大きさ比べ



自宅で鉄平と勉強をしていた時に、ノートに文字を書いている鉄平の手を見て妙にペンが小さく感じた。
同じ種類のペンを使っているはずなのに、違うものを使っているかのような感じ。

「鉄平、身長だけじゃなくて手も大きいね」と言うと「そうだなー」と言われた。


「関節一つ分くらい違うのかな?」
「どうだろうな? なまえ右手出して」
「ん」


言われた通りに右手を開いて前に突き出すと、鉄平が左の手の平をそれに重ねた。
おお、でっかいなー。
関節一つ分以上だよ。随分と差があるなぁ。

大きさもそうだが、感触も自分の手とは全然違っていて、鉄平の手はゴツゴツしていた。
逞しい、男の人の手だ。


「良いなー。手が大きいと色々と便利でしょ?」
「確かにバスケする時とか便利だな」
「他にもさ、ほら、飴の掴み取りとか? 便利だろうなぁ」


自分の手を見ながら「良いなー、私ちっちゃいからな…」と呟く。

身長も手も小さいんだよな、私。
身長が小さいと高いところに届かないし、手が小さいと沢山の物を掴めないし。
良いことなんてないよ。指も短いしさー。

女子だから仕方がないってのもあるけど、女子の中でも小さい方だもんなぁ。
あー、大きくなりたい。

そんなことを思いながら唇を尖らせて唸った。


「なまえ飴が欲しいのか?」


「黒飴でいいか?」と言いながらカバンの中を探る鉄平。
いや、そうじゃなくてね。
黒飴をカバンから取り出して「はい」と私の手の上に乗せる。
…まあ、良いか。飴を受け取りポッケにしまった。


視線をポッケに移した隙に、机の上に置いたままになっていた左手を握られた。
鉄平が「俺はなまえの手好きだぞ」と言う。

私の手の平を上に向け、両手の親指で真ん中辺りをフニフニと押す。
好きと言われたことが気恥ずかしくて左手を引っ込めようとしたが、力を込められそれは許されなかった。

鉄平の顔を見ながら「でも指も短いし、細くもないし…」と言ったら「こら、俺が好きなものを悪く言うな」と怒られた。

不意に自由になっていた右手まで捕らわれる。
鉄平の大きな両手により、私の小さい両手がすっぽりと包まれた。
鉄平が両手にキュッと力を込める。
暖かさがじんわりと手の甲に広がるような感覚がした。


「あの、鉄平くん? 離してもらえませんかね…」
「ん? やだ」


わあ、眩しい笑顔。
ニコニコしながら鉄平が私の手を撫でる。
恥ずかしいし、何だかくすぐったい。

グッと自分の方へ手を引くと、それに連れて鉄平の腕が伸びる。
わー、意味ない。離れない。

フッと力を抜くと、今度は鉄平が自分の方へ手を引く。
当然だが鉄平よりも腕の短い私は腕だけでなく身体まで引っ張られる。
「おわっ」と間の抜けた声を出して、机に乗り出すような姿勢になった。

近距離に鉄平の顔。
さっきまでニッコリと笑っていたのに、一転して真剣な顔をする鉄平。
頬に熱が集中するのが分かった。
私の目を真っ直ぐに見つめる。視線が逸らせない。


「柔らかくて、温かくて、小さくて可愛い、この手が俺は好きだ。良い所がいっぱいある素敵なものなんだから悪く言ったら可哀想だ」


真面目な顔してそんなことを言うもんだから、恥ずかしくて顔を覆いたくなった。
両手を掴まれているからそんなこと出来ないんですけど。
顔を背けながら「ゴメンナサイ、アリガトウゴザイマス」と言うので精一杯だ。

鉄平に「なまえ、こっち向いて」と言われたので、鉄平の方を向く。
向いたら額に温かくて柔らかいものが押し当てられた。
思考が停止する。

硬直している私に構わず鉄平はヘラっと笑った。


「なまえの手は小さいけど、俺はこの手に沢山支えてもらってるぞ。こうやって重ねるだけで幸せな気持ちになれるし。小さいけど大きい存在だよ。なまえも、この手も」


そう言って、私の右の手首を掴んで半強制的に手の平と手の平を合わせる。

もう、何なのこの人。天然って怖い。
よくもまあ、こんな台詞を素で言えるものだ。
よくもまあ、あんな行動を自然に出来るものだ。
こっちの方が恥ずかしい。

「仏壇のCMでも言ってたよなー。お手てのシワとシワを合わせて幸せーって」と気が抜けるようなことを、これまた気が抜けるような笑顔で言うもんだから思わず脱力してしまった。

チラッと鉄平の顔を見ると愛おしいものを見るような優しい笑みを浮かべながら重なった手を見て「小さいなー。可愛いなー」とか言っていた。

私は机に突っ伏して、絞り出すように「もう勘弁してください」と言うことしか出来なかった。


【大きさ比べ】


(もうちっちゃくても良いんで、とりあえず離してください)
(心臓がもちません)


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Title by
確かに恋だった
『ふたりの手10題』より。

2012/12/18


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