恋する



※【出会う】→【探す】→【見つける】→【約束】→【妬く】の続きです。

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部活が終わったので荷物をまとめて帰る用意をする。
他の部員はすでに帰っていて部室に残っていたのは笠松先輩と、森山先輩と俺の3人だけだった。
あれ? 小堀先輩がいない。


「笠松先輩、小堀先輩って何処っすか? 帰ったんすか?」
「いや、まだ荷物あんぞ」
「そっすか…」


なまえっちと付き合ってるのかどうか聞こうと思ったんすけど…。
少し待ってみるか。
いや、聞いたからどうって訳じゃないんすけどね。
何となく気になるから聞くだけッスよ。うん。

俺が部室内にある椅子に腰掛けるのとほぼ同時にドアが開いた。
「お疲れー」と言いながら小堀先輩が入ってくる。
俺が声を掛けるより早く、小堀先輩は笠松先輩と話し始めてしまった。


「笠松ー、なまえちゃん入っても良いか?」
「まあ、みんな帰ったし良いんじゃね」
「サンキュ」


えっ? どういうこと? 急な展開に頭がついていかない。
小堀先輩がドアの外に向かって「なまえちゃん、入って」と言うと、なまえっちが「お邪魔しまーす」と言いながら部室に入って来た。
おおおおこの展開は予想していなかった…!
あと小堀先輩『なまえちゃん』って呼んでるんすね。

どうしたものかとオロオロしていると、なまえっちが隣に腰掛けた。


「黄瀬くん。お疲れ様ー」
「どもッス」
「練習見たよー。 黄瀬くんって実は凄い人だったんだね!」


興奮気味にさっきの練習を見た感想を話す彼女の目はキラキラしてた。
キュッと心臓が締め付けられるような感覚がした。
女の子に褒められるのは慣れっこだ。
でも、なまえっちに褒められたのは比べものにならないくらい嬉しかった。

俺はヘラッと笑いながら「ありがとうッス」と言う。
なまえっちはにっこり笑いながら「いやー、さすが海常バスケ部のレギュラーですね!」と言った。

過去の俺でもなく、モデルの俺でもなく、今の俺を見てくれるなまえっち。
「ああ、好きだな」と凄く自然に思った。

え? 俺なまえっちのこと好きなの?
じゃあさっきのモヤモヤはヤキモチ?
そんなまさか。いや、でもそう考えると色々と辻褄は合う。

あー、そっか。そうだったのか。
自分から女の子を好きになったことは今までなかったから。
『気に入ってる』以上の感情を抱いているとは思わなかった。

なまえっちの方を見てボーッとそんなことを考えていたら、いつの間にか着替え終わっていた小堀先輩がなまえっちの背後から覆い被さった。


「ダンクなら俺も出来るよ」
「出来るだろうねー。コウくんも背高いもんねー」


そうだった。なまえっちは小堀先輩と付き合っているかもしれないんだ。
というか、多分付き合っているだろう。
『なまえちゃん』『コウくん』と呼び合う仲だし、付き合ってないのにこの距離感はおかしいし。
うわあ…。好きだって自覚したのにこういう展開って…。

いつもは後輩を甘やかしている小堀先輩がなまえっちに甘えている。
なんて珍しい姿。甘える小堀先輩とか初めて見たッス。

仲良さそうに近い距離のまま話している2人を見つめる。
あー…妬ける。でも2人の間に割って入れる雰囲気ではなかった。
諦めるしかないっすよね。
苦笑いしつつ「仲良いっすねー」というのが精一杯だった。

「よく言われるー」と声を重ねて答える2人。
もう見てられなかった。


2人から視線を逸らすとロッカーにしがみつくようにして肩を揺らしている森山先輩がいた。
立ち上がって森山先輩の方へ行き「何笑ってんすか」と声を掛けると「妬いてるお前が面白くて」と笑いながら答えた。


「悪趣味ッス…俺は全然面白くないッスよ」
「悪い悪い、ちょっと可哀想だったな。じゃあネタばらしするか」


そう言って二ヤっと笑う。
そして森山先輩は2人の方に向かって「おーい、小堀」と声を掛けた。
同時にこちらを向く2人。
小堀先輩が「俺か?」と言い、なまえっちが「どっちの?」と言う。

『どっちの?』 え、どういうこと?
「え、すんません、訳が分かんないんスけど」と言うのとほぼ同時に、帰り支度を終えた笠松先輩が「支度済んだなら帰るぞ、天然双子」と言いながら2人の頭を軽く叩く。


………は?


「双子…? なまえっちと小堀先輩が?」


2人を指差しながら呟く。
3人は顔を見合わせキョトンとしていた。
森山先輩は1人ニヤニヤしていた。


「え、言わなかったっけ?」
「聞いてないッスよ!」
「そうだっけ? いやー、ごめんごめん」


じゃあ俺凄い不毛な相手に妬いてたってことじゃないっすか!
すっごく恥ずかしいヤツじゃないっすか!
だから森山先輩は笑ってたんスね…。

1人悶々と悩んでいたのが全て無駄なことだったのだと知って、一気に力が抜けた。
その場にしゃがみ込む。
あーもー! 恥ずかしい!!

なまえっちが小堀先輩から離れてこちらに来た。
しゃがんで俺の顔を覗き込んできたなまえっちは申し訳なさそうな顔をしていた。
ムスッと上目遣いに睨み付けると「うっ」と小さく声をもらした。


「…何でもっと早く教えてくれなかったんすか」
「ごめんね、隠してるつもりはなかったんだよ。コウくんから聞いてると思ってたから」
「双子なんて思いつきもしないっすよ。なまえっちたち似てないし」
「二卵生だから似てないの」
「なまえっち、原先生に『しょうちゃん』って呼ばれてたから『庄司』とかそんな苗字かと思ってた」
「小さい方の小堀だから『小ちゃん』なんだって。ちなみにコウくんは大きい方の小堀だから『大くん』って呼ばれてるの。まあ、呼んでるの原ちゃん先生だけだけど」
「……分かるわけないっすよ」
「だからごめんってばー」


「どうしたら機嫌直してくれるのー」と困っているなまえっちの腕を掴んで自分の方へ引き寄せる。
バランスを崩した彼女はそのまま俺の腕の中にスッポリと収まった。
ギューッと力を込めると安心感からか大きな溜め息が出た。

小堀先輩の彼女だと思ったから諦めようと一度は思った。
でも事実はそうではなかった。
俺にもチャンスはある。
そう思ったら何だか燃えてきた。
絶対手に入れてみせる。

笠松先輩に「帰るっつってんだろ! 離れろ、シバくぞ!」と頭を殴られたので、渋々なまえっちを解放して全員で下駄箱へ向かう。

森山先輩と先を歩いているなまえっちの小さな背中を眺めながら、小堀先輩に話しかける。


「小堀先輩」
「ん? なんだ?」
「なまえっちって可愛いッスね」
「ああ、俺の自慢の妹だよ。なまえちゃんは料理も上手いんだぞー」
「小堀先輩、妹さんを俺にください」


そう言い終わるか終わらないかくらいに後ろから蹴られた。笠松先輩に。


「いってぇ!」
「お前にはやらん!!」
「何で笠松先輩が返事するんすか!」
「っせーよ! 口答えすんな、シバくぞ!」
「こ、小堀先輩ぃー!」
「ナイス笠松ー」


いつもみたいに優しい微笑みを浮かべつつも、目がちっとも笑っていない小堀先輩。
森山先輩が言ってた通り、厄介な人に惚れてしまったのだと気付いたのはこの時だった。
本人は無防備なのに、周りのディフェンスが鉄壁すぎでしょう…。
「奪えるもんなら奪ってみろ」とでも言いたげな顔をしている保護者2人を睨みつけながら「ぜってぇ負けねぇッス」と呟いた。


【恋する】


その頃の前2人
(後ろ賑やかだねー)
(そうだなー)
(みんな仲良しなんだねー、うんうん良いことだ)
(お前にはアレが仲良しに見えるんだな)
(……森山、なに笑ってるの? 私なんか変なこと言った?)
(な、なんでもない……ぶふっ!)
(変な森山ー)



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おわああああ無駄に長かった…。
黄瀬くんは女の子に対して自分から「好き」って思ったことがないと良いな、自分自身のことには鈍いと良いなって願望と、小堀くんの妹になりたいって願望を詰め込んだらこうなりました。
森山くんがしゃしゃってるのは…うん、何か自然にこうなりました。
森山マジック。
もっと簡潔にまとめられるように精進します。
……しばらくしたら書き直すかもしれないです…。

ここまでお付き合いくださり、どうもありがとうございました!

Title by
確かに恋だった

2012/12/31


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