薄暗い、何処かの倉庫のような場所。扉は堅く閉ざされていて、誰かが入ってくるような気配はない。うっすら土埃の舞う室内に、じゃり、と地面を踏みしめる音が微かに響いた。

「………うぜぇ」

静かな静かな倉庫の中に、男の──それも低く抑えられた、聞いただけで声の主が不機嫌だとわかる小さな呟きが響いて、壁に反響してとてもおかしな音になって呟いた人物の耳に返ってくる。地面を踏みしめる音が聞こえたから誰か人がいるであろうことはわかったけれど、呟きが漏れるまで、人の気配を感じることは出来なかった。人がいるという痕跡はあるのに、気配を消してでもいたのか、男の存在を感じ取ることは出来なかった。

男は壁に寄り掛かって小さく溜め息を吐く。薄暗い倉庫の中では男の顔を見ることもできず、特徴がわかるであろう髪や瞳の色を確認することもできない。男の纏う雰囲気はぴりぴりしていて、苛立っているような、怒っているような、そんな風な印象を受ける。最初の一言以来、男は何も発さない。

ただただ宙を見つめて誰かを待っているのか、其処から微動だにしない。その気になれば男は扉を壊すことができるのに、彼はそれをしない。

「………  、  、」

男の唇が僅かに動いて、歪なカタチを描く。声を発していないのかはたまた小さすぎて聞こえなかったのか定かではないけれど、それを発した男の顔は酷く冷めているように、また底の知れない闇のように暗くおぞましい憎悪を瞳の奥に宿しているように見えた。
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