妬く



※【出会う】→【探す】→【見つける】→【約束】の続きです。

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なまえっちと約束をしたのが昨日の昼休み。
「明日観に来て!」と言ったのでそろそろ来る頃ッスかね…。

軽くアップをしながらギャラリーの方へ視線を移す。
そこには沢山の女の子。
その中からたった1人を見つけるのは結構大変だ。
何か目印とかあったら良かったんスけどね…。

ファンの子達に手を振りながら探してたらなまえっちを見つけた。
それまでは軽く手を振っていたのだが、嬉しくなって大きく手を振った。
なまえっちの近くにいた女の子たちが黄色い声を上げる。
違う違う、アンタたちじゃなくて。

当の本人は自分に振られているという認識がないのか微笑みながらこっちを見てるだけだった。
アンタに手振ってんだよ、気付いてよ。
ちょっとムッとした。

そんなことをやっていたら「今日もモデル様はおモテになってますねー」と言いながら森山先輩が後ろから俺の首を絞めてきた。


「うっ! く、苦しいッス…!」
「女の子の視線独り占めしてるんだからコレくらい許せよ。…で、誰にシッポ振ってたんだ?」
「シッポじゃないッスよ! 手ェ振ってたんス!」


先輩を引き剥がしながら「あの子ッス」となまえっちを指差す。
先輩は驚いた顔をしてから「もしかしてこの間言ってた『しょうちゃん』ってあの子?」と聞いた。

アイツ? え、知り合いだったんスか?
あ、でも同じ学年だったらその可能性もあったのか。

「そうッスよ」と答えると、突然笑い出した。
だ、大丈夫っすか、この人…。

若干引きながら「も、森山先輩…?」と声を掛けると、「お前、厄介なヤツに惚れたな」と言われた。

惚れた? 誰が、誰に?
俺が、なまえっちに?
そんなまさか。

手をパタパタ振ってその言葉を否定する。


「いや、別に惚れてないッスよ? ただの友達ッス」
「え? 何お前さっきの顔、無意識なの?」
「へ? さっきの顔?」


さっきから森山先輩が何を言っているのかよく分からない。
頭を捻って一生懸命考えていると「ふーん、そーかそーか」とニヤニヤしながら言った。
何か嫌な感じ…。

森山先輩は一人で何か納得して、悩んでいる俺を放置し、小堀先輩を呼んだ。
アップを終えた小堀先輩が「何だ? サボってると笠松に怒られるぞ」と言いながらこちらに来る。
森山先輩は相変わらずニヤニヤしている。


「小堀ー、珍しいヤツが観に来てるぞー」
「ん?」
「ほら、あそこ」


そう言ってなまえっちを指差す。
小堀先輩は、森山先輩が指差した方を見てすぐになまえっちの名前を呟いた。
そして小さく溜息をつき「またあんな薄着で…」と言う。

改めてなまえっちを見ると、先輩が言った通りカーディガンもブレザーも着ず結構寒そうな格好をしていた。
ちょっと見ただけでよく気が付いたな。小堀先輩すげえ。

あれ? 森山先輩が指差した先には沢山女の子がいたのに何でなまえっちのことを言ってるんだって分かったんだろう?

小堀先輩はベンチへ行きジャージの上を手に取って、なまえっちの方へ走って行った。
コートから笠松先輩が「黄瀬、森山! 練習始めんぞ!」と叫ぶ。

「はいッス」と返事をしながらチラっとなまえっちの方を見る。
少し離れたそこでは、小堀先輩が自分の上着を彼女の肩に掛けていた。
なまえっちはフワリと柔らかく微笑んだ。

何だか胸がモヤっとした。

2人はそのまま二三言話しているようだったが、遠いので会話が全く聞こえない。
何を話しているんだろう。
何でそんなに嬉しそうな、幸せそうな顔をしているんだろう。
気になる。…凄く気になる…。

睨むように2人を見ていると、森山先輩が「あの2人、相変わらず仲睦まじいですなー」と楽しそうに言った。
思いも寄らない発言。心臓が止まるかと思った。


「え、あの2人付き合ってるんすか?」


何故か分からないけれど、声が上手く出せなかった。
森山先輩は「俺からは何も言えないなー。本人に聞いてみろよ」とニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
なんスかそれ…。知ってるなら教えてくれたって良いのに…。

ムッとして森山先輩を睨んだら、後ろから頭を叩かれた。笠松先輩に。


「練習始めるって言ってんだろうが!」
「す、すんませんッス」


「小堀! お前も早く戻ってこい!」とギャラリーに向かって叫ぶ。
「悪い、今戻る!」と小堀先輩が叫ぶ。
別れる際にお互いにニッコリ笑って手を振り合う。

今まで感じたことのない訳の分からない感情がモヤモヤと胸の中で膨らむ。
何なんすかあの雰囲気。周りに花が飛んでるように見えるし。

ブンブンと頭を振ってそれを吹き飛ばし、気持ちを切り替える。
集中。今は部活に集中するんだ。ギャラリーなんて関係ない。
頬をペチンと叩いて気持ちを引き締め、いつも以上に集中して部活に取り組んだ。

しかし、視界の端になまえっちがチラッと映る度に、少しモヤっとした。
あーもう! 何なんだこの気持ち!
訳分かんないッス!

こんなの全然俺らしくないッス…。調子狂うなぁ…。

そんな気持ちのまま練習を終え、ブスッと膨れっ面になりながら俺は体育館を後にした。


【妬く】


(見ろよ小堀、黄瀬が面白い顔してるぜ)
(本当だ、不貞腐れてるな。何かあったのか?)
(不毛な相手にヤキモチやいてんだよ。はははっ、おもしろー)
(…? まあ、あまりいじめてやるなよ)



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

続く。


2012/12/17


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