「……ん」
もぞり、と暖かで気持ち良いベッドの中でひとつ寝返りを打つ。
まだ頭はぼんやりとしていて覚醒までには到っていない。
半分寝惚けた頭で、心地良い温もりをまだまだ甘受していたいと身体を掛け布団の中に潜り込ませた。
感じるぬくもりが心地いいと思うのは、気持ち良いからだけじゃない。
自分以外の体温がすぐ隣にあるからだ。大好きなひとのぬくもりが。
直に感じるぬくもりは、酷く満たされて安心できて、とても愛しい。
幸せとはこういうことを言うのだと知った。
…………とにかく、まだまだベッドから出ずに眠っていたい。
そう思うのに、窓から差し込む朝日は寝惚けていた頭を完全に目覚めさせてしまった。
気持ちと身体は相反して、眠ろうと目を瞑っても一向に睡魔は訪れてくれない。
抱き枕がわりに抱き締められていて、その感触がまた心地良いからまだ眠っていたいのに。
今日は休日だから学校の心配もなくて、懸念材料は一つもないのに。
変わらず巡る時間は、どうやらそんな些細な願いさえ許してくれないらしい。
そのくらい、叶えてくれたっていいじゃないか。疲れているんだから。
理由はまぁ、あれだけど。
「かい、起きる? それとも二度寝する?」
「二度寝、か。結構な誘惑だが、どうしたものか」
そう言いながらも、抱き締められたまま離してもらえない。
寧ろ更に強く抱き締められるばかりで、ちょっと身動ぎしようにも出来ない状況になってきた。
でも、こんな状況なのに離れたくないと思うのは僕の我が儘なのか。
だけど彼がそうしたのだから、きっと彼も同じ様に思っているのだろう。
寝乱れて少し皺の寄った彼の寝間着を軽く掴んで、僕のほうから身体を密着させる。
元々近かった体温が更に近くなって、それが心地良い。
人肌は安心できるとか落ち着くとか気持ち良いとか言うけど、正にその通りだ。
僕の場合は相手が限定されてしまうけど、何時までもくっついていたいと思う。
寝起きに寒さを感じる様な季節でないとはいえ、どうしたって心地良く感じてしまうから。
距離が近くなった分、ふわりと彼の香りが強くなった。
彼の香りさえもいい香りだって思えてしまう僕は相当彼に溺れているのかな。それとも惚れた弱味ってやつかな。
どっちでも構わないけども。
だって、今この瞬間が酷く満たされている。
この時間が少しでも長く続けばいい。
ああ、もうずっと此処に居たい。
まだ当分叶いそうにない願いだって知ってるけど。でもそう思ってしまう。
さっきよりも強く、距離はほぼなくなるくらいに抱き締められて、あたたかい体温に包まれる。
それがとても気持ちよくて、覚めてしまった筈の眠気がまた襲ってきた。
もう眠気は完全に飛んでいたのに、不思議なものだ。この気持ちいいぬくもりの所為なのだろうか。
抗わずに任せていると、瞼がだんだんと落ちてくる。
身体が眠気の所為で重くなってきて、うとうとと船を漕ぎ始めた。
耳が彼の胸に密着しているから、とくんとくんと穏やかな鼓動が聴こえてくる。
微かな寝息も聴こえてきて、意識は優しい闇の中へと急速に引き込まれていった。