ハンドクリーム



部活が終わってから1人残って自主練して、片付けとか全部終わらせて昇降口に行った時には既に時計は19時を示していた。

「腹減ったなぁ」と呟きながら下駄箱から靴を取り出す。
今にも腹が鳴りそうだ。

地面にポイっと靴を投げると、隣で同じようにローファーを投げた奴がいた。
視線を横に移すと見知った顔がそこにあった。


「…お前、こんな時間まで何してんだ」
「宮地クンを待ってたのぉー。一緒に帰りたくってぇー」
「頼んでねえし、気持ちわりい。警察に突き出すぞ」


アホなことを言っているなまえを放って、靴を履いて昇降口を出る。
門へ向かって歩き出すとチョコチョコと俺についてくるなまえ。
帰る方向が一緒だから仕方がない。


「宮地って本当に口悪いよね。1人で帰ることにならなくてホッとしてるくせにぃー。1人で夜道歩くの怖いくせにぃー」
「あははー、何コイツめんどくせぇー。轢いて良いー?」


なまえがくだらないことを言いやがったので頭を叩いたら「口悪い上に乱暴とか! だからモテないんだよ!」とかぬかしやがった。
腹が立ったのでもう一度頭を叩いておいた。


「痛い! 乱暴者! 人の頭をパカパカ叩くんじゃない!」
「うっせえ、ちょうど良い高さなのが悪い」


そう言ってなまえの頭を掴んだら、俺の腹が小さくグウと鳴った。
なまえが笑う前に口を押さえて黙らせた。
「んー!」と何かを訴えるように叫んでいたので鼻も塞いだら静かになった。

パッと手を離したら、なまえは肩で息をしながら「宮地に殺される…」と小さく呟いた。

その時、フワッと何か甘い香りがした。
美味そうな、甘い匂い。

クンクンと嗅ぎながら出処を探ると、どうやらなまえの方から漂ってきているようだった。


「なんかお前…甘い匂いがする」
「あー、これだと思う。さっき塗ったんよ」


そう言ってなまえがカバンから取り出したものはハンドクリームだった。
何か食い物が出てくるかと期待したが、何だよ、違うのかよ。


「ホットケーキの香りなんだってー。美味しそうな匂いなんだよねー」
「ふーん」


「宮地も使う?」とハンドクリームを差し出してきたその手を取り、なまえの手の甲に顔を近付ける。
あー、確かにさっきの匂いだな。
ホットケーキかどうかはさておき、凄く甘ったるい香りがした。
女子が使ってるのは良いが、自分の手からこの匂いがしたら高尾辺りに爆笑されそうだな。

「使わねえよアホ」と言いながらなまえの顔を見ると、顔を真っ赤に染めていた。
何つー顔してんだ。なんともまあ苛めたくなる顔。


「何で手の方を嗅ぐの…」
「フタ開けて中身出すより楽だろ」


そのままなまえの手の甲を嗅いでいたら「離して下さい」と手を引かれた。
力を込めてそれを拒む。
顔を赤くしながら情けなく俺の名前を呼ぶなまえを見たら、苛めてやりたい衝動に駆られた。


「……腹減った」
「え……? …いっった!!」


ガブリと甘ったるい匂いのするその手に噛み付いてやった。
勢いよく手が引かれ、なまえが持っていたハンドクリームが地面に落ちる。
今度は力を抜いて開放してやる。

なまえは俺が噛んだ方の手を隠すようにして胸の前で押さえていた。
顔はさっきよりも心なしか赤くなっているようだった。暗いからよく見えねぇけど。


「な、何してんですか! このおバカ!」
「食欲を煽るような匂いさせてるお前が悪い。俺は腹が減ってんだ」
「だからって、か、噛むとか…!」
「何か甘い匂いしてっし、ムニムニして美味そうだったから」
「ムニムニしてて悪かったな!」


そう言って俺を叩こうとした手首を掴み、ニヤリと笑いながら「でも甘くはなかったな」と言う。


「み、み、宮地に食われるうううう!!」
「―――んぐっ! おい、コラちょっと待て!」


失礼なことを叫びながら俺の鳩尾に頭突きをかましてなまえは走り去ってしまった。
その背中に「誤解生むようなこと叫ぶな! 轢くぞ!」と言うが聞こえていたかどうかは定かではない。

幼いなまえには刺激が強すぎたようだ。
アイツ本当に俺と同い年なのか?

顔を赤くして今にも泣きそうな何とも言い難い情けない表情のなまえを思い出してクスクス笑いながら、アイツが落としていったハンドクリームを拾い上げる。
少し苛めすぎたかもしれないな、とちょっと反省したが、まあ普段アイツには迷惑掛けられてるしこれくらいの仕返しは許されるだろうとも思った。
しばらくはこのネタで苛めてやろうと考えながら帰路についた。

あー、この匂いのせいで余計に腹減った。



【ハンドクリーム】



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

ハンドクリームって美味しそうな匂いのやつがありますよねってお話でした。
意味不明\(^o^)/
……宮地さんに見えるだろうか…。

2013/01/22


prev next
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -