ほんの出来心で…


最近女子の間で流行っていることがある。
内緒話をすると言って耳を貸してもらい、耳元に口を近付けて、耳に息を吹き掛けるというちょっとしたイタズラである。

流行っていると知っているのだが、私はこれに毎回引っかかる。
単純なのか、学習能力がないのか。
いや、みんなが巧妙なんだろう。
くぅっ…! 何で私ばっかり…!

もの凄く悔しいので私も他の人にやってみようと思った。
女子だとバレてしまいそうなので、男子にやってみよう。
くっくっくっ…今この瞬間から私は悪になるぜ…。

そんなことを考えていたら向かいから日向が歩いてきた。
よし、最初の獲物はアイツだ…ふふふ…。

日向の方へ駆け寄る。


「日向、日向!」
「あ、何だみょうじか。何か用か?」
「内緒の話しがあるんで耳貸してください」
「んだよ」


眉間にシワを寄せながらめんどくさそうに少し屈んでくれた。
日向、君に恨みはないがやらせていただく!

日向の耳元に口を近付け「あのね、」と前置きをしてからフーっと息を吹き掛けた。


「おわああああああ!!!!」


耳を押さえてバッと身体を離す。
思った以上にオーバーなリアクション。
なるほど、これは面白い。
笑いを堪えながら「ナイスリアクション」と親指を立てて言ったら、頭を殴られた。


「いてっ!」
「何すんだダァホ! 気持ちわりぃだろうが!」
「だからって殴らなくても…! 可愛いイタズラじゃないか…!」


殴られた頭を押さえながら抗議すると「自業自得だボケ」と言われた。


「これに懲りたらもう止めるんだな。人を騙すようなことすんじゃねえ」
「ふーんだ! 日向の乱暴者! くらえ!」


日向にローキックをかましてダッシュで逃げる。
後ろから「てめえ後で覚えとけよ!」とか叫んでいたのを聞こえないふりした。

何だよ日向のやつ…。
ちょっとしたイタズラなんだからあんなに怒らないでも良いじゃないか。
不貞腐れながら廊下を歩いていたら今度はコガちゃんがこちらにやってきた。
…コガちゃんなら大丈夫だよね。
日向と違って乱暴じゃないし、冗談も通じる。
よし、やってみよう。

「コガちゃーん」と呼んで手を振る。
私に気付いた彼は「おお、なまえー。やっほー」とニコニコしながら手を振り返してくれた。
可愛いなー。癒されるわー。
そんな可愛いコガちゃんにイタズラをしようしている私。
ちょっと良心が痛んだ。しかしやってやる!


「あのね、内緒の話しがあるんですよ」
「お? なになに?」
「耳貸してもらって良い?」
「ん」


ちょいちょいと手招きをして少し屈むように促すと、素直にやってくれた。
先程の日向の時と同様に「あのね、」と前置きをしてから耳に息を吹き掛けた。

するとコガちゃんの口から叫び声ではなく「ひゃっ」という可愛い声が…。
目を丸くしてコガちゃんを見る。
コガちゃんは耳ではなく口を押さえて顔を真っ赤にしていた。

え、何かこれ…なんというかさ…。

そっと手を伸ばして赤く染まっている耳に触れるとコガちゃんの身体がビクッと跳ねた。
そしてギュッと目を瞑って耐えたかと思うと「〜っ!! 勘弁!!」と言って走り去ってしまった。
その様子があまりにも可愛くて胸の辺りがキューっとなった。

一人取り残された私は「そうかー、コガちゃんは耳が苦手なのかー、あっはっはっ………」と独り言を言った。
そして、コガちゃんが走り去った方と逆の方向に走り出す。
私には今、一刻も早く会いたい人がいる。



ガラッと勢い良く教室の扉を開け、真っ直ぐその人物の下へ行った。


「伊月!」
「みょうじ、お前さっき日向にイタズラしたんだって?」


伊月がクスクス笑いながらそう言ってくる。
後ろで日向が「みょうじてめえ、良く俺の前に顔出せたな」とか言っているのを無視して、伊月の前にズイっと手を出した。


「ハリセン! ハリセンを貸してください!!」
「え? 何かあったの?」
「良いから早く!」


伊月が困惑したまま私にハリセンを渡してきた。
それを受け取って、騒いでいた日向の方へと差し出す。


「あ?」
「…日向先生。コレでわたくしめを叩いてください。お願いします」
「え、何かお願いされると嫌なんだけど。気持ちわりい」
「みょうじまた何かやらかしたのか?」
「いや、あの、ほんの出来心だったんです」
「あ、やらかしたんだ」


伊月が「何があったの?」と聞いてくるもんだから、さっきあったことを事細かに話した。


「で、コガちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった私はこうしてここに来たという訳ですよ」
「日向に叩かれるより先にコガに謝ってきなよ」
「いや、コガちゃんを追うわけにはいかなかったんだよ…」
「「なんで?」」
「何かね、コガちゃんが顔を赤くして走り去るのを見て、胸の辺りがキューっとしてね」
「罪悪感でか?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」


何というか。
そう、言うなればアレは…。

人差し指を立てて真剣な表情で言った。


「何かアレだ…。


何か…ムラムラした。追い掛けたら私はコガちゃんに何をしていたか…」


そう言い終わるか言い終わらないかって時に、2人にハリセンを使わずに頭を叩かれた。
わりと思い切り。

痛む頭を押さえて2人を見上げる。
そこには笑顔でハリセンを構える日向とゴミを見るような目で私を見下す伊月がいた。

「すみませんでしたっ! もうしませんっ!」
と口にするより早く、再び私は頭を叩かれたのであった。



【ほんの出来心で…】


(その後伊月に「しばらくコガに寄るんじゃない」と真顔で怒られた。美人が怒ると怖いってマジですね。伊月怖い。)



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

コガちゃんが耳弱かったら可愛いよねってことが書きたかっただけです。
コガちゃん可愛くてつらい(ダンッ)

そしてコガちゃんと水戸部さんは天使しかいない誠凛の中でも聖域です。
しかし小金井と言いつつ日向が一番多く出ているっていうね…。


2012/12/08

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