【12. T.G.I.F again with you】



例の私的に大事件の日から1週間が経ちまた金曜日がやってきた。以前よりも一段と当たりの強くなったお局上司にいじめられながらも今週も大変よく頑張りました。早くご褒美のお酒を浴びるほど飲みたい。


「お先に失礼します、お疲れさまでした。」


言いながら軽い足取りで会社を出る。誰かと呑みに行こうかなぁ久しぶりに家でのんびりもいいかも。そんなことを考えながら駅ビルに入っているショップにフラフラ立ち寄る。靴屋さんで春物の靴を手に取り見ていると、先週自ら投げ捨てたというヒールを思い出す。あれ高かったし気に入ってたんだけどなぁ…。そして煉獄さんのことも思い出す。
梅ちゃんの忠告を聞いて次の日に日曜日でも診察してくれる産婦人科に行った。彼とは連絡先も交換していないからどうだったのかも聞けないしね。いつもならワンナイトした男なんて1週間経つと名前も顔もぼやぁっとしか記憶に残らないんだけど、煉獄さんは鮮明に覚えている。いやまぁあの見た目だし!髪も顔も声もうるさかったし!こんな風に思い出してはいやいやと頭を横に振り必死に忘れようとしていた。



ーーーーーーーーーー



お家でのんびり過ごすことに決めて駅ビルでは地下の食品街でちょっと贅沢なおつまみを買った。家の最寄駅のスーパーでも買い物をし家までのんびり歩いた。途中で止めてた海外ドラマでも観ようかな、あの映画はもう配信されてるんだっけ?なんて考えていると自宅マンションの下に停まっている車が目に入る。あの車って確か煉獄さんの…いやいや勘違いだよね。別によくある車種の車だったし…。ってなんで私乗ってる車までしっかり覚えてるの!それに煉獄さんが私に会いにくるはずないし…。けど一応確認…と車の側まで行きさり気なく運転席を横目で見てみる。


「ん?名前さんっ!」


やっぱりお前かぁあーーーーー!!スマホを見ていた煉獄さんが私に気付くと顔を上げパッと笑顔を向けてきた。本当に居たんだけど、この人ここで何してるの…。


「煉獄さん何してるの?ストーカー?」

「そう言われても仕方ない!連絡先も知らなかった故に勝手に家まで来てしまった!許してくれ!」


そう言えば助手席から荷物を取り出し降りてくる煉獄さん。ほんとに何しに来たんだろう…こんな事他の男にされたら絶対嫌だし通報物なのに煉獄さんにはなぜかそんな風に思えなかった。むしろ少しだけ喜んでいる自分がいてもやっとする。


「少し話せるか?」

「…うんいいけど。」


マンションのエントランスにあるベンチに2人並んで座る。買い物した袋から小さいフルーツジュースの紙パックを取り出し1つ差し出すとありがとうと彼は受け取った。


「あれから元気だったか!」

「あれからって1週間しか経ってないじゃん!」

「1週間あれば何事も変わってしまう事だってある!」


相変わらずややオーバーな人だなぁと思い笑ってしまった。紙パックにストローを刺しジュースを飲んでいると煉獄さんが持っていた荷物の紙袋からガサゴソと何かを取り出した。彼の手には先週私が失くしてしまったあの靴があった。


「えっ靴、どうして…」

「お気に入りだったと失くしてがっかりしていただろう。先週君を送り届けた後すぐに失くなった辺りで探してみたんだ。無事に見つかったが片方のヒールが折れていたからこの靴のブランドの修理店に出してきたんだ。問題なく履けるだろうか?」


そう言って私の前に跪く煉獄さん。私は黙ったまま手に持つジュースをベンチに置き履いていた仕事用の靴を少し乱暴に脱ぎ彼が手に持つ靴に爪先からそっと足を入れる。その後続けてもう片方の靴も履いてから立ち上がる。煉獄さんも立ち上がって顔を見上げるとヒールの高さのおかげで顔が近くなった。


「このためにわざわざ来てくれたの?」

「会えるかわからなかったが、どうしても渡したかった。それにまた君に会いたかった…」


きゅっと優しく手を掴まれ煉獄さんの温かい手が私の冷え性で冷たい手を指先で撫でた。そこから熱がジワジワと伝わってきて顔が熱くなった気がした。目を少し伏せれば彼の唇が見える。そのままお互いに顔を少しずつ近付ける。


ーガタンッ


エントランスからドアが開く音が聞こえて慌ててお互い身体を離す。何もなかったですよぉ〜みたい顔してこんばんはぁ〜なんて出てきた住民に挨拶する。はぁ…危なかった。


「そ、そのすまない、無事に渡せてよかった…!」


押しかけてすまなかったと言いがら背中を向け車へ歩き出す彼の顔は真っ赤だった。私ははぁっと大きなため息をひとつついてから口を開く。


「ねぇ、マンションの来客用の駐車場がそこにあるから車停めてきたら?」

「え?」

「帰るの?寄っていくの?」

「…停めてくる!!」


車まで小走りする煉獄さん。その後ろ姿がなんか可愛く見えて笑ってしまう。何にも考えずに家に来るかなんて誘ってしまった。私も彼と一緒で突拍子もないことしてるなぁ。

車を停めてくると私の荷物を代わりに持ってくれた。私は煉獄さんが見つけてくれた靴を履いたまま玄関までの短い距離をカツカツとヒールの音を鳴らして歩いた。



〔T.G.I.F again with you/金曜の夜をあなたたと再び〕


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