恋する乙女


「ねえ、笠松覚えてる?」
「…何を?」


日が暮れてすっかり暗くなってしまった部室で問い掛けた。
笠松は部誌を書きながらこちらを見もせずに言葉を返す。
机に置いてあった消しゴムを指で転がしながら「ちょうど1年前だよ、私が笠松に告白したの」と言う。
ポキっとシャーペンの芯が折れる音がした。


「…そういや、そうだな」
「そうなんです。いやー、懐かしいね」


今日から1年前、同じように暗くなったこの部室で私は笠松に告白した。
中学の頃からずっと想ってきた気持ちが溢れて、つい言葉になってしまったのである。
告白なんてするつもりは無かったので笠松以上に自分自身がビックリしていたように思う。
断られるかと思っていたが、笠松はそっぽを向きながら大きく頷いてくれた。
思いもしなかった返事に真顔で涙を流し笠松を困惑させてしまったなあ。

この1年色々あったけど、笠松を好きって気持ちはあの頃から変わっていない。
むしろ今まで知らなかった良い所、悪い所を知って前よりも好きって気持ちが増した気がする。
もう、どうしようもないくらい好きだ。


「笠松は私の運命の人で、私の白馬の王子様だよ」とヘラっと笑いながら言うと、「…みょうじ…森山に感化されすぎだろ」と返された。


「別に感化されてないよ」
「はいはい。もう黙ってろよ」


そう言いながら部誌を書いていく。
さっきより筆圧が強くなって、さらに耳まで赤くなっている。
どうやら照れているようだ。
そりゃあそうだ。言っている私自身も恥ずかしい。

熱くなった頬を机に付け、笠松を見上げる。
笠松がチラッとこっちを見て視線がぶつかった。
サッと部誌に視線を移し文字を書いていく。


「笠松ー」
「あー?」
「好きだよー」


ポキっと再びシャーペンの芯が折れた。
シャーペンをノックして乱暴に文字を書く。
あーあー、そんなに強く書いたら次のページに写っちゃうでしょうに。

クスクス笑いながら「笠松は? 私のこと好き?」と聞いた。
すると今まで書いていた部誌を閉じて、私の顔の上に結構な勢いで置いた。痛い。


「おうふっ」
「アホなこと聞いてんじゃねえよ」
「アホなことじゃないよ。大事なことですよ」


照れ屋でこういった台詞をめったに言ってくれない笠松。
付き合い始めてから1年も経っているので、ちょっと不安だったりもする訳ですよ。
たまにはちゃんと言葉にしてくれても良いんじゃないかな。
机に突っ伏しながら不貞腐れていると、いつの間にか帰り支度をしていた笠松が席を立ち「みょうじ、帰るぞ」と言ってきた。


「え、あ、ちょっと待って…」


慌てて机に出してあった物を鞄にしまう。
わたわたと帰り支度をしていると、笠松は机に置いてあった部誌を手に取りながら小さい声で「好きだ」と耳打ちしてきた。

何だそれ、反則だろう。

「先行ってる。直接下駄箱行ってろ」と真っ赤な顔のまま部室を出て行く。
私が帰り支度をすませて廊下へ出ると、もうそこには居なかった。
居た堪れなくなって走ったな、アイツ。

言われた通り下駄箱へ向かうと反対側から笠松が歩いてきた。
双方無言のまま靴を履く。


「ん」


笠松が左手を私の方に突き出した。


「ん」


頷いてその手を取る。
初めて手を繋いだときは二人とも緊張してふるえていた。
私より笠松の方がふるえてて。さらに汗ばんでて思わず吹き出して笑ったっけな。
笑ったらすっごく怒られたけど。
今ではこうやって普通に手を繋げるようになって…成長したなぁ、笠松。

そんなことを考えながらジーッと横顔を見ていると「見過ぎだ」と右手で目を覆われた。
そして恥ずかしくなったのか、いつも以上に早足で歩き始める。
繋いでいた手がグイッと引っ張られる。

こっちの歩調に合わせる気もなく歩く人なんて普通は嫌だが、笠松だったら許せてしまう。
まあ、腕に抱きついたりじゃれることが出来ないのは悩みどころではあるんですがね。

気を遣えない訳じゃなく、恥ずかしさから自然とそうなってしまっているのだと考えると、この歩く早さも愛おしく感じる。
普段は男前なのに本当に可愛いヤツめ。

周りに誰もいないのを良いことに、パッと手を離してから笠松の前に回り込んで飛び付いた。


「おわっ! あぶねっ!」


私の背中に腕を回して転ばないように支えてくれた。
ギュッと力を込めると笠松の鼓動が少し早くなったように感じた。心地よい。
この先も色々あるだろうがいつまでも一緒にいれたら良いなと思った。

身体を離して笠松の胸を軽く叩きながら「もー! 好きだバカ!」と言った。
その手を掴んで叩けなくし「分かったっつーの」と呆れた表情で言う。

そして私の頭をぐしゃぐしゃっと乱暴に撫で、めったに見せない優しい笑顔で言った。



「……大好きだバカ」



【恋する乙女】


(笠松がデレた! もう一回! もう一回!)
(次は1年後な)
(ケチ!)
(うっせ! そんな何度も言えるか! 恥ずいんだよバカ!)



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

イメージソング:『コ/ イ/ ス/ ル/ オ/ ト/ メ』

解釈とか結構間違ってると思う。
曲をイメージしながら書くのって難しいですね。
1番しか使えなかった…。しょぼん。


2012/11/27


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