頭が痛い。




目も痛い。耳も痛い。


骨の髄から爪の先まで全部が痛い。苦しい。動けない。声も出ない。心臓が痛い。喉も痛い。私生きてる?息してる?痛みを感じてるってことは生きてる?今喋ってる?耳の奥からヒューヒュー聞こえる。目が回る。頭が回る。脳みそ?三半規管こわれた?私の声?口は開いてる?ああ解らない解らない。


昨日…シリウスと別れて、寮に戻って、愛しい彼が顔を真っ青にして待っていてくれて、だけど私の顔を見たらもっと白くなっちゃって…その瞬間訳もわからず走り出してしまって、覚えているのは徐々に滲んで行く歪む視界と、確かに地を踏んでいた足の感覚。


あの時のスネイプの顔を思い出す。もともと血色が悪く白い顔が更に白くなった。きっと私はすごく酷い顔をしていたんだね。嫌いになっちゃったかなぁ。なんて考えてたらまた涙が溢れてきた。湿っている枕カバーはこれまでに溢れ出た涙の量を物語る。腫れぼったい目からはとどまることなく涙が零れる。


無心で走って辿り着いた自室のベッドに潜って無我夢中で泣いていた。…記憶はない。寝ていたとも言い難い。覚えていない。ただ、今まで布団に蹲っていたという事実は温もりが示唆する。


回る脳内では幼い灰色の目と悪戯を楽しむ灰色の目と目を反らしてしまいそうな程まっすぐな昨日の灰色の目が重なって、砕けた。綺麗で引き込まれてしまいそうなグレーは変わらなくても、変わってしまったんだ。昔とは違う。そう言い聞かせなきゃいけないのは好きだったから。


何回掻き消しても浮かび上がる灰色。止めて、消えて。私はスネイプが好きなんだ。




コンコン



「!」



久々の外部からの音に私の体は過敏に反応してしまう。優しいけど威圧感があるノックが耳まで届く。なんとなく誰かわかる…気がするけど…此処は…


少し汗ばんだ腕に動くかわからないけど力を込めて、体を支えさせて起き上がろうとする。するとまたコンコンコンとノックが聞こえた。急げってことね。


「はーい、どちら様でしょうかー?」

「……遅い!早く開けろ!」



大好きな人の焦りを帯びた声に少し笑ってしまう。ドア越しにいてもわかる安心感、好きだなぁ。そして私はゆっくりとドアを開ける。そこにいたのは息を切らしている色白の彼。顔を見るのが久しぶりな気がするけど、私はどれだけ泣いていたのだろうか?














「みょうじ…」


とりあえず椅子に座って貰い、紅茶をいれ、一段落ついたときにようやくスネイプが口を開いた。少し控え目に、シリウスとはまた違ったまっすぐな目で。


「ブラックに…何か言われたのか」

「なーんも言われてないよ」

「嘘だな」


早い返答に焦った。見抜かれている。


「…少し…昔話をしてただけだよ…」


明らかに変わった自分の声色に私だけじゃなくスネイプも驚いただろう。どうしよう、気を悪くしちゃったかもしれない。



「あ、あのね」

「お前のあの顔」



被ってきた声にいつの顔だと一瞬記憶を巡らせる。


「泣いていた」


……シリウスと別れて、寮に戻ってきたときのことか…。嫌われた…かな…。


「辛そうだった」


自然と自分が俯いていっているのがわかる。耳を両手で塞ぎたい。聞きたくない。


「心配した」




…心配…?顔を上げてスネイプを見ればまだこちらを見ていた。まっすぐな目で。私といるときには余りしない真剣な目。


「帰ってきたみょうじを見て、一目でわかった。何かあったんだと。顔を合わせてすぐにみょうじは走って行ってしまったから…ブラックに問い掛けてみようと思った」

「っシリウスに聞いたの?」

「聞いてない。みょうじはそれを望んでないと思ったから」




良かった。「近づくな」と言われたことをスネイプが知ったら、多分スネイプと私の関係は壊れてしまう。良かった。


「それでみょうじに直接聞きにきた」




嬉しい。心配してくれていたことも、真面目な彼が危険を犯してまで直接会いに来てくれたことも、嫌いになっていなかったことも。


だから私は笑顔でこう言うよ。




「だから、何もないってばぁ〜」


ヘラヘラと笑い、スネイプは心配屋さんだね、優しいんだね、好き、と続けたい。この居心地の良さに酔ってしまいたい。このままずっと。


スネイプはまだ納得のいかないような顔をしている。でもね、本当にいいんだよ。


私は願う。この関係がずっと続くようにと。きっと誰よりも好きな君と。

ブルー
こんがらがって

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