発熱


「ゴホッ…」


自分しかいない部屋に咳が響く。
風邪、引いたか…。
頭がボーっとする。
「今日のユースは休もうか」と悩んでいると階段を上る足音が聞こえてきた。煩い…。
バンッ!と扉が開く音がする。頭に響く…。


「一馬起きろー。ユース遅刻するよー」
「……なまえうるさい…ゴホッ」
「あれ、風邪?」
「多分…」


天井を見ながら適当に返事をする。
ベッドの横までなまえが歩いて来て、俺のおデコに手を当てる。
ひんやりとして気持ちが良い。


「んー…結構高そうだね。一応ユース休みなよ」


さっきまで自分でも休もうかと思っていたのに、なまえに言われると何だか素直に頷けなかった。
のそりと起き上がり、ベッドから出ようとする。


「………嫌だ」
「嫌だって言っても…この状態でサッカー出来るの?」
「出来る」


立ち上がろうとしたが、何故か足に力が入らない。
グラッと視界が揺れて、起こした上体が再びベッドに沈む。
ヤバイ、頭がくらくらする。
これは駄目だ。とてもサッカーなんて出来ない。
呆れた顔をしたなまえが声を掛けてくる。


「一馬くーん、そんなんで本当にサッカー出来るんですかー?」
「……むり」
「そうでしょうとも。英士君に連絡してくるから大人しくベッドで寝てなさい」
「……おう」


そう言ってなまえは今度は静かに部屋を出て行った。
ドアの向こうから「一馬のお母さーん、一馬熱出たみたいですー」「あら大変!大丈夫かしら」というような会話が聞こえてきた。
ベッドに入り直して寝る態勢になる。
ユースに行かないと決めた時から気だるさが増し、起きているのがしんどくなってきた。
重たくなってきた瞼をそのまま閉じ、俺は深い眠りに落ちていった。




目が覚めたら夕方になっていた。
部屋はシンと静まりかえっている。
病気の時は何故か心細くなるもので、起きた時に近くに誰も居ないことが少し寂しかった。
すると突然部屋の扉が開いた。
部屋に入って来たのは親ではなくなまえだった。


「あ、一馬起きた。おはよう」
「はよ…」
「調子はどう?随分長いこと寝てたけど」
「さっきよりはマシだと思う。…朝からずっと居たのか?」
「うん。ほら、熱計って」


そう言いながら体温計を渡してきた。それを受け取り熱を計る。なまえはベッドに腰掛けた。
熱はさっきより少し下がっていた。
体温計をなまえに渡すと、それと交換で薬と水を渡されたのでそれを飲む。
空になったコップを床に置いた。


「あ、一馬のお母さん出掛けたよ」
「はぁ?病人置いて?」
「どうしても外せない用事なんだって。『一馬をよろしく!』って」
「ありえねぇ…。息子の友人に留守番任せるとか…」
「いやー、私信頼していただけてるんだなー。嬉しいわー」
「お前もお前だ。何で朝から居るんだよ。さっさと帰れよ」


一人じゃなかったことに内心ホッとしてるくせに口から出てきたのは生意気な台詞。
なまえはそんな俺の言葉を聞いて溜め息をついた。


「あのね…どうして素直に『ありがとう』が言えないのかな」


俺だって素直になりてぇよ。
でもなまえと話していると気が付いたら思ってる事と逆のこと言ってしまう。
素直になれない自分に嫌気が差す。
そんなことを考えていると、なまえはクスクス笑っていた。
「…何笑ってんだよ」
「いや、一馬は言葉はツンケンしてるくせに表情は素直だなぁって思いまして」
「は?」
「分かりやすいなぁ。一馬のそういう所好きだよ」
「なっ…!」
「ほら、照れた」
「だって、おまえ、いま、なんて…!」
「好きって言ったんだよ。ナイーブな所も、素直じゃない所も。全部ひっくるめて一馬が好きだよ」
「ッ馬鹿か!」
「あはは、茹でたタコみたいに真っ赤だね」


笑いながら俺の頬を軽く引っ張るなまえの手を払い、頭から布団を被った。
「あ、怒った?ごめんね」とかあっけらかんと言ってくるコイツに何だか腹が立って、反撃してやろうと思った。
布団を被ったままなまえに聞こえるようにはっきりと言ってやった。


「俺もなまえが好きだ。お節介な所も、優しい所も、全部」


目から上だけ出してなまえの反応を窺う。
顔を赤くして、口を押さえていた。
「タコみたいに真っ赤だ」と言うと「煩い」と怒られた。
照れたなまえが近くにあったクッションを投げ、それが見事に俺の顔面に命中した。
コイツ、病人相手に手加減無しである。


「…やっぱり乱暴な所は直して欲しい」
「あ、ごめん…」


少し疲れたのか、瞼が重たくなってきた。
そのまま寝ようと決めて目を閉じた。
するとまだ顔の上に乗っていたクッションが退けられた。

「寝るの?」
「おー…」
「そっか…おやすみ一馬。早く良くなってね」


そう言ってなまえは俺の頭を撫でてから部屋を出ていった。
なまえに触られた所が熱いように感じるのは、さっきのやりとりで熱が上がったせいだということにしておこう。
そして、さっきの小っ恥ずかしい発言も熱のせいにしておこう。



【発熱】


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
数年前に書いた文章をリサイクルその2。
久しく高熱なんて出していないので、熱出した時の感覚とか全く分からん。
しかし、普通に考えて風邪引いた子どもを放置して出掛けるとかないと思う。
ので、お姉さんが別の部屋にいるという裏設定があります(←今考えた)


2012/04/07


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