依然変わらず僕と沙夜の背後で、愚兄とその愉快な仲間達はわいわいぎゃいぎゃい騒いでいる。
 本当に人様の迷惑だから、騒ぐなら校庭とかもっと他人の迷惑にならないような場所でやってくれ。
 被害を被る此方の身にもなって欲しい。叫び声とか笑い声とかその他色々な音の所為で耳が痛いんだ。
 きんきんと耳鳴りにも似た耳に嫌なくらい響く音に、頭痛さえしてくる。
 それに、あんまり群れて騒いでいると、どこからか嗅ぎ付けてくるんだよね、“並森の秩序サマ”が。

「五月蝿いよ、そこ。何群れてるの?」

 ほぉら、来た。
 黒髪黒目の鳥のような髪型に、真っ黒な学ランと《風紀委員》と書かれた腕章。最強の風紀委員長、雲雀恭弥。此処並盛の秩序サマ。
 僕の知る彼の情報というと、これくらいだろうか。
 あ、あとはうざいアサリ貝さんの最強の守護者だっけ。何でも愚兄の周りに集まってる守護者とやらの中でも最強らしい。
 因みに全てとある筋からの情報である。
 とはいえそんなこと僕には関係ない。勿論沙夜にも。
 それに、“最強”の称号が相応しいのは人類最強こと潤さんしかいないと僕は思ってるから、あの程度で最強を名乗るなんて、言わせてもらえると凄く腹立たしい。
 あ、潤“さん”じゃなくて潤“ねぇ”だっけ。曲にぃと付き合い始めたって言ってたから。
 たぶん婚約までそんな掛からないだろうし、取り敢えず、婚約するまで心の中でだけそう呼ばせてもらおう。
 おっと、思考が少々違う方向に脱線してしまった。
 取り敢えず、愚兄達とは距離を取って傍観していた僕達が理不尽な制裁を受ける謂れはないので、静かに静観させてもらおう。
 時折聴こえる悲鳴とか叫び声とか、此処に居る筈のない南国果実ナッポーの「クフフフフ」とかいう気持ち悪い笑い声が聴こえたりするけども無視だ。
 何故此処にいる筈のない毒ナッポーが居る。あいつが居るのって隣町の黒曜じゃなかったのか。
 ……流石に余り五月蝿くなってくると僕の堪忍袋の尾が切れそうだ。ここはさっさと避難すべきだろう。
 それがたぶん、いやきっと得策に違いない。

「沙夜、屋上行こう。此処うるさいし」
「わかった、藍ちゃん。あ、お弁当持っていく?」
「そっか、そういえばそうだったね。持ってこうか」
「うん」

 今更だが、只今昼休みが始まって五分ほどである。
 何の疑いもなく着いて来てくれる沙夜に助かるなぁと思いつつも、鞄に入れていた弁当箱を手に取った。
 中身は何の変哲もない普通の弁当だが、つくったのは自分だ。
 自分のことは自分でするのが一番いい、が僕のモットーである。
 因みに沙夜のも沙夜自身のお手製。
 沙夜の場合は佑にぃが沙夜を上手く言い包めた結果である。よくあるあれだ、花嫁修行。本当に佑にぃは口が上手いと思うよ。
 後ろから聴こえる騒音に思い切り内心で眉を顰めつつ、沙夜の手を引いて教室の扉を出る。
 なんで避難するのかよくわかっていないらしい沙夜は、何も言わず着いて来てくれた。
 こういうとき天然って、言い方は悪いかもしれないけれど、楽で助かる。

「、沙夜、ごめん。先に行っててもらってもいいかな?」
「……? うん、わかった。それじゃあ先に行ってるね。……藍ちゃん、よくわからないけど、気をつけてね?」
「……大丈夫だよ、沙夜。沙夜こそ、気をつけてね」

 ふ、と僕にとっては余りよくない気配を感じたから沙夜を先に屋上に行かせた。
 僕は不穏な気配なんて出してるつもりはなかったんだけど、どうやら沙夜にそんな空気が伝わってしまったらしい。
 よく状況を理解してはいないんだろうけど、普通ではない空気を感じ取ったのか、沙夜は不思議そうにしながらも先に行ってくれた。
 気をつけて、とか、沙夜は意外とこういうところに鋭いから、僕の心配でもしてくれたんだろう。
 天然は天然でも、こういうときの沙夜はとても鋭い。
 ……に、しても。この気配、さっきまでは教室に居た筈なんだけど。
 僕にとってこの気配、ちょっとどころかかなり嫌な気配なんだよね。僕の嫌いな奴の気配。本当、しつこい。
 付きまとって欲しくないのにあっちが勝手に付きまとってくるんだから。邪魔だ。ほんっとうに邪魔。
 せっかく沙夜と二人でらぶらぶしながらお昼を過ごそうと思ってたのに。

「……で? 居るんでしょう、六道骸。もうとっくに気付いてるんだ、さっさと出てきてよ」
「…クフフ」

 ああもう、本当に気持ち悪い笑い声だ。
 レンにぃの笑い声も聴き方によっちゃあ気持ち悪いが、ここまで嫌悪感を抱くことはない。
 ──取り敢えず、どうやってこいつを目の前から抹殺しようか。
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