出会う


※名前変換ありません。続きものです。





「あー…だるいッスねー…」


ときどきこんな風に無気力になる時がある。
モデルの仕事、勉強、部活、全部上手くこなせていると思っていても、疲労は蓄積されていて。
凄く怠けたくなる日がたまにある。
大抵そんなときは誰にも会わないように丸一日引き籠もってやり過ごす。

しかし、問題はそれが平日に起こってしまった場合。
授業はサボれても、部活はサボれない。
ということは学校には登校しなければならない訳で。
学校に来たら必然的にファンの子達にも会わなければならない。
愛想を振りまくのとか、本当にめんどくさい。

朝から何もやる気が起きなかったが、ちゃんと学校に登校して何とか午前の授業は乗り切った。
教室にいると必ず誰かが話し掛けてくるので、昼ご飯を持って逃げるように教室を出た。


「午後の授業どうしよっかなー…」


保健室へ行く? いや、あの先生は簡単にベッドを貸してはくれない。
じゃあ部室? 部室に行くには職員室に鍵を貰いに行かなければならない。
屋上は? 鍵が閉まっていて生徒は立ち入り出来ないようになっている。

どうしたものかと悩んでいると自分が人気のない廊下にいることに気が付いた。
昼休みなのに全然人がいないなんて…。
もしかしたらこの辺りの教室は次の時間も使わないのかもしれない。
ちょっと失礼して放課後まで休ませてもらおう。

一番近くの教室の扉を横にスライドさせると、鍵が掛かっていなかった扉はスムーズに開いた。
そこには背の高い本棚や柔らかそうなソファー、低めの机、職員室にあるようなデスクなどが置かれていた。
とりあえずソファーに座る。
疲れたな、と思いながら目を瞑ったら何だか凄く眠たくなってきて、俺はそのまま眠ってしまった。




どれくらい時間が経っただろうか。
教室の扉が開かれた。


「あれ? 誰か寝てる…」


廊下の方から「しょうちゃーん。鍵閉めたー?」という声が聞こえてきた。
何ということだ、この教室閉めるのか。
仕方がないので起きようと思ったら、俺を室内に残したまま扉が閉められた。
え、まさか閉じ込められる?!

慌てて起き上がり扉の方へ行こうとする。
廊下の会話が聞こえてきた。


「原センセー、後で鍵返しに行くから次の時間この教室使わせてくれません?」
「えー、先生これから出張なんだけど…。というか、しょうちゃん次の授業は?」
「今日は先生の都合で4時間目で終わりなんです。だから後は帰るだけ」
「んー…仕方ないなぁ。今回だけよ」
「わーい、ありがとうございまーす」


「ちゃんと職員室に鍵返してねー」と言いながら足音が遠ざかっていく。
ちょっと経ってから扉がガラッと開かれた。
開いた女子生徒とバッチリ目が合う。

ヤバイ。もしこの子が俺のファンだったらこの状況はヤバイ。
別の所に逃げなくては。でも何処に? 教室に戻るのは嫌だ。
そんなことをグルグルと考えていたら、女子生徒が口を開いた。


「あ、起きたんだ」
「…どもッス」


女子生徒は扉を閉めて中に入ってきて、呆然と立っている俺の前を通過し、デスクの前に置かれている椅子に腰掛けた。
デスクの上に置かれていたリモコンを手に取り、ピッと暖房をつける。
天井にあるエアコンから生温い風が出てきた。

彼女は俺に背中を向けたまま「もうすぐ昼休み終わるから教室戻ったほうが良いよ」と言った。


「え?」


何だこのクールな反応は。
予想していなかった反応にポカンとしてしまう。

大体の女の子は俺を見ると黄色い声を上げたり、擦り寄って来たりするのだが、この人はそんな素振りは一切ない。
女の子にこんな風な反応をされたのは久し振りかもしれない。

俺が彼女を見ながら全然動かないものだから不思議に思ったのか、彼女が振り返った。
変なものを見る目でこちらを見る。


「どうしたの? 授業間に合わなくなるよ」
「いや、そうなんすけど…」


その時、5時間目の授業開始のチャイムが鳴った。
彼女は溜息を吐いて「あーあ、サボりだ。ワルだね、君」と言う。

『君』と言われたことに違和感を感じた。
まるで俺のことを知らないような、そんな呼び方だ。
まさか、いや、そんなことないだろう。
再び背中を向けようとする女子生徒に「ねえ」と声を掛ける。


「何でしょうか?」
「俺のこと知らないッスか?」


さっきと同じように不思議そうな顔をし、ジッと顔を見つめる。
少しして彼女の口から出た言葉は意外なものだった。


「えーと…何処かでお会いしましたっけ?」


マジっすか…。
俺、学内でもかなり有名だと思うんスけど…。
そっか、俺のこと知らないのか。

ソファーに座り、肩を揺らして笑う。
すると彼女は「え、嘘、知り合い?」と慌てだした。
笑いながら「いや、初対面ッス」と否定すると「何だ、ビックリした」と胸を撫で下ろしていた。

なんだか身構えていたのが馬鹿らしくなった。
ソファーに寝転がり「放課後まで此処に居ても良いっすかね」と訊ねる。
彼女は背を向けながら興味なさそうに「ご自由にどうぞー」と言った。

彼女の素っ気ない態度が何だか新鮮で、ちょっと興味がわいた。
背を向け何かを書いている彼女に再び「ねえ」と声を掛ける。

今度はこちらを向かずに「なんですかー?」と生返事に近い言葉を返した。


「俺『黄瀬涼太』って言うんだけど、聞いたこと無いッスか?」
「んー…あるような、ないような…」
「雑誌とか見ないの?」
「あまり見ないねぇ。…あ、でもバスケの雑誌ならたまに読むかな」
「バスケの雑誌なら俺も載ってるッスよ」
「え、本当?」


そこでやっと彼女が振り返る。
ちょっと気まずそうな表情をしていた。
そして「ごめん、興味があるページしか見てなくて…」と言った。
うわあ、この子本人を目の前に『興味がない』って言ったよ。凄いッスね。
本当に変わった子だ。
俺は「酷いッスねー」とクスクス笑う。
彼女は「申し訳ない」と謝った。


「あ、でもバスケの雑誌に載るってことは黄瀬くんバスケやってるんだ。バスケ部なの?」
「…俺、これでも結構有名なんスけど…。1年でレギュラーやってるっスよ」
「うっそ、マジでか」
「こうも全然知られていないといっそ清々しいッスね」
「…ゴメンナサイ」
「まあ、良いッスけどねー。…ふあぁ…」


暖房によって部屋が暖められ何だか眠たくなってきた。
俺が欠伸をしたのを見て、彼女が「疲れてんなら寝ちゃえば?」と言ってきた。
初対面の人の前でそんな無防備な姿は見せられないと思いつつ、暖房の暖かさに負けて俺は目を瞑ってしまった。




「起きろバカ黄瀬!!」
「って!! …笠松センパイ…?」
「目ェ覚めたか、モデル様よぉ」


頭に痛みを感じると同時に大きな声で怒鳴られ、一気に目が覚めた。
目を開けるとそこにはさっきまで一緒にいた女子生徒ではなく、鬼のような形相の笠松センパイがいた。
うわー、すっごい怒ってるッスねー。

ソファーから起き上がって縒れた服を叩いて直す。
教室を見渡すが、笠松センパイ以外の人物はいない。
机の上に『鍵閉めよろしく』と簡潔に書かれたメモ用紙と鍵があるだけで、彼女の姿はどこにもなかった。
キョロキョロしていると「部活行くぞ。早くしろ」と言って再び頭を叩かれる。


「センパイどうしてここに?」
「お前が授業サボってここにいるって連絡があった」
「それって『しょうちゃん』って呼ばれてる女の子ッスか?」
「ああ? 誰だそいつ。…てめえ、まさか授業サボってその女子生徒と…?」
「あ、いや、誤解ッス! そうじゃなくて!」


さっきまで鬼のように怒っていた笠松センパイが今度はニッコリ笑った。
右手を固く握り「腹に力入れとけ」と言って、思いっ切り俺の腹を殴った。
今までで一番痛い鉄拳制裁だった気がする。
誰が密告したのか知らないが、犯人が分かったらソイツを殴ってやりたいと思った。

いつの間にか姿を消していた俺のことを全く知らない、変わった女子生徒。
俺の方から女の子に興味を持つなんて初めての事で、ちょっと変な気分だ。
もう少し話してみたかったな、もう一度ここに来たら会えるかな、などと考えながら笠松センパイと一緒に教室を出た。

あ、そういえば俺、彼女の名前も学年も知らないや。


【出会う】


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

黄瀬くんとファーストコンタクト。
続く。

Title by
確かに恋だった

2012/12/04


prev next
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -