すずむら | ナノ



「…あっつー」

夏休み最終日の今日、暇を持て余していた私は
コンビニへと足を運んでいた。

明日提出の宿題ってなんだっけ、と
考えながら店内に入ろうとすると
店から出ようとしている人に
ぶつかりそうになった。


「すいません!…あ、桜庭」


『ん?おーみょうじ』


咄嗟に謝り顔を上げると、同じクラスの
桜庭雄一郎が立っていた。


『久しぶりだなー!元気?』


「まあなんとか。そっちは…元気に決まってるよね。
今日もサッカーやってたんでしょ?」


『まあな。俺選抜メンバーに選ばれちゃったからさー!
もう練習大変で!』


「選抜メンバー?…なんかすごそうだねえ」


『すごそう、じゃなくてすごいの!
だって東京都の中で上手いやつの一人に入ったんだぜ?すごくね?』


「うーん…すごい。多分。あ、桜庭あれでしょ。
あの…み、みっどふぃるだー」


『そうそう。やっと覚えてきたか!覚えてきた記念に試合見に来いよ!』


「今暑いからやだ。冬になったら行くよ」


『おまえそれで冬になったら
寒いからやだ、とか言うんだろ?!』


「…桜庭すごい、エスパーみたい」


『まあな!ってちげーよ!みょうじの考えが分かりやすすぎるんだよ!』


隣で騒ぐ桜庭を無視しアイス売場へと向かう。


「あー…まじで暑い!ねえ桜庭、アイス食べよ?」


『えー…俺さっき友達と食べたからいい』


「桜庭ひどい!友達とは食べたのに私とは食べてくれないのね…!私のこと嫌いなのね…!そんなひどい人だなんておも『あーもううるせえよ!食えばいいんだろ!』


「やった!じゃあパ○コ半分こしよう。あ、ごちそうさま!外で待ってるねー」


『しかも俺が買うのかよ…』


数分後、店から出てきた桜庭とアイスを食べながら帰る。
他愛もない話をしていたが、なんとなく上の空な彼に疑問を感じ顔を覗き込む。


「桜庭どうしたの?店出てきてからなんか変だけど…お腹痛いの?」
と聞くと


『…俺らってさー、
……やっぱいいわ』
と返された。


「なにそれ?!気になるじゃん!
言ってよ!」


『いいよもう。気にすんなって』


「やだよ気になるって!
ねーえー!言ってよー!」


そう言って桜庭の腕を
前後に振っていると
観念したように話し出した。


『わかった、言うから腕離せ!

…俺らってさ、付き合ってるように見えんのかな?』


「…は?私と桜庭が?
なにいきなり」


『いや、さっきレジでおばちゃんに
「可愛い彼女ね〜!
大事にしなきゃダメよ!」
って言われてさ。
端から見たらカップルに見えるんだな、と思って…』


「えー、桜庭とカップル?
なんか複雑ー」


本当はドキッとしたけど
そんなことも言えず冗談で返すと
腕を捕まれ足が止まった。


「うわ、なに?」


『…俺は、嬉しかった。
一瞬でもみょうじと
カップルになれてる感じがして』


「え、」


『……好きだ。
俺と、付き合ってほしい』



どくん、と心臓が音をたてた。

桜庭のことは嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
話しやすいし、気も合うから
一緒にいて楽しい。

友達からは何度も
付き合ってるんでしょ?とか
付き合えばいいのに、と
言われていた。

好き、という感覚が
分からなかったので
曖昧に答えていたけど。

どうしよう、なんて答えよう。


断る気はない。
でもこんな中途半端な気持ちで
付き合うことになったら
桜庭に失礼な気がする。

うまく回らない頭で
考えていたら
捕まれていた腕が離された。


『…いきなりこんなこと
言われても困るよな。
わりぃ、今の忘れて』


「え、いや、あの、」


『んじゃ、また明日な!
寝坊すんなよ!』


そう言って帰ろうとする桜庭。

今何か言わなかったら
今までみたいに話せなくなる。
そう思った私は少し遠い彼に
声を張って伝える。


「今度、試合見に行くから!」


『は?!だってお前さっき行きたくないって…』


「気が変わった!
桜庭のこと、もっと知りたいから!」


『!』


「桜庭が好きなことしてるとこ見たいの!
あと、明日もコンビニ行こう!
私が奢るから!
で、お互いのこともっと話そう!」


『みょうじ…』


「っじゃあ、またあした!」



ぽかん、とする桜庭をそのままに
私は家路へと走った。
顔が赤いのは叫んだからだ、と思うことにする。

早く、明日にならないかな。



<夏の終わりと春の始まり>

――――――

途中から完全に「誰だこれ」
と思いつつ書きました←
桜庭くんです。一応。
こんなことしてみたかったなー…(遠い目)


読んでくださってありがとうございました!