勉強会



良く晴れた日。
これから夏になるため日差しは強く、気温も高い。
開け放った窓から入って来た温い風がカーテンを揺らした。
暑さに若干の苛立ちを覚える。

そんなイライラを助長しているのが、目の前にいるイケメンだ。

半べそをかきながら「全然分かんないっすよ。何コレ日本語?」と文句を言いつつ机に向かっている。
文句を言いたいのはこちらの方だ。

図書室へ突然やって来た笠松に「コイツに勉強を教えてくれ」と言われ、この間やったと思われる小テストの答案と、しょぼくれている後輩を押し付けられた。

黄瀬くんの小テストの点数はかなり可哀想な感じだった。
今度の定期テストでこんな点数を取ってしまったら彼は補習に出なければいけなくなる。
そうするとその分部活に出れなくなってしまう。
主将としてそれは阻止しなければならない。
ということで暇な私に白羽の矢が立ったようだ。

笠松自身が教えてやれば良いのにと思いつつ、まあ暇だし受けてやるかと広い心でOKしてあげた。


「どうせそんなに大変ではないだろう、2年前に一度やったことある問題だし」何て軽い気持ちで受けてしまった。
勉強自体は問題なかったのだが、それを解かねばならない人間のやる気が0で。
まぁ進まない、進まない。

黄瀬くんが持っていたシャーペンを机に放り投げ、後ろに仰け反った。


「無理っすよー。もう何が何だか分かんない!」
「こらこら、集中してやんなさいよ」


コロコロとこちらに転がってきたシャーペンを黄瀬くんのノートの上に乗せた。
「勉強なんか止めて練習したいっすー」と嘆く黄瀬くん。
嘆きたいのもこちらの方である。

さっきから「バスケがしたい」と駄々をこねる黄瀬くんにだんだんイライラしてきた。


「黄瀬くん」と優しい声で笑いかけ、今度はできる限りの低い声で「文句ばっか言ってんじゃない」と言ってやった。
「すんませんした」と小さく言った黄瀬くんがシャーペンを手に持った。
観念したようだ。

笠松から「厳しくやって良い」と言われていたので容赦なく指導してやった。
黄瀬くんは綺麗な顔と一緒で、頭の中も綺麗なようで基礎がほとんど頭に入っていなかった。

半泣きになりながら必死に問題を解いていく黄瀬くん。
「そこ違う」とビシッと厳しく言い放つ私。

途中黄瀬くんはあまりの厳しさに「勉強もなまえ先輩も嫌いぃー」と言っていた。
「じゃあ今度から嫌いな先輩のお世話にならないよう頑張るんだね」と言うと「本当に二度とごめんッスよ…」と涙声で言われた。


黄瀬くんはどの教科が苦手とかではなく全般的に勉強が苦手なようで一日だけでは終わらなかった。
図書室での勉強会は数日に渡った。
最初はやる気もなく駄々っ子のようだった黄瀬くんもだんだんやる気になってきたみたいで、私より先に図書室に来て勉強を始めている日もあった。
私は私で、過去の自分の授業ノートを引っ張り出して自宅で黄瀬くん用に問題プリントを作ったり、要点ノートを作ったりして、自分の勉強そっちのけで黄瀬くんに勉強を教えることに熱を入れていた。

勉強が苦手な子が自分の教えたことを吸収していく姿に何だかハマってしまっていた。
問題が解けた時に「わかった!」って表情が子供っぽくてとても可愛いんだもの。
その顔を見たいがために私は私で頑張っていた。



そして定期テスト終了後。
私は自分の成績を見て苦笑いを浮かべていた。
大して問題はないが、順位が少し落ちていたのだ。
黄瀬くんに構いすぎた。

「ドンマイ自分」と心の中で言っていたら背後から突然の衝撃。


「なまえせんぱーいっっ」
「うわあ!」


声からして黄瀬くんだろう。
突然後ろから抱き着かれて腰が抜けそうになった。
文句を言ってやろうと後ろを振り向くと、黄瀬くんは満面の笑みを浮かべていた。
手には一枚の紙。

それを私に手渡して「見てください!」と言った。

見るとそれは成績が書かれた紙で、順位もそこそこ良かった。


「おれ頑張ったっすよ!!」


褒めて褒めてというオーラを出している黄瀬くん。
「凄いじゃん」と素直なコメントを口にすると問題が解けた時のような可愛い笑顔を浮かべた。


「赤点回避できたのはなまえ先輩のお陰ッス! 本当にありがとうございました!」


そう言って勢い良く頭を下げる黄瀬くん。
「良く頑張ったねー」と言いながらその頭をわしゃわしゃと撫でてやった。
黄瀬くんがパッと顔を上げて恥ずかしそうに笑った。


「えへへ、あ! そうだ! 今回のテスト過去最高の順位だったんすよ!」
「へー、良かったじゃん」
「もう何もかもなまえ先輩のお陰っすよ! 先輩の教え方が良かったんすね!…スパルタだけど」
「黄瀬くんが最初からやる気を出してたらあんなに厳しくはしませんでしたよ。多分」
「あ! あとノート! 超見やすかったッス! 字も綺麗だし、まとめ方も丁寧で、感激したッス!」
「……ありがと」


分かり易かったと言ってもらえたこと、黄瀬くんの為に一生懸命用意したノートを褒められたことが嬉しくて思わず顔が綻んだ。

今回は自分の順位が少し落ちたし、受験生なのに自分の勉強時間を取られてしまったし、良い事があんまり無かったが、こうやって心から感謝してもらえたことで幾分救われた気がする。

過去最高の順位を取ることが出来た黄瀬くんは嬉しそうにニコニコしていた。


「また勉強教えてください! 今度はもう少し優しく…」


そんな黄瀬くんに向かってニッコリ笑ってこう言ってやった。


「もう二度とごめんッス」


これくらいの仕返しは許されても良いと思う。


【お勉強会】


(そんなぁ! 酷いっす!)
(だって黄瀬くん勉強も私も嫌いらしいし?)
(ちょ、嘘っすよ! 俺がなまえ先輩を嫌うわけないじゃないっすか!)
(どうだかなー。まあ、今度は自力で頑張んなさいよ)
(見捨てないでぇ!)


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

バカっ子黄瀬と頭の良いなまえさんのお話でした。


私は高校の時成績が中の下くらいでしたが、古典だけは得意だったのでクラスの古典が苦手な子用に要点プリントを作成してコピーして配ってました。
他の勉強しないで古典の勉強ばっかしてました(笑)


2013/6/29


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