アイス



「うわ! 信じられない!」
「何がだ」
「部活帰りの買い食いでソレって! マジか!」


指を差した先にはアイスを食べている緑間。
問題はそのアイスである。

緑間の食べているのはカップ入りのシャーベット。

ええー! それー?!
普通部活帰りの買い食いって言ったら○リ○リくんでしょう!
棒アイスでしょう!

緑間を指差しながら「ないわー、それはないわー、緑間わかってないよー」と文句を言う。
手を叩かれ「指を差すな」と怒られた。

叩かれた手を大袈裟に振りつつ「やっぱり緑間は変わっているね。普通は棒アイスですよ」と主張した。
緑間は鼻で笑った後、パクリとアイスを口に含んだ。


「こんなに気温が高いのに棒アイスを食べるお前の方が変わっているだろう」
「私の方がスタンダードですぅー」


ムッとしつつアイスを噛じる。うん、美味い。
アイスが美味しくてちょっと気分が良くなった。
家の方へ向かって歩みを進めつつ、再びアイスを噛じる。

無言で帰るのもつまらないので緑間と話すことにした。
と言っても緑間は聞き手、私が話し手である。

身振り手振りを交えつつ、今日あった面白いことなどを熱く語っていたら夢中になりすぎて悲劇が起こった。
そう、私の手にあったアイスが地面に落ちたのだ。
40円分はありそうな大きな塊が…ボトッと…。


「わあああああああ!!?!」


無残にも地面に身を投げたアイスを見つめながら悲しみに打ちひしがれていたら、頭上から溜息が聞こえた。


「馬鹿め、先の事を予想せず買うからこうなるのだよ」


冷静な声にそんなことを言われた。
腹が立ったので文句を言ってやろうと勢い良く顔を上げる。
私が口を開くより早く、ズイっと目の前に何かを差し出された。

目を凝らして見ると、ソレは先程まで緑間が食べていたアイスだった。


「……何コレ」
「見れば分かるだろう。アイスだ」
「緑間のでしょ?」
「くれてやる。俺には少し多かったのだよ」


「早く受け取れ」と上から言ってくる緑間。

受け取りながら、何かがおかしいと感じた。

多かった?
いや、そんなはずない。
緑間はしょっちゅう汁粉を飲んでいるし甘い物が嫌いなわけがない。
普通サイズのアイスなんてペロリと平らげるはずだ。
なのに、ほとんど口を付けていない上に、多かっただって?
絶対におかしい。

何か裏があるんじゃないかと思い、上目遣いに睨み付ける。
「早く食べろ。溶けるぞ」と言われたのでスプーンを手に取り、それを口に運んだ。
口内に爽やかなソーダ味が広がる。うん、美味しい。

その様子を見て満足そうに頷いて緑間は前を向いて歩き出した。


しかし、小さな疑問が一つ。
違う種類のアイスを食べたはずなのに、味に変化がない。

さっき私が購入し食べていた棒アイスはソーダ味。
緑間が購入し私にくれたアイスも…ソーダ味。

そこでピンときた。


緑間は先の事を予想してアイスを購入したと言っていた。
ということは、緑間は最初から私にくれるつもりでこれを買ったのではないだろうか。

私だったら落とすだろうと。
私だったら落としたあとに物凄くへこむだろうと。
そう想像してコレを買ったのではないだろうか。

真ちゃん、どうなんだね?!

緑間に「こうなることも予想してたの? だから普段は食べないソーダ味なの? そうなの?」とニヤニヤしながら聞いた。
緑間は片手でメガネを上げ、フンっと鼻で軽く笑った。
本日二度目!!


「そんなわけないだろう。お前の馬鹿な行動は俺の予想を超えている。このアイスを選んだのは何となくなのだよ。お前のためではない」


氷のように冷たい声でそう返されてしまった。

しかし、私には見えていた。
そう言っている緑間の視線が泳いでいるのを。
顔が赤くなっているのを。

普段は見せない意外な一面がなんだか面白くて、追い討ちをかけるようにからかってやった。


「じゃあ緑間はこのアイスが本当に食べたかったの?」
「そうだと言っているだろう」
「ソーダ味を?」
「たまにはそんな日もある」
「持った時に『少し多いなー』とか思わなかったの?」
「普通に食べ切れる量だと思ったのだよ」


その言葉を聞き、私はメガネを上げる仕草をし、鼻で笑ってやった。


「馬鹿め、先の事を考えず買うからこうなるのだよ」


緑間の真似をしながらそう言ってやる。
決まった…。

緑間は私の頭頂部を指でグリグリと押した後、さっきくれたアイスを取り上げた。
そして勢い良く食べ始めた。


「ああ! 私のアイス!」
「無礼な奴にはやらん」
「わー! ごめん緑間! 謝るから! からかったこと謝るからぁ!」


涙ながらにそう言うと緑間が食べるのをピタッと止めた。
必死になっている私はそれに気付くのが少し遅れた。

そして言わなくて良い事まで言ってしまっていた。


「緑間は私のことを考えながらアイスを選んじゃうほど私の事を想ってくれていたのか、可愛いやつめとか思ってたことも謝るからぁ!」


その言葉を聞いてアイスを食べることを再開した。
目の前でなくなっていく大好きなアイス…。
ああ、なんということだ…。

再びアイスを失った悲しみに打ちひしがれていたら視界から緑間が消えた。
目の前には何故だかしゃがみこんでいる緑間。


「どうしたの?」
「あ、頭が…」


どうやら急に冷たい物を食べて頭がキーンとなったようだ。
「お約束!」と吹き出して笑ったら、手首を掴まれた。


「…普段だったらこんなことしない」
「うん、そうだろうね」
「お前のせいだ」
「それは責任転嫁ってやつですよー」
「いや、お前のせいだ。いつも冷静であろうと努めているのに、お前が俺のペースを乱すのが悪い。
 全部なまえのせいだ。どうしてくれる」


私を掴む手にギュッと力を込める緑間。
手首が少し痛いとか、身長高いヤツは縮こまってもやはりデカイなとか、色々思うことはあった。
しかし、初めて名前を呼ばれた嬉しさとかで全部が吹っ飛んだ。

顔が熱い。
何もかも緑間のせいだ。

ペース乱されてるのはこっちも同じだ、バカタレ。

照れ隠しに茶化すように「盛大なデレ、ごちそうさまでした」と言っておいた。


【アイス】


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

アイスが美味しい季節ですね。
最終的にアイス関係なくなった…。


2013/08/19


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