【32.One day woman and woman】



※名前付きのオリジナルキャラクターが出ますご注意下さい



週末は結局日曜日まで杏寿郎と充実した時間を過ごした。特定の相手と長い時間を一緒に過ごして悲鳴をあげなかったなんて私が記憶してる限り初めてだ。今までなら一人になりたくてしょうがなくなっていたのに。自分の成長に自分でもびっくり。そんな私を変えた杏寿郎と出会わせてくれたのは梅ちゃんだ。メッセージでやり取りはしているけれど、直接会っての報告はしていなかったので今夜仕事終わりに一緒にご飯を食べようと誘った。


「苗字さんちょっといいですか。」

「あ、はい。」


デスクで仕事に励んでいるとお局上司こと酒泉さんに呼ばれる。あーきっと私のミスを見つけて怒っているんだな。呼び方的にそんな感じだった。椅子から立ち上がり酒泉さんのところへ行けば案の定のお叱りだった。正直ミスと言う程の事ではなかったけど必要以上にすごい勢いで怒られ、彼女の声はオフィスの中に響いていた。



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「さっきの酒泉さんすごかったね…」

「ねぇ酒泉さん最近また一段と苗字さんへの態度キツくない?」

「ほんとほんと!私たちなんて苗字ちゃんより仕事できないのにあんな怒られ方したことないよ?」

「えーそう?理不尽な事でも怒られるのに慣れちゃってあんまりそういうの感じなくなってきちゃった。」


お昼休みに同期3人と集まりご飯を食べながら雑談していれば口を揃えてみんなにそう言われた。けど私は言った通り自分のミスでお叱りを受けるならともかく何故か理不尽なことでも怒られる様になっていたので怒られることに段々と慣れっ子になってきた。


「噂で聞いたんだけど、酒泉さんのお父さんが創業何百年とか続いてる何かのお店の社長で彼女お嬢様らしいよ。後継は女だからってできないみたいで弟さんが継ぐんだって。だから女の酒泉さんはお父さんが決めた相手とお見合い結婚を迫られてるんだけどそれが嫌で婚活に必死なんだって!」

「なんかそれ私も聞いたー!お見合い結婚あるだけいいじゃんね。酒泉さん30歳過ぎてるしあんな感じだし自力で婚活は難しそう…」

「あのさ!」


同期達の話に耐えられずに少し大きめの声で彼女たちの言葉を止める。3人ともびっくりした顔で私を見ているけど私はそのまま黙るつもりはなく言葉を続ける。


「どこで生まれ育っても何歳でも結婚願望があっても無くてもいいじゃん。この時代にまだそんなこと言ってるなんてよくないよ。例え酒泉さんが婚活に必死でそれが上手くいってなくても私たちがどうこう…」

「苗字ちゃん後ろ!」

「え?」


同期にそう言われ振り返れば私の後ろに酒泉さんがなんとも言えない表情で立っていた。やばいと思い声を掛けようとする前に彼女は足早にこの場を去って行く。私は目を瞑って大きな溜息をつく。


「苗字さんごめん私たちのせいで…」

「そうだよ苗字ちゃん酒泉さんのこと庇おうとしてたのに、私たち酒泉さんに話してくるよ…」

「庇おうとしてたわけじゃなくて、誰でも自分なりに好きに生きててもいいって言いたかったの。私たちは酒泉さんの友達でも家族でもないんだから口出しするのは余計によくないことだと私は思う。話はしなくていいよ私は元々嫌われてるから大丈夫。気にしないで!じゃあ私先にデスクに戻るね!」


テーブルの上の私物を片付けて休み時間で人が少なくなっているオフィスに戻り酒泉さんを見れば彼女もこちらを見るがすぐに目を逸らされてしまう。自分でも言った通り私は彼女の友達でも家族でもない。お互い職場だけの関係だし大人だ。先程のことをわざわざ持ち出して話すのは良くないかもしれない。そう判断して私は特に弁解することもなく気は重いが今回はこのままそっとしておくことにした。



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「…ってことがあったの。私のこの先のキャリアがまさかの形で危機を迎えちゃった。」

「あのさぁ、アタシは名前の職場のことを聞きにきたんじゃないのよ。煉獄の話よ煉獄!」

「あー!そうだったね!」


仕事を終え待ち合わせしていた梅ちゃんと合流し居酒屋に入った。まだ月曜日なのでお酒を控えめに飲みながら私は今日あった職場のことを話していたら梅ちゃんにそう言われハッとする。


「梅ちゃんがセッティングしてくれた合コンのおかげで杏寿郎と出会えて無事にお付き合いすることになりました!週末もずっとお泊りして楽しく過ごしてたよ!」

「ねぇあのアンタがしれっと彼氏作ってクラブにも顔出さないで男とお泊り尽くしって…あ、もしかしてアイツ絶倫とか!?夜そんなすごいの!?」

「あははっ絶倫って…!そんなことない…とは思う。知らないけど。」

「え?」

「えっ?」

「やだアンタもしかしてまさか、まだアイツと寝てないの…!?」

「あー…そうだよ…」

「うっそ、まだ寝てもない相手と付き合ってしかもセックスなしのお泊まりまでして楽しかったって……名前アイツに本気なのね…」


男の話になるといつもは根掘り葉掘り言葉絶やさず色々な質問をしてくる梅ちゃんが唖然とした顔で私を見つめてくる。梅ちゃんの反応はごもっともだ。私も自身に同じ反応をしてたから。


「意外でしょ。でもね付き合いは浅いけど杏寿郎からは真っ直ぐで率直な気持ちがすごく伝わってくるの。嘘もないし変な下心もない。優しさや誠意があるの。杏寿郎のそばにいると私も同じ気持ちになれるんだ。こんなのはじめてだよ。だから今までの私は封印して真剣に彼と向き合おうと思うの。」

「名前……」

「あー!!昨日までずっと一緒にいたのに杏寿郎の話してたら杏寿郎に会いたくなってきちゃった!うっそやだ!!どうしよう私恋してる!!」

「こんなことが起こるなんて…前にも言ったけどやっぱり赤飯炊きましょ…。あーあってことは名前はもうクラブに来なくなるのね、2人でいると目立って楽しかったのになぁー!」

「別に行くのを止められてるわけじゃないし私もたまには踊りに行くから!あ、そういえばね杏寿郎と天元がまさかの知り合いだったの。」

「うわマジで?そんなことある?」


私の環境が変わってもいつもなんだかんだ味方して支えてきてくれた梅ちゃん。私は友人に恵まれてるなと実感する。私は梅ちゃんとの会話が楽しくて月曜日だからとセーブしてたお酒をついつい飲み過ぎて過ごしてしまった。



〔One day woman and woman/ある日の女と女〕


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