ミトンの手袋



最近急に寒くなった。
晴れの日の昼間はそんなでもないが、早朝や夕方には息が白くなりそうなくらい冷え込む。
朝練に向かうため早朝の通学路を身体を縮こませながら歩く。
角を曲がると少し前を一人の女子生徒が歩いていた。
彼女はコートのポケットに両手を突っ込んで、小さな身体を余計に縮こませて歩いていた。
歩調を早めて前の彼女に追い付く。
後ろから肩をポンと叩いた。


「なまえおはよう」
「わあ、びっくりした。おはよう小堀くん」


「寒そうだな」と言うと「とっても寒いですよー」と言ってマフラーに顔を埋める。
風が吹くたびに身体を震わせ「うー寒いー」と唸り声を上げるなまえが可哀想で、ポケットの中に入っていたカイロを差し出す。


「これ使うか?」
「え、いや、小堀くんが寒くなっちゃうからいいよ」
「俺は大丈夫。はい、手出して」


コートのポケットから出てきた小さな手に温かくなったカイロを乗せる。
「ごめんね、ありがとう」という声に「謝るなって。どういたしまして」と返す。
ギュッと握って温かさを堪能する。
その後しばらくは両手を出して歩いていたが、冷たくなってしまったのか再び両手はコートのポケットへ戻っていった。
ポケットに手を突っ込んで歩く姿が何だか少し嫌だと思った。


「ポケットから手出して歩いた方が良いんじゃないか? なまえおっちょこちょいだから転ぶかもしれないし」
「おっちょこちょいじゃないよ! 大丈夫です!」
「そうか? まあ、気を付けてな」
「わかってますよー…」


そんな事を話しながら歩いていたらいつの間にか学校に着いており、なまえとは昇降口で別れた。
朝練も授業も放課後の部活も滞りなく順調に終わって後は家に帰るだけだ。
ふと、スポーツ用品店に寄らなきゃいけない用事を思い出し、帰りに寄って帰ることにした。
注文していた物を受け取り、店を出てしばらく歩いていると、ある雑貨屋さんが目に止まった。
この間なまえと出掛けた時に行った店で、なまえの好きな店だ。
店頭には大きなぬいぐるみや、可愛いブランケットなどが置いてある。

店頭に置いてある商品の中に手袋があった。
パステルカラーのモコモコしたカラフルな手袋の中から、何となく目に付いた白いミトンの手袋を手に取る。
自分の手より遥かに小さいそれを手の平に合わせるようにして眺める。
なまえの手はこれくらいの大きさだったよな、と自分の指の関節1つ分よりも小さいなまえの手を想像した。
うん。大体これくらいの大きさだ。

他にも可愛い色の物もあったが、最初に手に取った白いミトンを持ってレジに向かった。
男の俺が一人で店に入るにはかなり勇気がいったし、恥ずかしかった。
店員さんに「プレゼントですか?」と聞かれ、「はい」と答えるのが一番照れくさかった瞬間だったと思う。
会計を済ませて、足早に店を出て家へ向かった。



次の日の部活後、帰ろうとしてる時になまえと会った。
なまえは下駄箱のところで昨日と同じようにマフラーに顔を埋めながらポケットに手を突っ込んで立っていた。


「お疲れ様ー」
「なまえも今帰りか?」
「んー、ちょっと前に終わったんだけど、小堀くんが見えたから待ってみた」
「そうか。寒かったんじゃないか? ごめんな、ありがとう」
「いえいえー。 ねえ、一緒に帰っても良いかな?」


「もちろん」と言いながら靴を履き替える。
昇降口を出ようとしたところで昨日買った手袋のことを思い出して鞄の中を探した。


「なまえ、両手出して」
「こう?」
「そうそう。…はい」


手の平を上にして出された両手の上にポスンと袋を置いた。
頭にハテナマークを浮かべているなまえに「開けてみて」と促す。
リボンを解いて中身を取り出す。


「わあ、可愛い…!」
「なまえに似合うと思って」


パッと上げた顔はキラキラしていて、とても嬉しそうだった。
しかし「あ、でも…」と言って少し寂しそうな顔をした。
きっと「誕生日でも何でもないのに貰えない」とか思っているんだろう。
そんなこと気にしないで良いのに。
なまえの頭にポンと手を置いて「俺のために貰ってくれないか?」と言った。


「小堀くんのため?」
「そう、俺のため。なまえ、手袋ないからポケットに手突っ込んで歩いてるだろ? 俺、それ正直嫌なんだ」
「え、あ…ごめん…。行儀よくないよね」
「そうじゃなくてさ。…手、繋げないだろ。俺それが嫌だなって思ったんだ」


そう言って苦笑いを浮かべるとなまえは恥ずかしそうに笑いながら「それは私も嫌だなぁ」と言った。
手袋を両手にはめて嬉しそうに見つめる。


「じゃあ、ありがたく頂戴いたします。本当に嬉しい、ありがとう」
「喜んでくれて良かった」
「でも、私ばっかり良い思いしてて嫌だから、今度は私のために小堀くんに何かプレゼントさせてね」
「何だか複雑な話になってきたな」
「言い出したのは小堀くんだよ」
「そうでした」


ポケットから出され、俺の選んだ白いミトンの手袋がはめられた小さな手を取り「では、帰りましょうか」と言う。
なまえはニッコリ笑って「はい、帰りましょう」と言ってくれた。
繋いだ手はぽかぽかと温かかった。


「えへへ、あったかいね」
「あったかいな」



【ミトンの手袋】


少し後ろで一部始終を見ていた笠松と森山。
(なあ、笠松)
(あ?)
(アイツら何であんなにフワフワしてんの? 何なの? 自分たちのフワフワした空気で空でも飛ぼうと思ってんの?)
(…飛べねえと思うぞ)
(真面目に返すな。あー! 彼女欲しい!!)


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

ミトンの手袋が欲しいです。

2012/11/19


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