関わり合いになどなりたくないと幾ら言い張ったところで、相手にそれを聞き入れる意思がないのならば意味がない。
 全くもって、非常に不本意だけど、無意味なのだ。
 どれだけ此方が意思表示をしたところで、こいつらは絶対に汲み取ろうとしない。しようともしない。
 だから僕は徹底的に抵抗してやるんだ。自分の為にも、沙夜の為にも。
 望みもしていないことを強要されるってこと程苛立つことはない。
 僕らが欲する生活を手に入れる為にも、恐らく何時かは排除しなければならなくなる。
 目障りでしかない愚兄も、その周囲に群がるあいつらも。
 ブラッド・オブ・ボンゴレとかいう、超直感とやらは僕には無いけれど、たぶん、頭のどこかでそれを悟っていた。
 何時か訪れるその時の為にも、今から必要最低限のこと以外、距離をとっておくことが大切なんだって。
 だから。
 此方から求めてもいないのに、必要とすらしていないのに、関わろうとしてくる君達のことを拒絶する。

「……ねぇ、出てきたら? 並盛の秩序サン」

 そうとは気付かれないように、最大限の注意を払いながら移動して、微かな嘲りを含ませて声を掛けた。
 まさか、僕が自分に気付いていたなどとは全く思っていなかったんだろう。
 少し驚いたような、警戒しているような、納得のいかないような、色々な感情を孕んだそんな顔で、並盛の秩序を公言している彼は静かに、ゆっくりと、姿を現した。
 端正な整った顔、その額に、微かに汗を滲ませて。

「……まさか気付いているなんてね。驚いたよ」
「気付く? 当たり前じゃない。そんな粗雑で隙だらけな気配の消し方で、気付かれないって思ってた? …………少なくとも僕の知ってるひと達は、もっと綺麗に完璧に、もっと丁寧に気配を消すよ」

 後半部分は自分にしか聴こえない声で。
 嘲笑を所々に滲ませながら言ってやると、途端に苛立った顔をする。
 雰囲気と表情で納得いかないって、気に入らないって語り掛けてくる。

「……何者なんだい、キミ」
「そんなの君には関係ないでしょ?」

 第一、知られたくもないんだから、訊かれて素直にはい僕はこういう者です、と教える訳がない。
 まず教えたくもないし話したくもないというのが本音だけど。
 けれどそんなことはおくびにも出さずにさらりと返せば、更に更に不機嫌になっていく。
 見ているだけで機嫌が急降下していってるのがわかる。

「ねえ、風紀委員に入る気はないかい?」
「何でそんなものに入らなくちゃいけないの。というか入りたくもないんだけど」
「…………キミ、僕の誘いを断るなんていい度胸してるね」
「だから、何?」

 今更だけども、何となくこいつとは口調や一人称が被っている気がする。
 ていうか確実に被ってる。ううん、何かやだ。
 といってももう修正できないんだけどさ。
 ああもう何か凄い疲れた面倒臭いしつこいうざい不快時間が無駄。
 こっちは早く愛しの沙夜とご飯食べにいきたいのに。
 …………もうさっさと沈めちゃおうか。さっきもそうしたんだし、よし決定。そうしよっと。けってーい。
 にやりと歪に唇を歪ませた。
 とびっきりの悪意と敵意と、ちょっぴりの愉悦を含みながら。
 やり方は、どうしようかな。さっきと同じでもいいか。早く済ませるに越したことはないし。
 そういえば、何時だったか誰かが、人間は大きなショックを受けると、その時の記憶を忘れてしまうことがあるって言っていたっけ。
 だったら、そのつもりでこいつを沈めてみようか。
 こいつ経由で愚兄達に僕のことが伝わってしまっても厄介だから。
 要らない可能性は、消せるならば早々に消してしまうに限る。後々面倒なことへ発展してしまうのならば尚更だ。
 そうと決まれば。さっさと終わらせてしまおう。

「……恨まないでね?」

 嫌だって言ってるのに、無理やり関係を求めてきた君達が悪いんだから。
 ぼそり、と自分にしか聴こえないだろう声量で呟いて、自分の誘いを断られたことに口元をひくひくと引き攣らせている男へにっこり、花が綻ぶような笑みを浮かべた。
 相手が咄嗟に身構える前に、さっきと同じく気付かれない程素早く回り込み、今度はもっと強く力を込めて首筋に手刀を叩き込んだ。
 途端にぐらりと倒れ込む男に、嘲笑を一つ。

「……関わりたくないって言ってるんだから、放っておいてよ」

 そう一言だけ吐き捨てて、音も無く崩れ落ちた男に目もくれず、そのままそこを後にした。
 ああ、ちょっと待たせすぎちゃったな。早く屋上に行かないと。
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