【10. There's no more】



自分には大きい煉獄さんのフラットサンダルを借りて彼の車へ乗り込む。助手席に座りシートベルトをして自宅住所を彼に告げる。ここから30分程かかるとナビに表示されていた。昼間で道が混んでいる時間帯で30分ならここから家はそこまで遠くないみたい。


「名前さんは普段からあんな飲み方をしているのか?」

「んーここまで飲み潰れたのは久々かな…昨日は会社で嫌なこともあったし、ぶっちゃけて言っちゃうと煉獄さんのことが苦手でその場しのぎでついついお酒が進んじゃって。」

「俺のことが苦手?なぜ苦手と感じた?」

「なんでだろう、みんなと合流したときに煉獄さんを一目見て何故か苦手意識が働いたの。ドギマギする感じ?汗も掻いちゃって!今はそこまでだけど、もしかしたら直ぐに手を出してくる男だから気を付けろ〜って本能が警告してくれたのかも。」


警告も虚しく食われた、いや食った?とにかくそうなったけど。煉獄さんはうーむと悩みながら進行方向を真っ直ぐ見つめていた。かと思ったらいきなりこちらを向き目をかっ開いてキラキラの笑顔で見つめてきた。


「実は俺も君を一目見て胸が苦しくなった!そのときは何故かも気に留めなかったが、もしかしてこれは互いに一目惚れしたのではないだろうか!!」

「なんでそうなるの!?私の話聞いてた!?苦手意識があったって言ったよね!?」

「無関心よりは良いではないか!!」

「わけわかんないっ…」


話が噛み合わないなぁとため息をつく。再び真っ直ぐ前を見ている煉獄さんをチラリと見る。彼は確かにかなりの男前だし身体も鍛えられていてガッチリしている。それに優しくて良い人だ。ほんの少ししかまだ一緒に居ないがなんとなくそれがわかる。人の良さが滲み出ている。だけど私には関係ない。彼氏が欲しいわけじゃない。ずっとではないかもしれないけど今の私には少なくとも必要ない。だから彼がどんな言葉をくれてもまともに受け取る気はなかった。


「私彼氏とかはいらないんだ。今は誰かに縛られずに自由でいることが一番楽なの。」

「うむ、けど君は親しくない男と一夜を過ごすことがあると言っていたが、それは結局何かを求めているからだろう?」

「求めてるのは愛とか絆とかじゃないの、ただ楽しくやりたいことを全力で楽しむの!それだけだよ。」

「繋がりを作るのが怖いのか?」

「違う。繋がり自体を作れない性分なの。私が関係をダメにしちゃう。壊し屋なんだよ。って、ちゃっかり話聞き出すのやめてくれない?」


自分の身の上話なんてあまりしないのについ喋ってしまった。煉獄さんのペースに飲まれないように気を引き締め直し窓の外を見る。見知った通りを走り始めて自宅が近いとわかった。


「俺はちょっとやそっとじゃ壊れない。それでも君に近付くのはだめか?」


自宅のマンションの下に着き車をゆっくり停めると真剣な顔で見つめてくる煉獄さん。その目だ。なんだか私の心を見透かして来そうな力強いその目が初対面のときから苦手だと思った。


「…だめ。次なんて私達には特に私にはないから。」


送ってくれてありがとうじゃあね、と言い彼のサンダルをそのまま車の中で脱ぎドアを開け車から降りマンションのエントランスへと入っていく。煉獄さんは何にも一言も声をかけてこなかった。これでいいの。彼もなんてことないただ一晩過ごしただけの男。


エレベーターを降り家の前まで来たときマンションの廊下から見えるエントランスを見下ろした。停まっていた車はとっくに居なかった。それを少し寂しく思う私はなんて愚かなんだろう。



〔There's no more/これ以上何もない〕


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