アダ名で呼んでみよう



「よっしー先輩」


部室でミーティングの準備をしてる時に、森山先輩のことをそう呼んでみた。
特に深い意味はなかったが、何となく先輩のことをアダ名で呼んでみたらどんな反応をするのか見てみたくなったから。
呼ばれた本人はキョトンとしていた。
しかし驚いたのは一瞬で直ぐにニヤッとした笑みを浮かべた。


「なんだ突然可愛い呼び方して」
「いや、深い意味はないんですけどね。何となくアダ名で呼んでみたくなって」
「何か親密度が上がった気がするな! どうだこの後デートでも…」
「小堀先輩は『コウ先輩』で、早川先輩は…んー…『みっくん先輩』で、笠松先輩は『ユキ先輩』ですね」
「この子、一気に4人と親密度上げてる! 手練だな!」


よっしー先輩がオーバーリアクションでショックを受けている。

コウ先輩は「何だか照れくさいな」とはにかんでいて、みっくん先輩は「オ(レ)アダ名付け(ら)(れ)たの初めてだ!」とはしゃいでいた。
ユキ先輩はこの場にいなかったので後で呼んでみよう。

黄瀬が「俺は、俺は?」と言ってきたので「あー、キセリョ?」と返したら「雑ッ!」と嘆かれた。
ごめんごめん。でも黄瀬って既に沢山アダ名があるじゃないか。

他のレギュラー以外の先輩とかのアダ名も考えてたらユキ先輩が「ミーティング始めるぞ」と言いながら部室に入って来た。
例に習って笠松先輩のこともアダ名で呼んでみようと思う。
さて、どんな反応をしてくれるのだろうか。
ニコニコ(いや、ニヤニヤ?)笑いながら笠松先輩のことを「ユキ先輩」と呼んでみた。


「……は…?」


自分が呼ばれたと認識出来なかったようでワンテンポ遅れてから反応が返ってきた。
驚いた顔をした後に顔を赤くして「それ、止めろ」と絞り出すような声で言った。
何とそんなに嫌だったのか…。
少しショックを受けながら「あ、はい、すみませんでした…」と言ったら、よっしー先輩が盛大に吹き出して笑った。え、何事?


「俺も今日からユキちゃんって呼ぶわ」
「…森山、お前マジで止めろ」


よっしー先輩の頭をグーで殴って、空いている席に腰を下ろした。
殴られた先輩は頭を押さえながら「照れ隠しで暴力振るうなよ」と抗議していた。
あ、照れ隠しだったんですか。分かりにくい。

よっしー先輩が自分の頭を撫でながら「あ」と声を出した。
そしてユキ先輩を指差して「お前、コイツにアダ名つけてやれよ」と言った。


「は? なんで俺が」
「コイツだけアダ名ついてないし、笠松…じゃなかった、ユキちゃんが付けたら面白い事になるかなーって思って」
「あ、良いですねソレ。先輩、ぜひお願いします」


「はあ?! 嫌だ!」という先輩に駄々っ子のように頼み込んだら渋々だがOKしてもらえた。

実は私もみっくん先輩と同じくアダ名を付けられたことがない。
どんなアダ名を付けてもらえるのか。
名前からなのか、苗字からなのか。
何だかドキドキ、ワクワクしながら期待した眼差しをユキ先輩に向けていた。
ユキ先輩はチラリとこっちを見た。
目が合った瞬間に凄い勢いで逸らされた。あ、少し傷付く。
そっぽを向いたまま先輩が呟いた。


「あー…………シロ…?」


「………へ?」


先輩、私の名前に「シロ」要素は全くないのですが…。
外見も「シロ」っぽいところはないのですが…。

混乱していると再びよっしー先輩が吹き出して笑った。
「お前、それはないだろ…!」と苦しそうに、そして楽しそうに言う。
コウ先輩も何だか可哀想なものを見る目でこっちを見ていた。


「だーっ! この話しはもう終わりだ! さっさとミーティング始めるぞ!」
「は、はい!」


強制的に会話を終了させられてモヤモヤしたままミーティングを受けた。

ミーティング終了後、私のアダ名の由来を知ってそうなコウ先輩とよっしー先輩に話し掛けたら、楽しそうに笑いながら教えてくれた。


「シロってな、アイツが飼ってる犬の名前だよ」
「名前の通り真っ白でフワフワしてて可愛い子でなー」
「そうそう、お前に似てるよ…ブフッ」
「こら笑ってやるなよ、森山!」


思いも寄らない事に思考が空転し、考えた末に自分の口から出てきた言葉は「私、ユキ先輩のこと『ご主人様』って呼んだ方が良いですかね…」だった。


【アダ名で呼んでみよう】

(それを聞いて森山先輩は壊れたように笑い転げて、小堀先輩は「冷静になれ!」と焦っていた)


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海常のみんなのことをアダ名で呼びたかっただけです。
黄瀬くんと早川くんの出番が少ないっすね。ごめんなさい。

2012/11月拍手・2012/12/02収納 


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