【09. Is dawn still??】



「動くとちゃんと洗えないぞ!」

「だってなんか擽ったいんだもんっ!」


自宅に着けば履物なしで出歩いていた名前さんの足を洗おうと風呂場へ連れて行く。足を洗うといえばはーいと返事をし俺がいるのも構わずにワンピースの裾をめくりストッキングをその場で脱ぎ出したので慌てて背中を向けた。そのあと彼女を浴槽の縁に座らせしゃがみ込んでシャワーを手に取り水からお湯へ変わったあとに足を濡らしていった。


「面倒見がいいね杏寿郎、兄弟とかいるでしょ?」

「弟が一人いるぞ!」

「やっぱり!」


お湯が気持ちいいのか目を瞑って少しだけ眠そうな表情になっていたところに、片手にボディシャンプーを出し足に付けぬるぬると洗い始めると彼女はビクッと足を引っ込めジタバタとし出した。


「ふははっそれは無理やっぱり擽ったい!!」

「こらっ暴れると縁から落ちてしまうぞ!」

「えっなに?うわっ!!」


言ってるそばから彼女はずるんっと縁から空の浴槽の中に落ちかけた。反射的に俺の腕を掴んできて一緒に身体が落ちかける。掴まれてない片手で持っていたシャワーを離し彼女の後頭部を守る様に手を回し足を踏ん張らせなんとか勢いよく落ちないようにする。衝撃は少なくすとんっと浴槽に収まる彼女。上から俺が覗くような形になった。手を離したシャワーが暴れて俺たちをずぶ濡れにした。彼女の白いシャツワンピースは濡れて肌に張り付いて肌色が透けて身体のラインが出ている。思わず思考が停止して見つめる。彼女はキョトンとした顔で見つめ返してくる。


「ぷっあはははは!」

「ふっ……ははは!」


彼女が吹き出し笑い出すとつられて俺も笑ってしまった。あまりにも無邪気に笑うものだから先程までの緊張感など無くなってしまった。シャワーを止め笑いながら彼女を抱き起こすと両腕を俺の首に回してくる。お風呂場で響いていた笑い声は止まりまた沈黙になった。お互いの顔の距離が近くなり至近距離のまま見つめ合う。


「ーっくしゅ!」


鼻先と鼻先が微かに触れ合ったとき少し身を引き彼女がくしゃみをする。まだ春先で夜は冷える。風邪をひいては困ると失いかけていた理性を呼び戻す。


「着替えを持ってくる、きちんと拭くんだぞ?」


洗面所の棚からバスタオルを出し彼女の頭からすっぽり被せる。自分の分のタオルを手に取り拭きながらクローゼットのある寝室へ入る。危なかった…父上、母上、杏寿郎はこの試練になんとか耐えてみせました。先程のずぶ濡れの彼女、重なりかけた唇。思い出してしまいいかんと頭を振り深呼吸する。タオルを首に掛け彼女の着れそうなTシャツとハーフパンツを取り出し洗面所に戻ろうと寝室を出たところでさらなる試練が俺を襲った。彼女は自分の服のボタンに手をかけながらこちらへ歩いて来た。


「なっなっ何をしている!!」

「何って服が濡れたから脱いでるの。」


あっという間にワンピースとインナーのキャミソールを脱ぎポイっと床に投げ下着姿になった彼女に慌てて首に掛けていたタオルを肩から被せる。俺を見上げる彼女はこれっぽっちも恥じていない。その姿に俺だけがずっと振り回されている気がして少しだけムッとした。


「君は俺を誘っているのか…」

「誘ってるって言ったらどうする?」


思わず両肩を掴み自分の方を向かせると首を少し傾げ色っぽく微笑む彼女。被せられたバスタオルの中でモゾモゾと手を動かしついに下着すら脱いでしまったようだ。床にストンと落とすと挑発的に眉を少し上げる。俺の両手からするりと抜けると勝手に寝室に入り込む。
父上、母上、俺はどうやらこの試練に俺は耐えられそうにありません。彼女に触れたい、彼女の挑発に乗ってしまいたい。彼女を知りたい。遅れて追いかけるように寝室に入るとバスタオルが床に落ちていて彼女はベッドに入り込んでいた。意志の弱い男で大変情けないが理性に別れを告げベッドに近付けばなんと彼女は眠っていた。


「本当に寝ているのか…?あれだけ誘っておいて…」


問いかけると彼女が眉間に皺を寄せて薄く口を開く。


「からかっただけだよ、だって杏寿郎は酔ってる女相手にホイホイ手を出すような人じゃないってわかってたもん。」


ね?と先程とは打って変わって柔らかく微笑んで俺の頬に片手を伸ばし優しく包んだあと再び目を閉じてしまった。


「よもやよもやだ…」


そんなことを言われては思い切って捨てようとした理性をしっかり呼び戻さなければならない。掛け布団から出ている肩まで布団をかけ直しながらじっくりと彼女を見つめる。綺麗で大人っぽい顔つきも寝顔は少しあどけなく可愛らしい。
結局最初から最後まで彼女は俺を振り回し俺を置いて寝てしまった。最後にかけられた言葉を呪いのように受け止め、なんとか自分を落ち着かせる。しかしいつまでも裸で眠る彼女のそばにいてはそれも難しい。今日はソファで寝るかと部屋を出る。


結局脱ぎ散らかされた服や下着を拾い集めるとまたもや俺の葛藤が始まる。朝はまだまだ遠い。



〔Is dawn still??/夜明けはまだか?〕


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