【30. Turning point】



「ねぇフリーズしてるけど息してる?」

「…………」

「………それとも私と付き合ったこと後悔してる?」

「それは断じてないっ!!」

「声デカ!よかった息してた!!」


黙って固まっていたのにいつもより一段と大きい声で答えるから肩をビクッと跳ねさせてしまった。すぐに楽しくご飯ってわけにはいかなそうなので私はお湯を沸かしていたコンロの火を止める。ゆっくりと深呼吸をしてから杏寿郎の方と向き合う。


「杏寿郎と付き合う前の私はそういう人間だった。よく知りもしない男と寝てた。しかも酔ってもないのに寝てた。天元と知り合ったクラブには男漁りに行っていたわけじゃなくてお酒飲んで踊ってただけ。だけど私は前はそういう人間だった。」


私の言葉を杏寿郎は遮ることなく黙ったまま見つめながら聞いてくれていた。その何を考えているか読めない、だけど強く私を真っ直ぐ見ている瞳に少し不安になった。彼は私と違って過去の恋愛で相手をきっと大切にしてきたはず。だけど私は?まともに恋愛していたのは何年も前。ただ男と寝まくって心の関係は築いて来れなかった女だ。私が遊んできた事を彼が少しは知っていたとは言え、やっぱり少なからず軽蔑されるのかな。自分のことは自己責任だからいいとしてたけど、彼にどう思われるかは正直不安がないとは言い切れなかった。


「だけど私はこんな風に誰かにご飯を作ったことはない。彼氏がいたときも料理はできないフリしてた。それに絶対に泥酔してた姿を見せないためにも男と過ごすときは死ぬほど大好きなお酒を少ししか飲んでなかった。家に恋人を連れ込んだのもはじめて。セックスしないで一晩過ごしたのもはじめて。私にとってはこれは、ものすごく変なこと。だって今までとは全然違う。それは……杏寿郎が今までの人とは違うから。だから私の心構えも変わったの。」


ほんの数秒見つめ合ったままの沈黙が続く。気まずくなって視線を外し下に向けると杏寿郎がそっと私の頬に片手を添えてくる。


「名前こっちを見てくれ。」


目線を上げれば彼は眉を下げ柔らかく微笑んでいた。その温かみのある笑顔に少しだけホッとする。


「誰でもそれぞれの過去がある。俺は君の過去と付き合ってるわけではない。過去を抱えた今目の前にいる名前と付き合ってるんだ。俺の前でひどく泥酔して家に上げてくれてただ寄り添って寝てくれて、今は料理してくれている!そして俺の好きな人だ。そんな君と付き合えて俺は幸運だ。」


もう片方の手でも頬を包んできてそのまま優しくキスをされる。顔が離れていき彼の顔を見たとき不安は消えていた。彼と同じく私も柔らかく微笑んだ。


「このパスタ食べさせて杏寿郎のこともっと幸せにしてあげる!」

「それは楽しみだな!」


私は心を穏やかにして再びコンロの火を付けた。



〔Turning point/変わり目〕


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