ムキムキ



「おお、良い身体」


授業が終わって、同じクラスのノヤと2人で部室に向かった。
部室のドアを開けたら私たちより少し早く終わっていたらしい龍が着替えている最中だった。

普通はそこで悲鳴の一つでも上げるのだろう。
しかし、私には兄がいるのでそういう反応はしなかった。
むしろ兄より引き締まっているその身体はとてもかっこよく見えた。

そんな訳で冒頭の台詞が思わず口から出たということだ。

パンツ一枚で固まっている龍に構わず、部室に入り荷物を置く。
ノヤが荷物を置きながら、龍の上半身をジロジロ見て言った。


「龍痩せたか? もしくは引き締まった?」
「えっ、いや、最近体重計ってないから分かんねえ」


私もノヤに倣って腹筋を凝視する。
両手でバッとお腹を隠しながら「あんまりジロジロ見んなよ!」と龍に怒られた。


「なまえ、お前もっと女子っぽい反応出来ないのか。顔を赤くするとか、『キャッ! ご、ゴメンね!(裏声)』とか!」
「『きゃー変態ー! セクハラだー!』とか?」
「むしろセクハラされてるのは俺でーす!!」

龍の裏声がツボに入り、爆笑する私。
その様子を見ながらノヤが龍の肩に手を置き、無言で首を横に振っていた。
ズボンを履きつつブーたれている龍に「かっこいいって褒めてるんだからそんな顔しないでよー」と言う。


「ねえ、ノヤ。龍かっこいいよね? ムキムキで」
「んーまあ、旭さんには負けるけどな! 良い感じで筋肉付いてんじゃねえ?」
「ほら! ノヤのお墨付きだよ!」
「や、やめろよ…そんなに褒められたら俺…!



嬉しいじゃんか!」


ドヤ顔をしながら「触っても良いんだぜ!」とポーズを決める龍。
龍の背中やら腹筋やらをノヤと一緒に触りまくる。
おー、凄い固い。ムキムキだー。

龍は私たちの手が「こちょぐったい」と小さく震えながら笑いを堪えている。
ノヤはちょっと悔しそうに「くっそー」と言っていた。


「ノヤは? 同じ練習メニューこなしてるならノヤもムキムキ?」
「俺は龍ほどじゃねぇなー。でもまあ筋トレしてっからな! これからだ!」


上半身に纏っていた衣服を脱いで、腕を曲げて力瘤をつくる。
それに触ってみた。
龍の筋肉を触った後だと若干物足りない気がするが、そこは流石スポーツマン。
しっかり固い筋肉が付いているではないか。


「ノヤも十分ムキムキじゃないっすかー」
「いや、まだ足りねえ!」


ノヤの腕に触ってから、今度は自分の二の腕を触ってみる。

うわー、全然違うわー。ノヤとは身長は大して違わないのに。
私も女子の中では力がある方だと自負しているのだが。
まあ、性別が違うし当然か。


「なまえ何してんだ?」
「んー。いや、私結構腕力あると思ってたんだけどやっぱり男の子には敵わないんだなあって思って」
「そりゃあな!」
「スポーツやってる男子に腕力勝てる女子ってなかなかいないだろ!」
「そりゃそうか」


「どれ」とノヤが手を伸ばしてきたので、袖を捲くって二の腕を出す。
グッと力を入れたが「はっはっはっ、柔っけえ」と笑われた。


「ぐぬぬ…!」
「もっと力入れてみろー」
「精一杯です…!」
「弱い弱い!」


そんな時、龍が何かに気付いたようにハッとした。
そして真剣な顔をして「ノヤっさん!」と大きな声で呼んだ。
パッと手を離して、2人して首を傾げ龍を見る。


「ん? どうした龍」
「ノヤっさん…。俺、中学の時に聞いたことあるんだけど…


女子の二の腕って胸と同じ感触がするって…!」


勢い良く2人がこちらを見る。
サッと袖を伸ばし二の腕を隠す。
ノヤと龍の視線が私の二の腕に突き刺さる。


「なまえ、ちょっと力抜いて腕を前に出せよ。いや、出してください」
「今の話し聞いて『はいどうぞ』って出す訳ないでしょ!」
「いや、別に俺たちさっきの噂とか信じてねえし? なあ、龍」
「おうよ、ノヤっさん!」
「だったら視線を逸らさんかい!!」


近くに置いてあった誰のだか分からないタオルを2人に投げつけた。
しかしノヤと龍は視線を逸らさなかった。
コイツら…邪なことを考えてるくせに何て真っ直ぐな目をしているんだ…!

「絶対に嫌だ!」と言ったら「お願いします!」「しァす!!」と土下座をし始めた。
半裸の男子2人に土下座されている。
いや、どんな状況だよ!


「何もおっぱいを揉ませてくれと言ってる訳じゃねえんだ!」
「当然だ! なに、ノヤ馬鹿なの?!」「二の腕、二の腕で良いんだ! 似てるというその感触をこの手に!」
「やっぱり信じてるんじゃん! 龍も馬鹿!」


ノヤと龍が同時に叫ぶ。


「「頼む! 少しだけで良いから! おっぱ、じゃなくて二の腕触らせて下さい!」」
「最低か!!」



「なあ、なにやってんの?」


声がした方をゆっくりと見る。
そこには笑顔の大地さんがいた。
ぎゃあぎゃあと騒いでいた私たちは大地さんが扉の前に立っていることに気付かなかったのだ。

顔は笑っているのに、目は笑っていない。
ドッと嫌な汗が出た。


「だ、大地さん…!」
「これは、その、」


ニッコリ笑っている大地さんが部室に入ってきて、ゆっくりとドアを閉める。
思わず3人揃って扉に向かい正座する。


「お前ら声がデカいからさ、外に聞こえてんだわ」
「「「……え…」」」
「まあ、途中からしか聞いてないけどさ。何でどうしてこの状況?」


3人とも大地さんから視線を逸らし、バラバラの人物を指差しながらも同時に「コイツが元凶です」と言う。
私はノヤを指差し、ノヤは龍を指差し、龍は私を指差していた。
そこから再び「何で私が!」「いや完全になまえのせいだ!」「いやいや、龍だろ!」と罪の擦り合いが始まる。

大地さんがコホンと咳払いを一つ。
掴み合いになりそうだった私たちはピタッと動きを止めた。


「田中、西谷」
「「は、はい!」」
「とりあえずお前らはちゃんと着替えろ。馬鹿でも風邪引くぞ」
「「お、オス…!」」
「そんでなまえ」
「はっ、はいっ」
「お前今日最初はマネの仕事しないで良いから」
「へっ…?」


そこで大地さんは一段と眩しい笑顔を浮かべた。
素敵な笑顔なのに何故か鳥肌が立ち、『あ、死んだ』と悟った。


「今日は3人筋トレメニュー3倍な。3人仲良くムキムキになってこい」


そう言い放った主将は有無を言わさぬオーラを放っていた。
私たちは小さな声で「オス」と答えるしかなかった。



【ムキムキ】


(ほら、腕立てあと1セット!)
(だ、大地さんもう勘弁してください…!)
(根性見せろマネージャー!)
(マネの仕事させてくださぁーい!)


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

ノヤさんと龍ちゃんと騒ぎたかっただけ。
書きながらどっちがノヤさんの台詞でどっちが龍ちゃんの台詞か分からなくなった。

あと!←コレが凄く多いね。うるさくてすみません。

2013/06/16

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