【16.One Kiss】



身体の体勢が少し辛い気がしてうっすら目を開く。だけどなんだか温かくて心地が良い気持ちもある。ちょっとしてからこの暖かさが私の体温じゃないと気付いて意識がはっきりする。あぁ話しながら寝てしまったんだ。時計を見れば深夜の2時を過ぎた頃だった。身体を少し起こすと私が寄り掛かっていた杏寿郎もモゾモゾと動き出す。


「…起きたのか?」

「うん、ごめんね寝ちゃったみたい…」


そう言いながら身体を離そうとすれば強く腕を引かれ杏寿郎の鍛えられた胸元に思いっきりダイブしてしまう。


「もう少しこうしていてくれ…」


彼の体温や心臓の音が伝わってきてドキドキするのに心地良い。身体を預け再び目を閉じようとしたところで冷静な心が働きかける。


「友達はこういうことしない。」

「俺たちは友達か?」

「恋人じゃないのは確か。」

「けど寄り添ってきたのはそっちだぞ?」

「………」


返す言葉が無くなってしまった。どうしてこうも杏寿郎には隙を見せてしまうんだろう。先日会ったっきりで終わりのはずだったのに。こうしてまた会って身まで預けてしまっている。


「ねぇソファだと身体が痛くなるからベッド行かない?」

「……それは色々とキツいな。」

「お付き合いしてない女性には手出さないんでしょ?」

「そうだ!しかし君はその意思が揺らいでしまいそうになる程魅力的だからな!俺は帰らせてもらう!」


バッと立ち上がる杏寿郎。意外とそこは簡単に引き下がるんだなぁと思った。んーやっぱり身体目当てだったのかな?なんてことも思う。もう失くした靴も戻ってきたし、私たちが再び会う必要はなくなった。そう考えるとほんの少しだけ寂しい気がした。ほんの少し。


「そんな顔をするな、俺はこれっきりにするつもりはない。名前は明後日は暇か?」

「日曜日?うん時間は作れるけど…」

「日曜日10時に迎えにくるからマンションの下に来てくれないか?」

「デート?」

「君は俺の恋人じゃないからデートじゃないなぁ。」

「もうっ早く帰って!」


わざとらしく言い返されて笑いながら彼の背中を強く押す。なんだか上手に回られた気がして納得いかなかったけど、そのお誘いを断る気はなかった。玄関先で靴を履きドアに手をかけながら振り返る杏寿郎。


「では日曜日に。」

「日曜日に。」


ドアを開き出て行こうとする彼の服の胸元を両手で掴み強く引きこちらを向かせれば頬にちゅっとキスをひとつしてやる。


「フレンドシップだから深く考えないで?おやすみ杏寿郎。」


ぽんっと身体を押して玄関から追い出せばドアを勢いよく閉めて鍵をガチャっと閉める。外で杏寿郎がどんな顔をしているか気になったけどそこは我慢してリビングに戻り片付けを始めた。



〔One Kiss/キスをひとつ〕


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