強奪成功



最低気温0度。最高気温10度未満。
完全に冬です。

こんなに寒い日なのに、私は寝坊をしたためうっかりセーターを着てくるのを忘れてしまった。
登校の時はコートを着ていたので大丈夫だったが、校内にいる時はコートを脱がなくてはいけない。

ワイシャツとブレザーだけでは廊下の寒さは耐え難いものがある。
こんな日に限ってジャージを持ってきていなかったりと何ともツイていない。

「寒い寒い」とブツブツ言いながら廊下を歩いていると、隣を歩く笠松に頭を叩かれた。


「痛い!」
「さっきからうるせえ」
「だって寒いんだもの」
「寒いのはお前だけじゃねえ」
「…そういう笠松くんは暖かそうですねー」
「あ?」


笠松をジッと睨む。
ブレザー、カーディガン、ワイシャツ。
ワイシャツの下にはTシャツでも着ているのか、黒い色が透けて見えた。
ブレザーの前は開けているが、それでもこれだけ着ていれば暖かいだろう。
そんなヤツに私の気持ちなんて分かるものか!

ブレザーを引っ張って「1枚寄こせー」と言うと「さみいから嫌だ」と冷たく言われる。


「ひ、酷い…笠松のその冷たい返しに私は身も心も凍りつきそうだよ…」
「寝坊して着てくんの忘れたお前が悪い。追い剥ぎみたいなことすんな」
「ケチ! ふーんだ、良いよー。小堀のところに行ってくるもんね。優しい小堀なら貸してくれるはずだ!」


ダッと走り出そうとすると首根っこを掴まれてそれを阻止された。


「ぐぇ!」
「小堀に迷惑かけんな」
「…じゃあ笠松が貸してくれる?」
「絶対嫌だ」
「じゃあどうしろっていうのさー!」
「耐えろ」


ピシャリと冷たく言い放ち先に歩いて行ってしまった。

酷い、酷すぎる。もう少し思いやりのある行動をしてくれても良いではないか。
ええい、こうなったら実力行使だ!

少し前を歩く笠松に駆け寄る。
笠松がこちらを振り返った瞬間にカーディガンを掴み、上にバッと持ち上げた。
「は?」と間の抜けた声を出す彼を他所に「お邪魔します!」と言ってワイシャツとカーディガンの間に潜り込む。
背中に回した腕に力を込めて密着する。


「笠松が貸してくれるまで動かんぞー!」


うはあ、温い…。
笠松って子ども体温なのかな? 何だか凄く暖かい。

抱き着いたままヘラヘラ笑っていたら、今まで微動だにしなかった笠松が動いた。
カーディガンの上からガッと頭を掴まれる。
その手にだんだん力が込められる。


「い、痛い痛い痛い!! 笠松いたい! 頭割れる!」

「 出 ろ 」


たった二文字なのに有無を言わさぬ迫力があった。
「は、はい」と小さく返事をしてカーディガンから出る。

さ、寒い…。笠松の視線もさっきより冷たい…。
気持ち的にも体感温度的にも凍てつきそうだ。

笠松が怖くて目を合わせられずにいると顔に何かを投げつけられた。


「んぎゃ! な、なんですか?!」
「それでも着てろ!」


投げられたものを見るとさっきまで笠松が着ていたカーディガンだった。
笠松の方を見ると、カーディガンを脱ぐために一緒に脱いだブレザーを着直しているところだった。
「絶対嫌なんじゃなかったのー?」と聞くと「いらねえなら返せ!」と怒られた。

「き、着ます着ます!」と言いながら慌てて着る。
さっきまで笠松が着ていたカーディガンには温もりが残っていて大変温かかった。

ヘラヘラ笑いながら「いえーい、強奪成功ー。ありがとうございまーす」と言うと、深い深い溜息を吐かれた。
そして「良いか、二度とこういうことすんじゃねえぞ」と釘を刺された。
なので真顔で言い返してやった。


「こんな強奪みたいなこと、笠松にしかやらないよ! 大丈夫、笠松にしか抱き着かないし!」
「俺にもすんな!」
「いてっ!」
「もう一度同じことやったらシバく!」
「既にシバかれましたが?!」


叩かれた頭を押さえながら「おー、痛いー」と騒いでいると笠松は「置いて行くからな!」と叫び、早足で歩き出した。
慌ててそれに続き歩き出す。

サイズの大きい笠松のカーディガンを着ていることにより隠れてしまっている手を見ながら「わはははー。ぬくいなー」と笑う。

笠松は、赤くなった顔を手で押さえながら「……お前のせいで熱いよバカヤロー」と呟いた。
…今度セーターを忘れたら、また同じ方法で強奪しよう。


【強奪成功】


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

1月の拍手でした。
笠松さんのカーディガンに潜り込みたいって話し。
しかし廊下で何やってんだこの子らは。
きっと人がいない廊下だったんですね(ご都合主義)

2013/01/06・2013/02/08収納


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