画を立てるには少し遅すぎた。なのでどこかしらで会って一緒に過ごすことになっていた。そのうちの1日が今日のバーベキュー。お天気もものすごく良さそうで気温的には暑そうなぐらいだったので、丈が短めの白のリブのキャミソールに薄手のカーキのシャツ、ボトムにはハイウェストのスキニージーンズで靴はスニーカーで行こう。動きやすい方が色々準備も手伝えるしね!髪は緩く巻いてからてっぺんの方でお団子にして後毛を良い感じに出した。ちょうど準備も終えた頃に家のチャイムが鳴った。スニーカーを履いてから玄関のドアを開ければ杏寿郎が立っていた。


「おはよう名前!!」

「しっー!まだ朝早いんだから声落として!」


相変わらず声の大きい杏寿郎の両頬を片手でぶにゅっと掴むとしゅまないと小さく謝られた。バーベキューは都内から離れた少し遠い所でやるらしくて、高速が混む前に朝早めに向かうことになった。参加する人を車2台がそれぞれ拾って現地で落ち着う予定だ。


「マンションの下に着きそうになって電話してくれれば降りるって言ったのに!

「ああ、だがみんなの前でこれはできないだろう?」


両頬を大きくて温かな両手で包まれてキスされる。私も彼の大きな背中に手を回してキスに応えれば顔を離しお互い微笑み合う。戸締りをしてから下に停まっている車で杏寿郎の仲間と合流する。


「おはようございまーす!杏寿郎の彼女の名前です。今日はよろしくお願いします!」

「聞いたかみんな!俺の彼女の名前だ!」

「2回言わなくてもわかるっつーの!」

「あっ天元じゃん!おはよ〜!」


どうやらこの大きなバンの運転手は天元らしい。助手席に座っている黒髪でマスクをしている男性が伊黒さん、3列目の席に大きな荷物と並んで座っているピンクとグリーンの髪色の女の子は蜜璃ちゃんだと自己紹介してもらった。もう一台の車にはあと3人の仲間がいてバーベキューの他の道具や食材を積んでいる車で少し先に出発して現地へ向かっているらしい。私と杏寿郎が2列目のシートに乗り込んでこちらもやっと出発する。


「煉獄さんの彼女さんがこんなに綺麗な方だったなんて!素敵だわ!羨ましいわ!キュンキュンしちゃうわ!」

「ふふ、蜜璃ちゃんってば褒め上手だね。」

「そんな!私は本当のことを言っているだけで!」


後ろを向いて微笑みかければキャー照れちゃうわ!と顔を赤くして騒いでいる蜜璃ちゃんはとっても可愛らしい女の子だった。そんな蜜璃ちゃんを助手席に居る伊黒さんがチラチラとさりげなく横目で見ているのがさっきから何度か見えて、あーなるほどと思うと同時に、間の2列目に座ってしまったことを申し訳なく思った。


「俺の方が煉獄より早く名前ちゃんと知り合ってたのにひょっこり現れた煉獄がちゃっかり彼氏になりやがって。派手にムカつくぜ!」

「なんだ宇髄フラれたのか。杏寿郎が選ばれるのは当然だな。杏寿郎は宇髄と違って誠実な男だからな。」

「黙れ伊黒!別にフラれてねぇよ!」

「煉獄さんが愛を勝ち取ったのね!さすが美人の名前さんだわ!どちらもモテモテの煉獄さんと宇髄さんの2人にアプローチされていたなんて!」

「違うよ蜜璃ちゃん。天元はふざけてそう言ってるだけである程度可愛い女の子なら誰でもいいんだよ。女たらしだから。」

「おいおい車内には俺を非難しない奴はいないのか!?」


運転までしてやってるのに!と騒ぐ天元。あれ、そういうば一番声量のうるさい人の声が全然聞こえてこないなっと思って隣に座っている杏寿郎を見ると、真っ直ぐ前を見つめて笑顔のまま固まっていた。


「天元ここに非難しない人が…」

「宇髄!!!」


いるよって言おうとしたらいつもの大きな声より更に増し増しな声量で天元の名前を突然呼んだ杏寿郎。車内の全員が肩をビクッと揺らしたしなんなら車も少し揺れた気がした。


「宇髄の幸せは願っているが名前はもう俺の大切な恋人で未来の妻だ!!なので諦めてほしい!!なのでこの話はこれでお終いだな!」

「きゃ〜〜!煉獄さんと名前さん結婚の約束までしているのね〜〜〜!」

「ううん蜜璃ちゃんしてないしてない。杏寿郎がなんか勝手に言ってるだけだから放っておいて大丈夫。なんなら私付き合うのも渋ってた女だからね?」

「ドンマイだな宇髄。」

「なぁなんで俺が大失恋したみたいになってるんだよ!?」



ーーーーーーーーーーーーーーー



高速は少しだけ渋滞してたけど早めに出発したおかげもあって時間通りに目的地に着けた。穏やかに流れる川の横の砂利の敷地がバーベキュー広場になっているみたいだ。椅子やテーブルは設置されているけどバーベキューコンロやお肉などの食材は特に用意がないここは、手ぶらのバーベキューが普通になってきた最近だと珍しく、そのため人もそこまで殺到しない穴場スポットだと天元が言っていた。さすがにGW中なので人はそれなりにいるけど、あの連休でごった返してる感じなどはなく過ごしやすそうな所だった。朝方まだ姿が見えなかった太陽は既に登りきっていて強い日差しで頭皮がじりじりと熱くなっていく。川の浅瀬では家族連れの子供たちが水遊びをしていて気持ちよさそうだった。その光景を横目に見ながら先に到着していた杏寿郎の仲間たちの姿を見つけて合流する。


「悲鳴嶼さん!不死川!冨岡!紹介しよう、俺の彼女の名前だ!」

「はじめまして、名前です。準備とか手配とか色々ありがとうございます!お手間かけちゃってごめんなさい。」


大きな天元より更に大きい悲鳴嶼さんと、強面の不死川さん、表情全く読めない冨岡さんに挨拶をする。それからみんなでそれぞれ手を動かしてあっという間に準備を終える。


「よし焼き始めるとするか。」


悲鳴嶼さんがそう言いお肉が乗ったトレイを手に持ったところでバーベキューグリルからゴオオッと音を立てて炎が上がる。え??なにこれ火事??


「おい煉獄をグリルに近づけるなって言っただろぉがァア!!」

「火加減が弱そうだったので強くした!!」

「強い通り越して火事寸前だァア!」


唖然とその炎をみんなで見ていたらグリルの近くにいた杏寿郎を押し除けて不死川さんが慌てて火を弱めるために炭を減らし始める。その光景を見て杏寿郎が前にお湯を沸かすときにとっくに沸騰しきっているお湯を更に強火でぐっつぐつともはや煮込んでいたときのことを思い出した。悲鳴嶼さんは「南無…」とから言って涙流してるし冨岡さんは火加減の調整が終わらないうちに鮭をグリルに乗せて不死川さんに怒鳴られていて蜜璃ちゃんは最後に焼くはずのマシュマロをもちゃもちゃと食べている。


「どうしよう明らかにツッコミ役が足らない。」

「いちいちかまっていたらキリがない。程よくスルースキルを身に付けるといい。甘露寺、こっちにいちご味のマシュマロもあるぞ。」

「わーいありがとう伊黒さん!」


こんなの慣れっ子立て感じで伊黒さんは冷静に言った後蜜璃ちゃんにいちご味のマシュマロを渡していた。ワイワイガヤガヤとハプニングが起きつつも、どうにかバーベキューは始まった。



〔Got that sunshine on my sunday best/お気に入りの服で太陽を浴びよう〕


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