Happy Birthday



〜♪〜♪
――ヴーッ ヴーッ――


着信音と共に携帯が振動する。
うるさい。もう少し寝かせてください。
しっかりと開いていない目で携帯の画面を見ると、メールの送信者のところには親友の名前。
本文には『ハッピーバースデー!』という文字と可愛らしいデコレーション。
朝からコレは…チカチカするね。眩しいわ。

そうか、今日は誕生日か。夏休みボケで今日が何日だか忘れていたわ。
メールの受信箱をよく見ると、さっきの親友だけでなく他の友人からも何件かメールが届いていた。
みんな夏休みなのにマメだねぇ。まあ、嬉しいけど。

返信はあとですることにして二度寝をしようかと思ったが、何だか目が冴えてしまって寝付けなくなってしまった。
仕方がないのでもう活動を始めようと携帯を持ってリビングへ移動した。

リビングへ行き両親に「おはよう」と挨拶をすると、返事もそこそこに「あら、珍しい。天気悪くならないかしら」「折り畳み傘を持って仕事に行こう」とか言ってきた。
全く失礼な人たちだ。まあ、確かに最近は昼近くまで寝てますけど…。

自分も食卓につきメールの返信を打っていると、テレビの音が耳に入ってきた。
可愛い女性アナウンサーさんが、今日の運勢を星座ごとに発表していた。
「おは朝占い見るの久しぶりだなー」とか思いながらメールを打つのを止め、テレビに視線を移した。


『続いて獅子座! 獅子座は思いがけないことが起こるかも!心の準備をしておいてね。獅子座のラッキーアイテムは麦わら帽子!』


えー…持ってないのだが…。しかも「思いがけないこと」って漠然としすぎだろう。
良いことなのか悪いことなのかも分からないじゃないか。
まあ、何処にも出掛ける予定もないし無くても良いか。おは朝の占いを盲信している訳じゃないし。

コップに入っていたお茶を一気に飲み干し、冷房の効いた部屋に戻ろうかと思ったら、ポケットに入れていた携帯が振動した。
送信者はおは朝占いの盲信者。

From : 緑間 真太郎
Sub : (non title)
―――――――――
これから行く。
出掛ける用意をして待っていろ。



己の格好を見る。完全に寝起きである。
真太郎の家から私の家まで20分弱。
何で家に来るんだろうとか、部活は無いのかとか色々と疑問に思ったが、そんなことよりも出掛ける準備を慌ててしなければならなくなった。

奴は来る。行くと言ったからには絶対に来る。
バタバタと動いていたら親に「朝からうるさいわよー」とか言われたが、構ってられるか。


「よし、行ける!」


そう言ったのとほぼ同時に携帯電話が鳴った。
真太郎からのメールで『着いた』とだけ書かれていた。
サンダルを履き「行ってきます」と言ってドアを開けたらそこには…。

2m近い大男がタヌキの置き物を片手に立っていた。


――パタン

思わずドアを閉めた。思いがけないことってこれか?
ドアの向こうからは「何故閉める」と怒る声と、笑い声が聞こえてきた。
もう一度ドアを開けても立っている人物が変わっている訳はなく、不満そうな真太郎がこちらを見下ろしていた。


「何故閉めた」
「ごめん、ちょっとビックリした」
「ドア開けて真ちゃんみたいな大男がタヌキ持って立ってたら普通ビビるって。…ハハッ」
「身長は縮めることが出来ないのだから仕方がないだろう。高尾、笑いすぎなのだよ」
「ごめんて、真太郎。不貞腐れないでよ」
「不貞腐れてなどいない。それより早く行くぞ」


私に背中を向けて家の前に停めてあったリアカー付きの自転車の方に歩き出した真太郎。
「はいはーい」と言う高尾君の声と「何処に?」と聞く私の声が同時に出された。


「決まっているだろう、学校だ。今日は練習試合なのだよ」


別に決まっていないが…。
学校ならば自転車で行かなければならないので自宅のガレージに行こうとしたら、荷台の部分に乗っていた真太郎に腕を引かれた。


「何をしている。早く乗れ」
「へ?いや、だって…」


動揺していると自転車に跨った高尾君が「準備オッケー?」と聞いてきた。
掴まていた腕をグイッと引っ張られ、倒れ込むようにリアカーに乗っかる。


「うわわっ」
「よし、出せ」
「ちょ、えっ、まっ」
「しゅっぱーつ!…おもっ!真ちゃん降りて!」
「黙って早く漕ぐのだよ」


自転車が走り出し、気持ちの良い風が髪を撫でた。
自分は何もしていないのに景色が後ろへ流れていく。
真太郎の突然の行動が理解出来なくて、尋ねようと思い振り向いたらバッチリ目が合う。
すると、頭に何かを被され視界が遮られた。


「日差しが強いからこれでも被っていろ」
「何ですか、コレ」
「麦わら帽子だ。今日の獅子座のラッキーアイテムなのだよ」
「真ちゃんはそれを探してて5分遅刻しましたー」
「黙れ高尾。 なまえ、一度しか言わないからちゃんと聞いていろ」


帽子の上から頭を押さえ付けられリアカーの木の部分と二人の足しか見えないようにさせられる。
聞き取れないくらい小さい声でポツリと真太郎が呟く。


「なまえ、誕生日おめでとう」


頭を押さえていた力が弱くなったので顔を上げて真太郎の顔を見たが、真太郎は何もなかったかのような顔でそっぽを向いていた。
思いがけない台詞に呆然としていると、高尾君がケラケラ笑いながら「真ちゃんってば1週間も前からソワソワしてたんだぜー」と言う。


「今日リアカーで迎えに行ったのもなまえちゃんがこの間『乗ってみたいなー』って言ってたの覚えてて、乗せてあげたいって思ったかららしいよ」
「え…そうだったの?」


真太郎の気まぐれだと思ってた。
まさか私のためだなんて。意外すぎる。


「いい加減黙るのだよ」
「練習試合終わったら今日のワガママ権一回行使して反省会出ないで即行帰るつもりっしょ?んで、なまえちゃんとデートっしょ?そうだよねー、ずっと前から計画してたもんねー」
「…本当に黙れ…」
「わー!真太郎ストップストップ!」


自転車を漕いでいる高尾君の背後でタヌキを振りかぶっていた真太郎を慌てて止める。
高尾君は正面を向いたまま「誕生日プレゼントは俺の今日一日なのだよ。キリッ」とか言っていた。
ジッと真太郎の顔を見ていると、再び帽子の上から頭を押さえられる。


「こっちを見るな」
「どうして?」
「どうしてもだ」


頭を押さえる手に結構な力が込められている。相当顔を見られたくないようだ。
真太郎が私のためにねぇ…。

これか、思いがけないこと。おは朝すごいわ、当たってる。
笑いながら「ありがとう」と言うと不満そうに「高尾め、後で覚えているのだよ…」と呟いていた。
帽子の端を持ち、ニヤける顔を真太郎から見えないように隠す。

真太郎が私のために時間を割くなんて今まででは考えられないことだ。
何て嬉しい変化だろうか。
ふふっと声を出して笑ってしまう。


「何を笑っているのだよ」
「いえ、別に?」
「…とにかく、そういうわけで今日は1日付き合ってもらうからな」
「はいはい、仰せのままに」


なかなか素敵な誕生日になりそうだ。
高尾君の「背中がやけるように熱ーい」という呟きは夏の温い風と一緒に快晴の空に溶けていった。


【Happy Birthday】


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

真ちゃんが素直になってくれなかった。
どこまでも高飛車。
相方に捧げます。

2012*08*20/2012*09*03 up



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