褒め言葉


「最近不破君かっこいいよね」


教室で本を読んでいた時、少し離れた場所にいた女子生徒がそんなことを言っていたのが聞こえた。
チラっと話し声が聞こえた方に視線をやる。
数人の女子が何やら盛り上がっているようだった。

本を読むフリをしながら彼女たちの会話に耳を傾ける。
盗み聞きなんて悪趣味だと思うが、気になってしまうのだから仕方がない。
心の中で「ごめんなさい」と謝っておいた。


「不破ってあのクラッシャー?」
「うん、そうそう。何かサッカー始めてからカッコ良くなったと思わない?」
「あー、分かるかも。最近若干だけど性格が丸くなった気がする。話し掛けやすい雰囲気にななったよね」
「そうだよね!前までの“近寄んな”みたいなオーラが無くなったというか」
「無表情だから何考えてるか分かんないけどねー」
「そこがまた良いんだよ!」


そんな事を話していた。
前から大地は“近寄んな”ってオーラは出していないけどなぁ。
ただ目付きがキツいし、基本的に無表情だし、喋ると難しいことばっかり言うし、取っ付きにくくはあるよね。
授業でもよく問題起こすし、何考えてるか分かりにくいし。
でも、彼は自分に正直にでありすぎるだけで、別に悪い子ではない。
危ないことは(あまり)しないし、悪いことは(そんなに)しない。

良い子なのに表情が変わらないからか、勘違いされてしまうのだ。

周りに私が「大地は良い子だよ」と言っても奇異な目を向けられるだけだった。
でも、サッカー部に入り風祭君たちと出会って大地は少し変わったようだ。

確かに前より表情が豊かになった。
友達に「そんな些細な変化に気付けるのはアンタくらいだよ」と言われたがそうではなかったんだ。
私以外にも気付いてくれる人がいて、段々とだが「不破は別に悪い奴じゃない」と思ってくれるようになっているようで嬉しかった。
「そうだよ、大地はかっこいいんだよ」と心の中で頷きながら、本でニヤけた顔を隠す。
大事な人が褒められるのは、自分の事のように嬉しい。

そっか、みんなが大地を受け入れてくれるのか。
好いてくれているのか。
一瞬胸がモヤッとしたが、気付かなかったフリをして本に視線を落とした。



読書に没頭していたらいつの間にか教室には私一人しか居なくなっていた。
帰るために教室から出て下駄箱向かう。
上履きを履き替えていると、隣に人の気配がした。
見ると大地がいた。


「なまえ帰るぞ」
「あれ、どうしたの?帰る約束とかしてたっけ?」
「していない。教室にお前がいるのが見えたから待っていた」


淡々とそう言われて、嬉しくて顔が緩む。
今日は良い日だ。嬉しいことが沢山だ。
「そっか。ありがとう」と笑いながら言うと「行くぞ」とまたもや淡々と返された。
歩きながら色々な話をしていた時、さっきのことを思い出したので話してみた。


「さっきね、大地のこと褒めてる人がいたよ」
「そうか。特に褒められるようなことをした覚えはないが」
「サッカー部に入ってからかっこよくなったってって言ってたよ」


そう言ってヘラッと笑う。さっきよりも胸がモヤッとした。
大地が褒められるのは確かに嬉しいのに。

コレは嫉妬心だろうなと思った。
大地が他の女の子にキャーキャー言われている事に妬いているんだ。
嬉しいけど、何か嫌だ。でも大地に周りの見る目が変わってきているということは伝えたい。
複雑な気持ちである。
私は小さい人間だなぁとか考えていたら、表情を崩さないで淡々と「別にどうとも思わん」と言った。


「え、なんで?褒められたんだよ?『かっこいい』って。嬉しくない?」
「誰だか分からん奴に褒められても特に何も感じ無い」


そういうものなの?と頭に疑問符を浮かべていたら、大地がこっちを見た。
真っ直ぐに私の目を見て言う。


「なまえ以外から言われても意味がないだろう」


なんだその殺し文句は。
呆然として立ち止まってしまった私に「どうした、置いていくぞ」と相変わらずの表情で言う。
置いて行かれるのは嫌なので慌てて歩き出す。

胸のモヤモヤは無くなっていて、代わりに心臓がバクバクいっていた。
チラッと大地を見ると、大地もこっちを見ていた。
バッチリ目が合う。
その視線は何かを期待しているようだった。
この流れで言うのは恥ずかしくてたまらなかったが、言わねばならないようなプレッシャーを感じたので勇気を振り絞って「大地、前よりかっこよくなったよ」と言った。
するととても満足そうな顔をした。非常に嬉しそうである。珍しい。


「ふむ。やはりなまえに褒められるのは良い」
「それは良うございました…」


顔がとても熱い。
赤くなっていると自覚してるのにわざわざ「顔が赤いな」などと言ってくるから余計に恥ずかしさが増した。
大地は良い方向へ変わっていってるが、根本にある“クラッシャー”というところは変わっていないようだった。
私の小さな嫉妬心は彼の爆弾発言により粉々にされた。
しかし、よくもまぁあんな恥ずかしい台詞をサラリと言えるものだ。
恐らく大地のことだから恥ずかしいという風に思っていないのだろうが。
大地がああいう風に思ってくれているのなら、今度は自分から褒めてみようと思った。



【褒め言葉】



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

無理やり終わらせた感が…。
この間の柾輝と何となく似てる気がする…。
まぁ、気にしないでください。
…大地ってこんな子でしたっけ…?


2012/04/29


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