目指せ、公認!


部活の休憩時間に、タオルで汗を拭きながら何となく校舎を見上げた。
視線の先には自分の教室があり、そこになまえの姿を見付けた。
なまえは教師と話している。
こっちまで声は聞こえないので会話の内容は全く分からない。
何の話をしているんだろうな、と観察していたら不意になまえがこっちを見た。目が合う。
ああ、アレは機嫌が悪いな。
翼に練習を再開すると言われたのでコートへ戻る。
最後にもう一度チラッと教室を見やると、教師の姿はもうなく、1人教室に残されたなまえが思いっ切り壁を殴っていた。
訂正しよう。“相当”機嫌が悪い。
アイツもこれから部活のはずなので、恐らく一緒に帰る事になるだろう。
その時までには機嫌がマシになっていれば良いが、と思いながらボールを蹴った。




「やあ、柾輝」
「よお、お疲れさん」
「柾輝もお疲れ様」


予想通り帰る時間が同じになったようで、校門のところでなまえと会った。
眉間にシワを寄せている。どうやら機嫌は治らなかったようだ。
一緒に校門を出て、同じ方向へ歩きだす。
機嫌が悪いときのなまえは喋らなくなるので黙って並んで歩く。
愚痴なら聞くつもりだが、なまえから話し出さないのに無理に聞き出すのもどうかと思い、「手、大丈夫か?」と聞いた。
思わぬ問い掛けだったようで何度か瞬きをした後にヘラっと笑った。


「ああ、そこまで見てたんだ。大丈夫だよ、ありがとう」


壁を殴っていた右手を見たが、暗くてどうなっているかよく見えなかった。
とりあえず部室の救急箱から貰ってきた湿布を鞄から取り出し渡す。


「貼っとけよ」
「柾輝は優しいねぇ」
「いや、普通だろ」
「わざわざ持ってきてくれたんでしょ? 優しいよ。ありがとう」
「どうも」
「…何でみんなは分かってくれないのかねぇ…。さっき先生にまた『サッカー部の奴らに関わるの止めなさい』って言われた」


そう言って再び眉間にシワを寄せ、深くため息をつく。
またか…。
悪いことしかしない不良、手の付けられない問題児集団。これが俺達サッカー部の評価。
学年主席の成績優秀な真面目な優等生。これがなまえの評価。
俺達は正反対の評価をされているが、よく共に行動している。
まあ、小学校の頃から仲良かったし、なまえといると楽しいからといった理由からである。
しかし教師達は3年と2年の学年首位が揃って不良集団と一緒にいるというのが嫌なんだろう。
何とかして引き離そうとしてくる。
翼が聞く耳持たないので今度はなまえに標的を変えたようだ。
最近今日のようなことを言われるようになって、うんざりしているようだった。
大体は笑顔で聞き流しているのだが、今日はそういかなかったらしい。
足元に視線を落としたなまえに何が引っ掛かったのか聞いてみた。


「んで、何が気に食わなかったんだ?」
「サッカー部のみんなを悪く言われた。1年前の柾輝たちを悪く言うのはまだ我慢出来たんだ。でもさ、今は全然違うじゃん。サッカーに打ち込んで、授業も出て。みんな優しい良い人なのに認めないで昔の悪い所しか見ないでさ。極めつけに『アイツらとお前は違うんだ』だと。そう言われた時に校庭を見たら休憩中だったけど、みんな汗だくでさ。こんなに頑張ってるのに何で認めようとしないんだろうと思ったら本気で腹立った」
「…お前、俺達を貶されて怒ってたのか?」
「うん。今のみんなを貶したのが許せない。あんにゃろう…。柾輝たちが将来有名なサッカー選手になってもアイツらにはデカイ顔させてやらん、絶対にだ」


そう言いながら道に落ちてた小石を蹴った。
まさか、俺達のことで怒ってくれてるとは思わなんだ。
驚いている俺の隣で、なまえは「どうしたら認めてもらえるんだろう、何で分かろうとしてくれないんだろう」とブツブツと呟いている。
本人たちは教師からの評価とか、もう諦めているし気にしていない。
なのにコイツは本気で考えてくれている。
そのことが何だか嬉しくて、妙にくすぐったかった。
本当に、真面目というか何というか…。良い奴だな。
自分の事を真剣に考えてくれたり、怒ってくれたりする人がいるって良いなとか柄にもなく思ったりした。
笑いながら「俺はなまえが分かってくれてればそれで良いけどな」と言ったら「良くない」と怒られた。
結構本気でそう思ってるんだけどな。
両手を挙げて降参のポーズをしつつ「はいはい、悪かった」というと「視野の狭いこと言ってちゃ駄目だよ」とまた叱られた。
なまえを見ると両手を握って真っ直ぐに前を見据えていた。
そして「絶対先生たちに認めさせてやる。謝らせてやる」なんて事を言っていた。
なまえが「はい!」と手を挙げたので「はい、みょうじさん」と返す。


「私は在学中にサッカー部の人をみんなに理解して貰えるように力を尽くします!サッカー部の頑張りを認めさせます!」
「俺はもっと別のことに力を注いだほうが良いと思いまーす」
「…黒川君がつれませーん」


唇を尖らせてブーたれているなまえの頭をクシャっと撫でる。
「わわわ、何すんだよう」と頭を押さえるなまえ。
意識が髪の方にいっているうちに「ま、俺も勉強とか程々に頑張ってみるか。お前と一緒にいたいし」とか言ってみた。
何となく気恥ずかしいので視線を逸らす。
2、3秒時間が経った後、背後から抱き着かれた。


「うわー、柾輝がらしくないこと言ってるー」
「うっせ」
「でも私も一緒にいたいと思っています」


背中におデコを押し付けているようで声がくぐもっている。
ついさっきまで怒っていたのに、そんな事は忘れたかのように嬉しそうな声で「そっかそっかー」と言っていた。
教師達の俺達に対する評価はそう簡単に変わらないだろう。
それだけ悪い事を俺らは過去にやってしまった。
しかし俺はなまえの隣にいたい。
底抜けに優しいコイツと一緒にいたい。
周りが引き離そうとしてくるなら俺たちを認めさせて文句を言えなくさせよう。
そのためにやれることをやってみよう。


「勉強教えろよ」
「お任せ下さい!一緒に頑張ろうね!見てろよー!」


拳固を作って鼻息を荒くしているなまえを引き剥がし、頭を軽く叩き「ほどほどにな」と言ったら「じゃあ程々にいっぱい頑張ろうね!」と訳の分からない返しをされた。
何だかやる気満々なので「明日からどうなるかな」と思いつつなまえと並んで家へ向かって歩みを進めた。



【目指せ、公認!】



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書きたかった事は「デカイ顔させてやらん、絶対にだ」です。
それ書いちゃったら他に何書けば良いか分かんなかったよー。
完成まで時間掛かったー。

2012/04/24


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