凛が直弥の居る倉庫に着いた時には既に自分と副隊長の雅を除く全員が揃っていて、あぁやはり自分がラストか、と思うと同時にぴりぴり張り詰めている真剣な空気に気づいた。
「…で、なんなの? 私達を呼び出した用件は」
「そうですよ。しょっちゅうサボる貴方と違って僕達は忙しいんですからさっさと済ませてくださいよ」
「最近はサボってねぇだろうが。そもそも旭、てめぇは薄々感づいてる癖に訊くんだな」
「おや、やっぱりそうでしたか。…というか、僕だけじゃなくて凛も旬も気づいてますよ。貴方の態度を見てれば一目瞭然ですから」
「…は?」
一瞬だけぽかんと呆けたような表情をした直弥は、けれど次の瞬間にはやっぱりか、とでも言いたげな表情をした。どうやら自分はそんなにわかりやすい顔をしていたのか、と自分で自分に呆れているらしい。自分でも、少々自覚はしていたらしい。はあ、と溜め息を吐いてがしがしと頭を掻き毟り、ぶつぶつと何か呟いている。
「で、やはり用件は彼女…柚澤亜美に関することですか?」
「…いや、少し違う。確かにその女もそうだが、どちらかというとその女の家の方だ」
「家?彼女自身ではなく、彼女の実家の方ですか」
「ああ。少し、気になることがあってな」
勿論あの女自身も調べてもらうがなと続けて彼はどこか遠くへ視線を巡らせた。彼の表情は昔を懐かしむような、苦々しいような、どちらともとれる表情だった。
「あんたがそう言うからには、雅が関わってるわけ?」
「…さあな。お前達はどう思ってるんだ」
返答は、疑問系ではなく。肯定系ときた。どうやら全員が恐らくそうだろう、と思っていたことを見抜かれていたようだ。
くつくつと喉の奥でおかしそうに笑い、愉しげに眼を細め、面白そうに口角を吊り上げて。まさしく悪人面、と表現しても違和感の全くないレベルの笑み。ぞっとするほどの冷たさを感じさせる威圧感さえ漂う。知らず、背中を冷たいものが伝った。
───何故この男はこれほどまでに悪人面が似合うのか。
同じ笑顔でも、旭の柔和な雰囲気のそれとは全く逆。正反対の雰囲気が感じられる笑みに凛は思わずぎゅっと拳を握り締める。ばくばくと早鐘を打つ心臓を抑えるかのようにひとつ、ふたつ、ゆっくりと深呼吸をした。
これほどまでに直弥にその笑みが似合う理由を、敢えて、上げるならば。彼女の──雅への、異常なまでの依存と、執着だろうか。それ以外の理由が、思い浮かばない。思い付かない。言うほど彼らのことを識っているわけでも、断言できるほど深く理解しているわけでもないから、はっきりこれと決め付けることはできないが。恐らくは、そうなのではないか、と思う。