まだまだお子様



放課後、下校しようと廊下を歩いてたら前方にみっくんこと早川充洋を見つけた。
みっくんは自分のクラスの前辺りの廊下を、鼻歌を歌いながら一人で歩いていた。
大きなバッグを持っている。多分みっくんもこれから帰るのだろう。
周りには誰もいない。

みっくんに気付かれないようにそっと背後に近付く。
そしてドーンと背中に思い切り抱き着いた。


「みっくーん!」
「おわっ!」


みっくんは驚いたもののビクともしなく、まるで壁に直撃したような衝撃だった。
まさかこうなるとは思ってもいなかったので、直撃した鼻が凄く痛い。
鼻を押さえながら、空いてる手で背中をペシペシと叩く。


「みっくん!かたい!痛い!」
「そ(り)ゃあな!」


昔はフワフワした触り心地だったのに、いつからこんなに逞しくなってしまったんだろう。
何だよ、みっくんのくせに生意気な。
いっちょ前に成長しやがって。

「かたいし痛いよー。ゴツゴツしてるよー。抱き心地悪いよー」と文句を言いながら再び背中に抱き着くと、「文句言うく(ら)いな(ら)離せよ」と腕を軽く叩かれた。

背中だけでなく手の平の感触も硬かったので、腹部の方へ回していた手を動かし、お腹を撫でてみた。
毎日筋トレでもしているのか、しっかり鍛えられていてゴツゴツした触り心地だった。
おお、服の上からでも分かるもんなんだなぁ。凄いわ。

不意にみっくんが私の腕を掴んだ。
背後にいるので表情は分からないが、心無しか耳が赤くなっているように見えた。


「こっ、こしょばい! なまえ止め(ろ)ッ!」


そう言ってみっくんが身をよじるので、面白くなり本格的にくすぐりを開始した。

そういえばみっくんは昔からお腹を擽られるのに弱かったなぁ。
鍛えていても弱点は変わっていないようだ。
「くらえー、こちょこちょこちょ」と言いながら指を細かく動かすと「やーめー(ろ)ー!!」と叫びながら笑う。
何コレ面白い。


「なまえっ! マジで止め(ろ)! オ(レ)くすぐ(ら)(れ)(る)の苦手だって知って(る)だろ!」
「えー? 早口だし、笑いながらだし、ラ行言えてないし、何言ってるか分からないなー」
「嘘つけぇ! お前いつも正確に聞き取ってく(れ)(る)じゃんか!」
「そのスキルは今この瞬間からなくなってしまったようだわー」
「鬼ー!悪魔ー!!」
「わははは! 何とでも言うが良いわ!」


ついに我慢出来なくなったのか「やめ(ろ)って!」と言いながらこちらを向き、両肩を掴んで身体から引き剥がされた。
笑い過ぎたのか息は上がり、目に涙を溜め、顔は赤くなっていた。
『あ、ヤバイやり過ぎた』と思うと同時に、見たことのない表情にドキッとした。
自分の頬に熱が集まるのを感じる。
みっくん、こんな表情もするんか。

両手を上げて降参のポーズを取り「ご、ごめんなさい」と言うのとほぼ同時に、みっくんに正面から抱き締められた。
な、何だ。この人は何をしているんだ。
私の知っているみっくんがする行動じゃなく、思わず身体が硬直する。

みっくんの表情を覗うとバスケの試合の時のような真剣な目をしていた。
一番かっこいい表情を至近距離で見てしまい、慌てて視線を外す。
身体はみっくんの両腕で押さえられてしまっているので逃げることは出来ない。

わわわ、何だ、何でこうなった!
顔を赤くしながら慌てていると背中に回されていた腕の片方が首の方へ上がってきた。
「んぎゃっ」と何とも色気のない声が出た。
それを聞いてみっくんは「ふっふっふっ」と不敵に笑った。
ま、まさかコイツ…!

嫌な予感がし、逃げようと身をよじるが背中に回されている腕がそれを許さない。
そしてみっくんは何とも意地悪い顔をして高らかに叫んだ。


「や(ら)(れ)た分だけや(り)返す!!!」
「ぎゃー!!!」


私が叫ぶのと同時にみっくんの両手が動く。
首と脇腹を同時に擽られる。
私がみっくんの弱点を知っているように、みっくんも私の弱点を知っている。
そのため的確に私のツボをついてくる。
もう何も考えられない。笑う事しか出来ない。
笑いながら謝罪と止めるようにお願いをしたが、「えー? 何言って(る)か分か(ら)ないなー」と返された。
どっかで聞いたことある台詞ですね!!

笑いすぎて足に力が入らなくなり、その場にへたり込む。
酸素が足りず息が上がっている。頭もクラクラしてきた。
さすがにやりすぎたという事に気付いたのか、今度はみっくんが降参のポーズをしながら「ごめん」と言った。
少しの沈黙のあと、お互いに吹き出して笑う。


「あー、笑った笑った。つっかれたー」
「オ(レ)も疲(れ)た! 良し、帰(る)か!」


そう言って立ち上がり私に手を差し伸べる。
その手をとって立ち上がり、手を繋いだまま下駄箱へ向かう。

廊下を曲がったところで何故か座り込んでいた森山先輩と黄瀬君に「子どもか!」と怒られた。


「うわあ! ビックリした!」
「さっきから見てたがお前らは何なんだ! 小学生か!」
「そうッスよ!」
「えっ、えっ?」
「お前たちは異性の身体に触れてるのに何とも思わないのか!」


森山先輩にそう怒られた。
みっくんと顔を見合わせ「いえ、全然」と言ったら森山先輩が頭を抱えてうずくまった。

確かに色気なんて無いし、高校生っぽくないかもしれない。
でもそれが私たちの距離感だし、何より楽しくて幸せならそれで良いと思うのですよ。

そんなことを考えながらみっくんを見ると、みっくんもこっちを見ていて視線が合う。
そしてニカッと笑って繋いでいた手をギュッと握った。
うん、やっぱりこの距離が一番だ。

さっき一瞬感じたドキドキの正体と、みっくんが同じようにドキドキしていたという事実を私はまだ知らない。
年相応の反応をするようになるまでは、まだ時間が掛かりそうだ。



【まだまだお子様】



(なあ、黄瀬……俺汚い大人かな…)
(森山先輩泣かないで下さい! 森山先輩が汚れた大人なんじゃなくてこの2人が超ピュアな子どもなだけッス!)
(なっ! 黄瀬君!先輩に向かって子どもとは何ごとですか!)
(しつ(れ)いな奴だな!)
(事実ッス! おこちゃま!)
(むっかー! みっくんやってしまいなさい!)
(おう! オ(レ)に任しとけ相棒!)
(ぎゃー!すんませんッス!)



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

ネタの段階ではキュンとしたのに、私が書いたらそんなもん無くなった。
力不足…。
でもさ、まだまだ子どもでも良いじゃない←

ちなみに森山君と黄瀬君は偶然通り掛かって面白そうだったからこっそり見ていたという設定。
そしてやはりオチが迷子。


2012/11/25


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