【20. Drowning in you】



御膳で出てきた食事はどれも美味しくて、今はご好意で頂いた黒蜜きな粉アイスを食べ終えたところだった。


「ごはんもデザートも美味しかったぁ…お腹いっぱいで幸せ…」

「喜んでもらえた様でよかった!天気もいいしこの後は海岸の方を歩いてみないか?」

「海近いの?私海って大好き!」


無邪気に笑う彼女が可愛くて釣られて笑顔になってしまう。お店のおばさんとおじさんに挨拶をして店を出れば再び車を走らせて海岸沿いのパーキングに停める。すぐ近くにあるカフェで飲み物をテイクアウトすれば砂浜まで来て一歩足を踏み入れる。だが隣に並んでいたはずの名前がコンクリートの地面と砂浜の境界線で立ち止まる。どうしたのかと思ったが足元を見て理解した。


「そっちの道沿いを歩こうか。」

「ううん大丈夫、ちょっと待って…」


先日俺が見つけた靴を彼女は履いてきてくれた。その事を嬉しく思い彼女が踵の高い靴を履いていたことを知っていたのに砂浜へ行こうと誘い出してしまった。それでは歩けないと思い歩道に戻ろうとすれば彼女は靴を脱げばそれを手に持った。


「行こう。」


空いてる片手で俺の手を取り砂浜へ歩き出す彼女。あぁ君は本当に想像もつかないことをする。大人っぽく振舞ったり子供みたく無邪気になったり、そんなところに俺が強く惹かれているのを君は知っているか?


「海って夏しかなかなか来ないけど、春の海も気持ちいいね杏寿郎。」


靴を脱ぎ先程より背丈が小さくなった彼女が俺を見上げ髪とスカートを風に揺らしながら言い、思わず足を止めて見つめてしまう。


「名前……俺は君のことが…」

「……ねぇラテが冷めちゃうよ!飲もう!」


繋がっていた手をパッと離し俺が持っている紙袋を奪えば波際から離れたところにあるベンチに座る彼女。はぐらかされた感じもするが、俺もここでうっかり何を言い出すつもりだったんだろうと少し反省をする。


「杏寿郎ってサーフィンとか似合いそう。それにすぐ波に乗れそう。」

「うーむ、やったことはないが興味はあるな!」

「ウェットスーツとかも似合いそうってか海似合うよね!暑苦しい感じが!海の家とかで焼きそばとか焼いてそう!暑苦しく!」

「褒めているのかそれともけなしているのか?」

「んー?まぁ杏寿郎となら海も楽しめそうってことだよ!」


ラテを飲みながら誤魔化されたが、夏も俺と一緒に居ることを少しでも考えていてくれたのかと思うと嬉しくなったのでそれ以上は追求しなかった。


「ねぇまだ海水って冷たいかな?」


名前は立ち上がり波際まで行けばそっと爪先を波の方まで伸ばす。が、そのとき波が予想より高くザザンと打ち寄せ膝程まで海水が掛かった彼女は悲鳴を上げた。


「いやぁあめっちゃ冷たいいっ!!」

「わっははは!どれどれ!」


自分も乱暴に靴を脱ぎパンツの裾を捲り上げれば彼女の方まで走り寄る。この辺りならそこまで濡れないだろうと思っていたところで足を止めるが、波が打ち寄せたタイミングで彼女が強く背中を押して来る。


「よもやっっ!?」

「笑った罰よ!」


自分から冷たい波を迎え入れ捲り上げた裾すら少し濡れてしまい思わず声を出す。彼女はケラケラと楽しそうに笑っていて、そこで俺の悪戯魂に火が着く。


「よしっお返しだ!!」

「やっちょっ!?」


軽々と名前を両手で持ち上げ海に向かって歩みを進めれば彼女は声を荒げた。


「流石にそんなことしないよね?ねっ杏寿郎?杏寿郎!?お願い早く砂の方に降ろして!ねぇってば!!」

「はははっ懲りたか名前!あまり俺をからかい過ぎると俺も大人しくしていられないぞ!」

「じゃあ投げれるものなら投げればいいじゃん!ずぶ濡れのまま杏寿郎の車に乗るんだからね!」

「別にかまわない!!」

「可愛い名前ちゃんが濡れて風邪でも引いたらどうするの!!」

「むう、それは困るな…」


そっと彼女を波が低い位置に下ろせば睨まれており、少しやりすぎたとなと思いすまないと謝る。気まずくて自分の足元を見つめていれば彼女の足が軽くパシャっと俺に水を掛けてる。顔を上げれば眉を下げて微笑む彼女。


「これでおあいこね。」

「……しかし君から始めたことだからこれでは結局」

「お黙り。」

「はい。」


反論しようとすれば強くそう言われ大人しく黙ることにした。



〔Drowning in you/君に溺れて〕


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