ヤキモチ



「部活が終わったら一緒に帰ろう!」と高尾くんからメールが届いたので、昇降口の近くに腰掛け本を読みながら待っていた。
本に夢中になっていて辺りが薄暗くなっている事に気付いていなかった。
不意に昇降口の明かりが点いた。

顔を上げるとそこに居たのは待っていた相手ではなく、その相棒が立っていた。
緑間くんは下駄箱から外履きを取り出し、こちらをチラッと見た。


「本を読むなら明かりくらい点けろ。目が悪くなるぞ」
「ご、ごめんなさい…」


外履きに履き替えた緑間くん。
何故かそのまま私の隣に座った。
そして訪れる沈黙。
き、気まずい…。

正直言うと、私は緑間くんが苦手である。
凄く背が高いので圧倒されてしまうし、はっきりした物言いも少し怖い。
笑っているところを見たことないし…。

高尾くんが言うには「真ちゃんは凄く良いヤツで面白い。結構可愛いとこもあるんだぜ」とのことだが、私にはまだ彼の魅力がわかりません…。

泣きそうになりながら心の中で「高尾くん早く来て」と叫ぶ。
正面を向いたまま、緑間くんが「高尾は今監督と話していたからもう少し掛かるぞ」と言った。
えっ、もしかして今思ったこと口に出てた?!

バッと口を抑えたら緑間くんが軽く笑った。
わ、笑った…。

驚いて口を開けたままポカンとしていると、「どうした」と声をかけられる。
動揺しつつそれに答える。


「あ、いや、緑間くんも笑うんだなぁと思いまして」
「……お前は俺を何だと思っているのだよ…」
「あ、あはは…申し訳ない…」


緑間くんが笑顔を見せてくれたことにより緊張が若干解けた。
高尾くんの言うようにそんなに怖い人じゃないのかも…。
多少ビビリながらもお話をしてみた。

緑間くんは邪険にするでもなくお話に付き合ってくれた。
何だ、良い人じゃないか。
今まで勝手なイメージを抱いてビビってて申し訳なかったと心の中で謝った。

部活のことや高尾くんのことなどを話し笑い合っていたら、少し離れたところでドサッと物が落ちる音がした。
緑間くんと共にそちらを見る。

そこにはこちらを指差してワナワナ震えている高尾くんがいた。


「あ、高尾くん。お疲れ様ー」
「遅かったな」

「し、真ちゃんが…!


真ちゃんがお膝抱えてるー!!」


そう言って盛大に吹き出しその場に笑い崩れる高尾くん。
笑い過ぎて噎せている。
緑間くんの方を覗うと無表情のまま足を胡座に組み直していた。
お、怒ってる…?

そのまま様子を見ていたら、手近にあった誰のか分からない上履きを爆笑し続けている高尾くん目掛けて投げつけた。
あ、怒ってる。

「いってぇ!!」と叫んだ高尾くんに対し、鼻で笑う緑間くん。
仲良いなぁ。
思わず笑ってしまう。

「真ちゃんにはいじめられるしなまえちゃんには笑われるし散々ですな」とブツブツ呟きながら靴を履き替える高尾くん。
スニーカーに履き替えた高尾くんが立ち上がり私の手を取る。


え?


「お待たせいたしました〜。ってことで帰ろうぜ」
「う、うん…」


……手。
高尾くんが私の手を握っている…。

実を言うと高尾くんとは片手で数えられるくらいしか手を繋いだことがなかったりする。
一緒に出掛けた時も外で誰が見ているか分からないから恥ずかしいという理由で手は繋がない。
互いに照れ屋なのである。

それなのに何で今手を繋いだの? 緑間くんがいるのに。

私の視線は繋がれた手に釘付けになっていて、高尾くんに引っ張られるようにして校門を出た。
門を出たところで高尾くんがいつもと変わらない明るい声で問いかける。


「んで、真ちゃんとなまえちゃんは何の話をしてたんよ?」
「え?! あ、えっと、何の話しだっけ?」
「他愛もないことなのだよ」
「えー、なになにー? すっげー気になるんですけど!」


3人で並んで歩いているがどうしても手が気になってしまって口数が少なくなる私。
高尾くんと緑間くんはコントのようなテンポで会話をしている。

交差点で高尾くんが「じゃあ真ちゃん俺たちこっちだから。また明日なー」と言って空いている手を振る。
いつもと違う道へ行こうとしている高尾くん。
手を繋いでいるので引っ張られる。

混乱しつつ緑間くんに手を振り「また明日ね!」と言うと、何となく握られた手に力が込められたように感じた。


緑間くんの姿が見えなくなった頃、高尾くんが歩くのを止めた。
そして深い深い溜息を吐いた。

突然手を繋いだこと、いつもと違う道を選んだこと、それに溜息を吐いた事。
全てに対して「どうしたの?」と聞いた。

高尾くんはゆっくり振り返り「なまえちゃん、いつの間に真ちゃんと仲良くなったの?」
と聞いてきた。


「まともに話したのは今日が初めてだよ」
「マジで?」
「マジで」
「……何かさ、遠くから見たら2人すげぇ仲良さそうに見えてさ…」
「うん」
「真ちゃんは良いヤツだから、なまえちゃんと仲良くなったみたいで嬉しい。嬉しいんだけど…」


そこで言葉を切って繋いでる手にギュッと力を込めた。
困ったような顔をしながら足元を見ている高尾くん。
こんな高尾くんは見たことがない。

何となく答えは分かっているけれど、彼の口から聞きたいので続きを促す。


「けど?」


高尾くんは少し悔しそうな顔をして呟いた。


「……妬きました」
「ふふっ、妬いちゃいましたか」
「笑うなよぉー」


そして再び深い溜息を吐いた。
繋いだ手に少し力を加えて「大丈夫だよ、私が好きなのは高尾くんだからね」と笑いかけると、彼は恥ずかしいのか唇を尖らせて「アリガトウゴザイマス」と呟いた。


【ヤキモチ】

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

前半がずっと緑間くんのターンでどうしようかと思った。
緑間くんは親しくない人は苗字+さんで呼ぶイメージ。

高尾くんはハイスペックも良いけど、不器用さんでも可愛い。

2013/08/30


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