青い春


「なあ、青春って良いよな」
「え、どうしたの突然。頭でも打った?」
「良いよなぁ…」
「無視か」


昼休みになまえの前の席に座ってボーッと遠くを見ながらそう呟いたら変なものを見る目を向けられた。そんな目で俺を見るな。

俺の頭には先日彼女が出来た友人の姿があった。
今まで全く女っ気がなかったくせに何だここにきて青春か。リア充の仲間入りか。
カップルといったら手を繋いで登下校したりするんだろ。週末は街にデートに行くんだろ。
ちくしょう、羨ましいじゃないか。

机に突っ伏しながら「彼女が欲しい…女の子…青春したい…」と呟いていたら、小さく溜息を吐くのが聞こえた。


「青春ねぇ…。十分してると思うけど?」
「どこが」
「3年間真剣に部活に取り組んで、成績残して、素敵な青春じゃない。汗流してさ」
「そう、そこだ」


なまえの顔を指差す。それを手で払い除けられながら「どういうこと?」と聞かれる。

スポーツで汗を流し、チームメイトと信頼関係を築き1つの目標に向かって頑張る。確かにそれも1つの青春だろう。
しかしだ。それは『汗臭い青春』で、俺の言っている『青春』とは全く違う。
華やかさが足りない。そう、女の子が足りない。
手を握ろうにも周りには固いゴツゴツした手の野郎しかいない。悲しすぎるじゃないか。
俺は汗を流す青春だけではなく、華やかな青春が送りたいんだ。

女の子特有の柔らかい手を握ったり、放課後デートしたり、部活の試合に俺を応援しに来くれたり、昼休みに一緒にご飯食べたり、ドキドキしたり、そういう青春を求めているんだと熱弁すると「ふーん」と短い返事が返ってきた。

なまえの反応が良くなかったので、外に視線を移す。
あ、隣のクラスの可愛い子。あんな子と付き合えたらな…。
外を見つつ「何で俺には彼女がいないんだ…。合コンしたい…。彼女欲しい…。女の子…」と呟いていたら、隣にいたなまえが「森山は残念だから仕方がないね」と言った。

それが何かムッときて「お前も俺と同じような部活漬けの青春送ってるくせに」と言ったら、「まあそうだけど。でも森山の言う『華やかな青春』も送れているみたいだよ」と言う。
先を越されたと思ったからか、少し焦った。
窓の外に向けていた視線を横に移動させ、なまえの顔を見る。


「彼氏いるのか?」
「いないよ」
「じゃあいたのか?」
「いいえ」
「同性と手を繋いだりとかはカウントしないぞ」
「分かってますとも」
「じゃあ誰と?」
「森山と」


思考が停止する。俺が? なまえと?
今まであったことを思い返してみてもそんな甘い思い出はない。


「いつ?」
「森山が女の子にかまけて部活に遅れそうな時に手ェ引いて連れてってるじゃん」


それか。じゃあなんだ、放課後デートは部活の買い出しか?
そう考えると確かに手を繋いだり一緒に出掛けたりしている。
しかし、俺自身気付かないくらい糖度が低いものだ。
俺が求めているものとは違う。


「それはノーカウントだろう」
「え?そうなの?」
「俺が言ってるのはもっとドキドキする甘い感じのでだな…」
「ふーん。まあ、私はドキドキしている訳だから青春を満喫出来ているということかね」


再び思考が停止した。
俺をフリーズさせた張本人は「あ、お茶なくなった。買いに行こう」と言って席を立って教室を出て行った。
俺の耳や頭がおかしくなった訳でなければなまえは俺といるとドキドキすると言った。
何ということだ、こんなに近くに運命の相手がいたなんて。
今までは近すぎて意識していなかったが、なまえが異性だと意識した途端に心臓が大きな音をたて始めた。
俺の求めていたものそのものだった。

居ても立っても居られなくなり、教室を出てなまえの背中を追いかけた。
追いついたら口説いて青春イベントのやり直しを要求しよう。
今日から俺の日常も華やかになること間違いなしだ。


【青い春】


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

森山君に「青春とは何ぞ」ということを語らせたかっただけ。
あと、森山君は自分からグイグイいくけど、自分に向けられた好意には鈍そうだと思いました。
………森山君かけない。


2012*09*18


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