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(本編には直接影響はありませんが、ヒロインは大学生、藤代は高校生くらいのつもりで書きました)

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良くない事というのは重なって起きるもので、今日はとことんついていなかった。

朝寝坊したことから始まり、学校に行くまでの間の信号でことごとく引っ掛かってしまったり、目の前で電車が行ってしまったりした。
学校に着いたら、家に課題を忘れて来たことに気付いたり、何故か大して仲の良い訳でもない男子に「足短いね」と唐突に言われたり。
その他にも小さい嫌な事が沢山あったが、言い出すと止まらなくなりそうなのでこれくらいにしておこう。
まぁ、良くないことが起こるたびに私の気持ちは倍々に沈んでいったというのは事実だ。
はあ…。思わず溜め息も出るってもんですわ。


夕方、グッタリしながら帰宅した。今日は本当に疲れた。
「ただいまー」と言っても薄暗い部屋からは返事がなかった。そうか、今日は両親共に遅くまでお出掛けか。
「何時頃に帰るのか」と両親に確認を取ろうと思い、携帯を取り出して開く。
ピーという音と共に画面が真っ黒になった。あ。電池切れた。なんだよもぉー。本当についてない日だなぁ。

自分の部屋に行き、充電器に携帯を挿してベッドに投げる。
何だか凄く疲れたのでご飯を食べて、お風呂に入って直ぐに寝てしまおうと思った。
台所に行って食べるものを探すがコレといったものが見つからない。くっそー、スーパー行くか…。
出掛ける準備をして、お風呂にお湯を張って、財布だけを持ち、家を出た。




「ええー…マジっすか…」


会計を終えスーパーから出たら、外は雨が降っていた。
傘なんて持ってきてないし、でも買うほどの強さでもないし…。
出入口の所でどうしようかと悩んでいると、小学生が横を駆けていった。よし!帰ろう!
レジ袋を握り締め屋根の下から出て家へ向かった。




「ただいまぁ…」


バタンと玄関の扉を閉める。そしてドサッと荷物を置いた。
あの後雨足が強くなり、私は全身ビショ濡れである。
お風呂のお湯張ってから出て良かった…。
荷物をそのままに、お風呂へ直行し、温かいお湯に浸った。
「今日は厄日だ」と呟くと少し泣きそうになった。


ホカホカに温まって「さあ、ご飯を作ろう」と玄関に荷物を取りに行ったら、突然インターホンが一度鳴った。
お風呂上がりだし、面倒だったので居留守を使うことにした。
扉の前の人が立ち去ることを期待して、その場で動かずに気配を消した。

もう一度インターホンが鳴る。何だよ、しつこいなぁ。
すると今度はインターホンが連打される。え、何これ怖い。
ピンポーンという音と共に外から「せんぱーい!なまえせんぱーい!」と私を呼ぶ声がする。
とても聞き覚えのある声。でも聞こえる筈のない声。は?そんなまさか。
恐る恐る「藤代君ですか?」と聞くと「なまえ先輩!そうっす!藤代っす!開けてください!」と返事が帰ってきた。
鍵を開けると誠二が扉を開けて中に入ってきて、両腕を使って私の動きを封じた。
分かりやすく言うと抱き締められたということだ。若干力が強すぎて息苦しい。
着替えたばかりの部屋着がジワリと濡れる。
誠二は走って来たようで息が上がっていた。
え、どういうこと? 状況が理解出来ない。
どうして誠二が家に来たのかとか、何で抱き締められてるのかとか、色々と訳が分からない。
「誠二?え、どうしたの?何かあった?ってかびしょ濡れ…」


グイッと両肩を掴まれ身体を離される。
真っ直ぐに目を睨むように見つめられ、少し緊張した。


「携帯!」
「…へ?」
「携帯どこっすか!」
「えっとー…部屋、かな」
「携帯を部屋に置いてから何分経ちましたか!携帯置いて出掛けましたか?!」
「…1時間半くらい?あー…出掛けもしたねぇ…」
「携帯は携帯するものッス!わかりましたか!」


凄く真剣に強い勢いでそう言われて、思わず「は、はい!」と返事をした。
すると深く溜め息を吐いて、もう一度ギュッとされた。


「何かあったんじゃないかって、俺メチャクチャ心配したんスよ…。電話しても出ないし、メールも返信ないし…」
「あー…ゴメン、電源落ちてて…」
「最初は『俺何かしたっけ?』って慌てて、だんだん『先輩に何かあったんじゃ…!』って不安になって。いてもたってもいらんなくなって…」


そう言いながら語尾が小さくなっていく。
本当に心配してくれたんだなぁ、と思うと凄く申し訳なくなった。でも同時に嬉しかった。
いかん、誠二から顔が見えないのを良いことに思いっ切りニヤけてしまった。
雨の中走って私の所に来てくれたことが嬉しかった。


「…先輩、今笑ってるでしょう」
「そ、そんなことないよ?」
「…嘘つきー」


こちらからも顔は見えないが多分不貞腐れた顔をしているんだろう。
苦笑しつつ「ゴメンね」と言うと、「せっかく休みになったからサプライズで突撃しようと思ったのに…台無しっすよ…」と言われた。
誠二が抱き締めるのを止めたので、レジ袋を拾い上げる。
私より高い位置にある、濡れている髪を撫でる。


「来てくれてありがとうね。ビックリしたよ」
「俺の思惑とは違いましたけどねー…」
「まあ、上がって。これから夕飯作るから食べてってよ。色々お話しよう」
「わーい!お邪魔します!」
「あ。先にお風呂入っておいで。身体冷えちゃったでしょう」
「え、良いんすか?」
「もちろん。場所分かるよね。タオルと服は後で出しとくから行っといで」
「じゃあ、お借りします!」


元気にお風呂場の方へ向かう誠二の後ろ姿を見送った。
嫌なことばっかだと思ってたけど…何だ、良いこともあるじゃないか。
誠二の服から水分が移ったので先ず着替えが先か。部屋に向かいながら何を話そうかとか、この後の事に胸を躍らせた。
一日の最後に起こった、ちょっとした『良いこと』がこんなにも大きな『幸せ』に感じるならついてない日もたまにはあっても良いか、と思った。…あくまでたまには、だが。



【−×−=+】


(誠二ー、タオル此処に置いておくねー)
(ありがとうございます!…なまえ先輩、先輩もさっき風呂入ったんですか?)
(んー?入ったよー)
(そっすか…)
(おい、藤代、何を考えている。その情報は必要だったのか)
(え?何か言いましたかー?)
(いや…何でもない…(…誠二が来たこと、良いことだったのかな…。深くは考えないでおこう))



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さて、藤代は何を想像したのでしょうか?
…ごめんなさい^^
ちなみに前半はほぼ実話です。


2012/05/10

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