【08. Barefoot Cinderella】



「どっちが多くショットを飲めるか、ギブした方が負けだからね。」

「うむ!俺もそこまで酒には強くないが受けて立とう!君はすでに俺よりかなり飲んでいるが本当に大丈夫なのか?」

「これぐらいでやっとハンデになるでしょ?」


酒で頬を赤くし微笑む彼女はやけに色っぽくて長く見つめてしまった。誰から見ても美人と言えるし、背も女性の中では高い方だろうすらっとしていてスタイルも良い。そんな彼女がショットをやると言うのだから周りのギャラリーも少しざわつく。バーテンが俺と彼女の顔を交互に見てそっとショットグラスを二つ置く。


「それじゃいくよ!」

「!?!?」


自ら始まりを告げた彼女は瞬時に俺の分のグラスまで奪い両手に持ったかと思えば、グイッグイッとどちらもあっという間に飲み干してしまう。これには俺も周りの人達も驚いた。


「よもや!?飲み比べではなく取った者勝ちなのか!?」

「私に見惚れてるのが悪いんでしょ!」


一緒に出されたライムを齧りながらバーテンにお代わりを頼む。よもやよもや…見つめていたのがバレていたか…。バーテンがグラスにお代わりを注ぎ終わりボトルを持った手を引っ込めようとしたところを、彼女の腕が伸びボトルを掴む。注がれたものをまたあっという間に飲み干し自分でグラスに酒を注ぐ。
あの子やるじゃん、すげぇ、と周りの男たちがざわつく。うむ、あまり好かないなこの状況…。


「名前さん君の勝ちだ!俺は負けを認めよう!ここは負けた俺が奢るからそろそろ出よう!」

「えーやだ私まだ帰らないよ?」

「他の場所へ連れて行こう!」

「なにそれ行く行く!」


最後にもう1杯ショットを飲む彼女。ここまで来るとその飲みっぷりに感心してしまいそうだ。会計を済ませ外に出るとさすがの彼女も足元がかなりフラフラとしていた。自分もまぁまぁ酔っているのをいい事に、転ばないようにと片手でグイっと腰に手を回してみると彼女も俺の背中に腕を回して来た。顔を見下ろすとにへらっと笑いかけてくる。


「ねぇどこに行くの?」

「俺がよく行く場所だ!」


やったーと喜ぶと彼女。だが俺はどこか店に連れて行くつもりではなかった。さすがの彼女ももう限界だろうと思い自宅へ連れて行き寝かせようと決めた。下心が全く無いわけでない!だがシラフでもない女性に手を出すなどそんなことは決してしない。大通りへ出て手を上げ通りかけたタクシーを呼び止める。彼女を乗せてから自分も乗って運転手へ自宅の住所を告げる。
窓枠に肘をつき手に顎を乗せ外をぼぉっと見ている彼女の横顔にまた見惚れそうになる。随分とすんなりとタクシーに乗ったなと思い何気なく足元を見るとなんと彼女は裸足だった。


「何故裸足なんだ!?!?」

「え?あぁ、素肌で地球を感じたいから?どこかに投げてきちゃった!」


ヘラヘラと笑っている…どうやら俺がタクシーを止めている隙に靴をどこかに置いて来たらしい。やけに大人しいと思ったらとんでもない破天荒っぷりを発揮していた。彼女には驚きっぱなしだ…。この酔い様だ、戻って靴を探すにしても彼女はどこに置いて来たか詳しく覚えていないだろう。明日は俺が車で送って行くか…。


「靴両方なくしたらシンデレラにもなれないんじゃね。ただの裸足。」


靴がなくても見つけてみせるなんて初対面の君に言ったらおかしいだろうか。


「まぁ靴履いてても泥酔してるシンデレラなんていやだけど!」


なんて楽しそうに言うから俺は思わず笑ったんだ。



〔Barefoot Cinderella/裸足のシンデレラ〕


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