ばちばちばちと、絡み合う視線と視線の間に真っ赤な火花が散っているような錯覚を起こさせる。
実際にはそんなこと起こっていないのだが、幻覚だと理解していてもそんな風に誤認してしまう人間の視覚って、実はとても凄いのではないだろうか。
「クフフフフ、何故僕に気付いたんです?それなりに気配を消していたつもりだったんですが、っ!!」
「うっさい黙れ喋るな息するな僕の視界に入るな」
マジで黙れ。声聴くだけでも不快だ。
面倒臭いので早々に気絶させた。
気付かれないほど素早く背後に回り込んで、首に手刀を叩き込めばそれで終わり。
僕はそこいらの女より幾分か力が強いのでそれ程力を込めずに済んだ。
ああ本当に弱い。
ていうかあんなに気配駄々漏れだったのに、あれで「それなりに」気配を消してたっていうの?
……比べちゃいけないって解っているけども、どうしてもレベルの違いというものを実感してしまう。
「……よし、誰も居ないな」
きょろきょろと二、三回周囲を見回し、僕と地面に倒れ伏しているこいつ以外誰も居ないことを確認する。
さっきの暴言も、こいつが気絶したあとに思いっきり吐いたから聴かれている心配もなし。
もしかしたら、……まだ面倒ごとがありそうだけどその時はその時か。
取り敢えずぐりぐりとこいつのパイナップル頭を数回踏み躙っておいた。
面倒なこいつを片付けたことだし、さっさと沙夜のところへ行こう。
……別にこいつはこのまま放置でもいいよね。だってこいつだし。よし決定。
無様に倒れる人間になど目もくれず、くすりと一度だけ笑って脚を目的の方向に向ける。
勿論、とうに気付いていたこっそりと着いて来た気配にくすりと嗤いながら。
僕があんたの気配に気が付いていないなんて思わないでよ。
ねぇ、雲雀恭弥サン?
たぶん、あっちは僕に気付かれていないと思ってる。
僕なんかが、気付く訳がないと高を括ってる筈だ。
その概念、思い切り覆してあげるよ。
くすくすくす。小さく笑いが漏れて止まらない。
後ろから着いて来る気配は、そんな僕の様子に気付く様子は微塵もなかった。
良くまぁそんな体で“最強”なんていう称号を名乗れたものだ、と思う。
わざとゆっくり歩きながらそんなことを考えていると、視界の先に屋上への階段が見えてきた。
まだまだ距離はあるから、恐らく此処で多少大きな音を立てたところで、屋上に居る筈の沙夜には聴こえないだろう。丁度死角になっているし、誰かに見付かるような危険性も限り無く低い。
けれども一応人気の無い廊下の角辺りへ向かうことにした。